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芝生コートのキングの「最も甘い」勝利

ウィンブルドン初優勝は2003年、21歳の時だった。31歳間近になっての7回目の勝利は「最も甘い、そして最も偉大な勝利だった」とチューリヒの日刊紙ターゲス・アンツァイガー。「時間を逆に戻し、スポーツの法則に抗った」 Keystone

ロジャー・フェデラーが、約2年ぶりにテニス世界ランキング1位に返り咲いた。スイスの新聞の一面は、どこも「歴史的な」勝利を収めた、7月8日のウィンブルドン決勝のニュースで埋められた。もちろん、もうそれほど若くはない「テニスの神様」に向けた称賛の言葉であふれている。

「最も偉大」「トップに登りつめた」「不死」「ナンバーワン」「テニスのオリンポスに登りつめたフェデラー」「すべての夢を達成」。スポーツで、このような最上級の形容詞が雨のように降り注ぐことは、まれにしかみられないことだ。フェデラーはスコットランド出身のアンディ・マリーを4‐6、7‐5、6‐3、6‐4で下し、3年ぶりにウィンブルドンを制覇した。

 フェデラーにはこれまでも、ずっとこのような形容詞が使われてきた。「だが、今ほどこれらの言葉が最適なときはない。間もなく31歳になろうとしている二児の父親が 、思いもよらない展開でカムバックを果たしたのだから」と書くのは、ドイツ語圏の大衆紙ブリック(Blick)だ。

 ウィンブルドンでの勝利は通算7回目。グランドスラム達成は17回目を数える。そして、再び世界ランク1位に。フェデラーももうそろそろ終わりかと大勢の人が思っていたが、ウィンブルドンでは「そんな不安は一抹も感じさせなかった」とベルン州の日刊紙デア・ブント(Der Bund)とチューリヒ州の日刊紙ターゲス・アンツァイガー(Tages Anzeiger)はコメントし、「フェデラーはプレーに秀でているだけではなく、自分の体調管理の名マネージャーでもある」と評価する。

一時代の大成

 ターゲス・アンツァイガーによると、試合の約30分後に記者会見に現れたフェデラーはポーカーフェイスだった。「しかし、話が進むにつれ、深い喜びがにじみ出てきた。話が家族に及んだ時は、目に涙さえ浮かんだほどだ」

 妻のミルカさんは、双子の娘たちにフェデラーの試合を見せたいとずっと願ってきた。同紙のインタビューでフェデラーはそう語っている。「昨年バーゼルの大会で勝った時は、娘たちが来ていることを知らなかった。でも、今回はわかっていた。この特別な瞬間を家族全員で分かち合うことができたら、どんなにいいだろうと思っていた。ありきたりではないことだし、それがどんなに素晴らしいことかよく分かっていたから」

 7回目のウィンブルドン優勝をフェデラーのゴールデン時代の大成と位置付けるのは、チューリヒ州のもう一つの日刊紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(Neue Zürcher Zeitung)だ。「これまでにも多くのライバルから過去最高のテニスプレーヤーと評されてきたが、もしかしたらフェデラーのキャリアが、いかに特別なものかが本当にわかるのはこれからなのかもしれない」

 フェデラー自身もターゲス・アンツァイガーのインタビューで次のように語っている。「誰もが僕の衰退を一番に予測したがっていたのは分かっている。でも、そんな時期はこれでもう終わったと思う。マスコミも数年後、僕がまだプレーしていることをうれしく思うだろう。ちょうどアンドレ・アガシのときのように」

勝っても負けても

 フランス語圏ジュネーブ州の日刊紙ル・タン(Le temps)は、「この日曜日、フェデラーは可能性をまた大きく広げた」と書く。「確固とした才能が彼のテニスに与える影響はさらに広がり、その情熱は永遠なる若者の同義語ともなりうることを証明した」

 イタリア語圏ティチーノ州の日刊紙ラ・レジオーネ(La Regione)は、フェデラーの成功の秘密は「少年のように楽しくテニスをしたいという彼の望み」にあると言う。「どんな勝利の後にも、またやる気にあふれる。だが、どんな敗北も、それによってどんなに打ちのめされようとも、それがまた彼の大きな励ましとなる。これが大きな違いだ」

 これまでフェデラーがまだ手にしていないのは、シングルス戦でのオリンピック金メダルだ。今年はそのチャンスが訪れる。「一瞬、明日にでもオリンピックが始まってほしいと思うが、まずは気を落ち着かせ、休養を取ることが肝心。僕のフィジカルセラピストは、僕と一緒にもう90日間移動し続けている。だから言ったんだ。『ウィンブルドン、オリンピック、全米オープンでベストを尽くせるように、とにかくやってみよう』と。出だしは完ぺきだ。それに、当たり前のことだが、このような勝利はものすごく大きなモチベーションと満足感を与えてくれる」

 「彼の飢えは満たされることがない」と書くのは前出のブリック紙。「彼の自信は強大だ。スイスで生まれたこのスポーツメルヘンはこの先数年は続くだろう」

今回のウィンブルドン優勝でATP世界ランキング1位に再浮上。2位はセルビアのノバク・ジョコビッチ、3位はスペインのラファエル・ナダル。

フェデラーが1位の座を奪われたのは2010年6月初旬。2011年秋には4位まで下がった。

フェデラーの世界ランキング1位は通算286週で、アメリカのピート・サンプラスの最長記録と並ぶ。うち237週は連続。

グランドスラム通算17勝。

ウィンブルドン男子シングルス優勝7回で、イギリスのウィリアム・レンショー、サンプラスと並ぶ。決勝進出は8回で最多。

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