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カップ一杯でひと休み – カフェで頼むもの

クッキーやチョコレートが添えられて出てくることが多い swissinfo.ch

コーヒー、紅茶、緑茶。普段どんなものを飲むかは人によってまちまちだが、多くの人が飲むものや、一般的な喫茶店で人びとが何を注文しているのかを観察することで、その国の文化を知ることもできる。今日は、スイスのごく普通のカフェで注文する飲み物について書いてみたいと思う。

 私は旅が好きで、これまでに訪れた国の合計は35カ国にも及ぶ。その中で学んだことの一つが「現地の人が好んで飲むものを飲むほうがいい」である。たとえば、英国やパキスタンでは普段はコーヒー党でもミルクティーを試してみる価値があるし、イタリアではいつもカプチーノを飲むし、モロッコではミントティーに夢中になった。一般にヨーロッパ大陸では紅茶よりもコーヒーがポピュラーだが、これも小さなグラスに入ったギリシャのコーヒーから丼のように大きなカップに入ったフランスのカフェ・オ・レまで様々な楽しみ方がある。地元で一番愛されている飲み方は、その土地の多くの喫茶店が切磋琢磨するためか、他の土地で飲むよりはるかに美味しいのだ。

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 さて、スイスの話に戻ろう。ただし、私が住んでいるのは、スイスの東南、オーストリアやイタリアとの国境近くのグラウビュンデン州なので、その地域の話に限定する。

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 ここでの一般的な飲み物は、コーヒーである。レストランやカフェにはエスプレッソマシーンがある。アルプス山脈以北にある私の村の近辺はドイツ語圏で、単純に「コーヒー(Kaffee)をください」と注文すると、180cc前後のカップにエスプレッソマシーンで抽出されたコーヒーが出てくる。ポーションのクリームと砂糖が付いている。ポーションクリームではなくて、牛乳の入ったコーヒーを飲みたい時は「シャーレ(Schale)」と頼む。この言葉をドイツ語の辞書で調べると「お椀」という意味でしか載っていないことが多いが、ドイツ語「牛乳入りコーヒー(Milchkaffee)」のスイスドイツ式のいい方なのである。また、カプチーノ(Cappuccino)やエスプレッソ(Espresso)もどこでも普通に頼むことができる。

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 アルプスの向こう、イタリア語圏に行くと、コーヒーの種類はさらに増えて、ラッテ・マッキアート(Latte macchiato)のような、ドイツ語圏では洒落たカフェに行かないと頼めないものも普通に飲めるようになる。ただし、「シャーレをお願いします」と言っても、コーヒーに冷たい牛乳を入れたためにぬるくなってしまったものが出てくることがある。イタリア語圏ではカプチーノを頼む方が無難のようだ。

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 紅茶の方は、ドイツ語圏・イタリア語圏ともに、あまり選択肢がないことが多い。高級ホテルや紅茶専門店では、ダージリンやアール・グレイといった茶葉の種類を選べて、陶製のポットに入って提供されることもあるが、ごく普通のカフェでは、ガラスのコップにあまり熱くないお湯が入れられて、そこにティーバックが添えられていることが多い。紅茶をドイツ語でもイタリア語でも「黒い茶(Schwarzer Tee / Tè nero)」と言うのだが、黒いどころか紅いというほどの色にもならない薄いお茶が出来上がる。そういうわけで、日本では紅茶派だった私もコーヒーを選ぶことが多くなった。

 チョコレートの国、スイスで忘れてならないのはホットチョコレート(heisse Schokolade / Cioccolata calda)。ドイツ語圏、イタリア語圏ともに一般的なのは、温めた牛乳に粉末のチョコレートドリンクの素を入れて飲むスタイルだ。イタリア語圏では稀にイタリア式のホットチョコレートを頼めることもある。こちらは似ても似つかぬ飲み物で、板チョコを熱して溶かした状態を想像してもらうとわかりやすい。

 以上の飲み物は全て温かい状態で出てくる。真冬であろうと盛夏であろうと変わりない。日本だと喫茶店ではアイスコーヒーを注文できるが、このあたりの喫茶店では一度も見た事がない。ここ数年で、スーパーやキオスクでプラスチックカップに入ったアイスミルクコーヒーが買えるようになったが、それまでは冷たい状態のコーヒーを飲みたいと口にするとびっくりされたものだ。メニューに載っているからと「アイスカフェをください」と注文すると、出てくるのはアイスクリームにコーヒーがかかってパフェ状になっているか、シェイクのようになったデザートだ。

 アイスティーはもう少し一般的なのだが、喫茶店で注文しても市販の小さいペットボトルに入ったアイスティーがでてくる。この商品は香料と甘味が強く紅茶味の飴に近い味わいで、日本で飲むようなさっぱりしたアイスティーとは少しイメージが違う。

 コーヒー、紅茶、ホットチョコレートの一杯の値段は、どこにいってもほとんど変わらない。もちろん、例えばファーストフードとホテルで請求される値段には多少の差があるが、最高でも一杯5フランはしない。クッキーやチョコレートが一つ添えられていることが多い。外出をした時、誰かと待ち合わせた時、目についた素敵なカフェに入って「シャーレをお願いします」と注文する。メニューで値段を確認しなくても、ぎょっとするような請求をされる心配はまずない。道ゆく人を眺めながら一杯のコーヒーとゆったりした時間を楽しむことにしている。

ソリーヴァ江口葵

東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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