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依存から自己決定へ スイスのデジタルの未来

ダフィッド・ゾマー

スイスの非営利団体「デジタル・ソサエティ」は、スイスはデジタル主権の観点からデジタルインフラを再評価し、それに応じて調達方法を全般的に見直す必要があると主張している。欧州連合(EU)などのパートナーと協力し、国際的なテクノロジー企業へのデジタル依存から脱却すべきだと唱える。

読者は引っ越しの経験はあるだろうか。ITインフラの移転は、アパートからアパートへの引っ越しよりも複雑だ。というのも、マイクロソフトやアマゾンウェブサービス(AWS)、グーグルといった主に非欧州系大手国際テック企業が、建物だけでなく家財の大部分も掌握しているからだ。だがアパートの家具とは異なり、ソフトウェアやハードウェアは簡単に交換できない。簡単に代替品を提供できる店はなく、既存のIT機器は部屋にしっかり接続されている。

世界的テック企業への依存は、スイスのみならず他のヨーロッパ諸国においてもデジタル主権の欠如を浮き彫りにしている。価格が維持できなくなったり、サービスが廃止されたりすれば、政府も企業も窮地に陥る。

代替手段を見つけるのは難しい。ヨーロッパ製はもちろん、スイス製のソリューションやプロバイダーはあまりない。さらに、それらのサービスは巨大テック企業の既存インフラと互換性がないことも少なくない。だがこうした代替手段は、依存度が高く脅迫されやすいという脆弱ぜいじゃく性を軽減するためには欠かせない。またデータ主権を確保し、機密情報を第三者の影響やアクセスから保護することも重要だ。だがアメリカ製プロバイダーでは、データセンターが物理的にヨーロッパやスイス国内に置かれていても、米クラウド法によりクラウド内のすべてのデータへのアクセス権が法的に付与されているため、データ主権は保証されない。

こうした依存関係は、スイスだけでなくヨーロッパ全体にとってリスクが高い。万が一国際テック企業から圧力を受けた場合、ヨーロッパ経済は自律的に移転する能力を今のところ欠いている。十分なデジタル主権を確保していないからだ。

デジタル政策は権力政治

デジタル主権とは、地政学的危機が起きても社会が自らのデジタルインフラを運用し、適応させる能力と可能性を有することを意味する。これは政治的自己決定にとって不可欠なものだ。

スイスはデジタル主権の観点からデジタルインフラを再評価し、それに応じて調達方法を一貫して見直す必要がある。地政学的変化の時代には、力こそが正義だ。現ドイツ政権の連立協定に「デジタル政策は権力政治である」と明記されているのは、決して偶然ではない。

デジタル依存の危うさを如実に示す一例が、スイス連邦内閣(政府)がアメリカとの関税交渉においてデジタル税を導入しないと約束させられたことだ。米国政府は、マイクロソフト、グーグル、アマゾンといった企業への依存を意図的に利用し、スイスの意思決定プロセスに影響を与えた。 

もう1つの事例は、スイス連邦政府が2024年末にマイクロソフトのライセンス料として約1億5000万フランを直接支払うことを決定したことだ。依存度の高さがゆえに現実味のある選択肢はマイクロソフトしかなく、公開入札は実施されなかった。アップルは独占的地位を利用し、スイス企業のTwintなど競合他社によるデジタル決済手段外部リンクの提供を阻んでいる。

依存状態に陥る理由はさまざまだ。大手テック企業の製品は、複雑なインフラ環境に切れ目な統合できる優れたユーザーフレンドリーな機能を備える。また自社開発や運用よりも費用対効果が安く、それでいて包括的なサポートとサービスパッケージを提供している場合が多い。

だがこれにより、スイスは偏った依存に陥っている。社会がまっとうに機能するには、主権国家と強力な経済の両方が必要だ。スイスのような国からアメリカに対して、毎年巨額のライセンス料(例:マイクロソフト)やクラウドストレージ(例:アマゾン)が支払われている。推定では数百億ドルに上る。国内企業がそれだけの投資を逃しているということだ。さらに、巨大テック企業の独占は真の競争を阻害し、イノベーションを停滞させている。

ドラギ報告書外部リンクによると、ヨーロッパは現在、デジタル製品とサービスの80%を輸入に頼る。ヨーロッパのIT分野における競争力は不十分だ。EUは問題認識を強めており、フランスとドイツはすでに解決策に投資している。スイスは様子見している。

希望に沿ったインフラを

これらを踏まえると、柔軟で地域に適応可能なITインフラを促進すべきという結論が導かれる。だがシステム全体をスイス国内だけで構築することは現実的ではない。そのため、IT環境全体とそのサービスを適切にカバーするには、例えばEUとのパートナーシップが不可欠だ。ソフトウェアは、共同作業とオープンな環境によって効果的に開発できる。ソフトウェアのソースコードにオープンアクセスすることで、イノベーションとセキュリティが促進される。

このようなアプローチは、今日の市場を支配しているプロバイダーのクローズドシステムに代わる強力な選択肢となる。スイス企業は、オープンソースソフトウェアを地域のニーズに合わせて調整し、独立して運用できる。それはスイス国内の専門家育成とイノベーション促進につながる。

現在は民間企業が主権ITソリューションの開発に投資するインセンティブがほとんどなく、政府の関与が必要だ。スイスでは、的を絞った産業政策は長らくタブー視されてきたが、今やそれだけの価値はある。スイスは欧州と共にデジタル主権と経済の長期的な安定を確保するには、独立した柔軟なソリューションに的を絞って投資し、適切なインセンティブ制度を構築するしかない。

またスイスはこれらのITソリューションの開発・運用のために、熟練専門家を必要としている。官民を挙げて人材の育成しネットワークを築く責務がある。

最も緊急性の高い分野は明白で、機密性の高いデータ専用のクラウドインフラの構築が急がれる。また欧州のパートナーと提携し、マイクロソフト365に代わる業務ツール、(メール、カレンダー、ビデオチャットなど)を構築することも急務だ。

行動すべき時は今

私たちは、より自主的な決定を可能にする解決策とルールを見つけるために何をすべきかを知っている。非営利団体デジタル・ソサイエティ外部リンクでは以下のことを提案している。

  • リスクの特定と分析。スイスは、どの IT インフラが国家の存続に不可欠であるかという問いに対する答えを必要としており、その上で、主権と自主決定に基づく運用を可能にする、あるいは少なくともそれに対する法の支配を取り戻すデジタル ポリシーを必要としている
  • 主権ソリューションを提供する技術、製品、企業へのターゲットを絞った支援。またそれらを実現するための熟練した専門家の育成。
  • 政府の IT 調達の戦略的再編。州や基礎自治体でも、オープンソース ソフトウェアで提供されるものなど、オープンで交換可能なソフトウェアコンポーネントが優先される

スイスは、依存度が現状よりさらに高まる前に行動を起こすべきだ。長期的にスイスがデジタル競争力、安全性、自立性を維持するには、デジタルインフラを自主的に運用・構築するしかない。

編集:Benjamin von Wyl、独語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子

このオピニオン記事は筆者の見解であり、スイスインフォの見解を代表するものではありません。

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