ジュネーブのランシーにある国際民間防衛機構(ICDO)の本部
Alexey M., Wikimedia Commons
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スイス公共放送の調査で、ジュネーブに本部を置く国際民間防衛機構(ICDO)外部リンクの資金が、ロシアが運営する人道上のプロジェクトにほぼ独占的に使われていることが明らかになった。ロシアの地政学的な政治戦略の一環とされる。
組織犯罪・汚職報告プロジェクト(OCCRP)とフランス語圏のスイス公共放送RTSは21日、ICDOは本質的にロシアの利益に適っていると、共同で発表したレポート外部リンクで伝えた。
RTSはICDOの内部文書を入手。2019年度の報告書によると、ICDOは2014年~2018年にロシアから1億4千万フラン(約154億円)の資金を受け取った。資金はその後、ロシアが運営する人道上のプロジェクトに「ほぼ独占的に」使われた。そして、プロジェクトには、北朝鮮、ニカラグアへの消防車両の提供、キューバへの救援物資のほか、アブハジアやオセチアなどの新ロ分離派地域での活動が含まれているという。
ICDOは第二次世界大戦前に設立され、目的は「人命の保護と支援を確実にする構造の発展、自然や人災による資産や環境の保護に貢献すること」とされている。1976年からスイスで政府間組織IGOとしての法的地位が付与され、ジュネーブを本拠地としている。59カ国が加盟しているが、そのほとんどがアフリカやユーラシアの国・地域となっている。
ロシアの狙い
RTSの報道によると、ICDOのプロジェクトに関する決定は、ジュネーブではなく、「戦略的なパートナー」であるロシア民間防衛問題・非常事態・自然災害復旧省(EMERCOM)で行われているという。
帳簿に記載されたアルジェリア人事務総長の給与を含むICDOの高額な「管理費」は、国連の事務総長よりも高い月収2万6千フランとなっている。
ジュネーブ大学で国際機関を専門とするローレンス・ボワッソン・ドゥ・シャズールヌ法学部教授は、RTSに対し「おかしな状況だ」と語る。
「(加盟国が)60カ国未満かつ西洋諸国が入っておらず、単一国家による資金に依存しているということは、明らかにこの機関の普遍的な目的に疑問が投げかけられる」。「スイスを拠点にする国際機関として、世界でもユニークなケースだ」(シャズールヌ氏)
スイス外務省はRTSに対し、「(政府間組織としての)本部の合意の帰属性に反対しうる要素は察知していない」と述べている。しかし、政府委託監査の2016年の報告とICDO内での「透明性の欠如」を受け、スイスは2018年に年間15万フランの資金を引き下げた。
さらにRTSによると、UBSとジュネーブ州銀行は、ICDO内の慣行を懸念し、2020年初めにこの機関の口座を閉鎖し関係を断ち切っている。
また、連邦資金洗浄報告局(MROS)は、ICDOの活動について連絡を受け、ICDOの活動はそれ以来「深刻な妨害・麻痺」していると報じている。
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