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スイスの研究所が自己修復能力を持つポリマーを共同開発 

一筋の紫外線を照射するだけで自己修復するポリマー

(Institut Adolphe Merkle)

腕時計の表面や車のドアの表面に付いた傷が紫外線を当てただけで魔法のように消えていく。これはサイエンス・フィクションの話ではなく、スイスとアメリカの共同研究だ。

フリブール大学とアメリカの二つの研究所が、「金属配位性超分子ポリマー ( 重合体 ) 」をもとにした特殊な被覆材 ( ひふくざい )を開発した。これは紫外線に1分間弱当てただけで自己修復するポリマーだ 。

「現在は、まだ基本研究の段階にある。わたしたちは市場向けの製品そのものの開発をしているのではなく、商業化に向けた製品の素材を開発するためのコンセプトや方法を開発している。これがナノサイエンスを研究する当研究所のやり方だ」

とフリブール大学のアドルフ・メルクレ研究所 ( Adolphe Merkle Institute ) の所長クリストフ・ヴェダー氏は語る。 

 

 今回の開発を行ったのは、アドルフ・メルクレ研究所とアメリカのメリーランド州にあるアバディーン性能試験場 ( Aberdeen Proving Ground )の米軍研究所、そしてオハイオ州のケース・ウエスタン・リザーブ大学 ( Case Western Reserve University ) から成るチームだ。この研究結果は科学誌ネイチャー最新号に掲載された。

 米軍はこの新しい物質になぜ興味を示しているのだろうか?

「米軍が一体何に興味を持ってこのプロジェクトをサポートしているのか推測するつもりはない。しかし、関係者は基本研究に非常に深く関与している」

とポリマー化学・物質を専門とし、長年アメリカで研究を行ってきたヴェダー所長は明答を避けた。

今回開発された物質は、実用面において幅広く応用できるようになるかもしれない。タッチスクリーンに始まり、車、床、家具、マニキュア液など、表面が傷つきやすい日用品は多い。

皿の上のスパゲティ

 一般的にプラスチックは、皿の上のスパゲティのように、何千もの原子が長く絡まり合って鎖状になったポリマー分子からできている。プラスチックを熱すると溶けて形が崩れる。この過程は、分子の重量とその絡まり具合によってゆっくりと進行する。

 一方、金属配位性超分子ポリマーの分子は、プラスチックのポリマー分子の25分の1の大きさしかなく、金属イオンによって結びついている。それらの極小分子は軽量なため加熱によって素早く分解し、簡単に溶ける。しかし分子を冷却すると再び金属イオンが分子間を結合し、金属配位性超分子ポリマー本来の特性が回復する。

だが、こうした変化を起こそうと時計や携帯電話をオーブンに入れる必要はない。強力な紫外線を当てるだけで十分だ。 紫外線を金属配位性超分子ポリマーの傷のある部分に照射すると、分子構造に含まれる金属が紫外線を吸収し発熱する。そして照射された部分が溶けて傷を埋める。

 「歯医者でポリマー製の詰め物を形成するために使われているランプと同様のものを使用した」

 とヴェダー氏は説明する。

 溶解に必要とされる紫外線の量は通常の太陽光より多いため、快晴の日に戸外に置かれた金属配位性超分子ポリマーが溶け出すことはない。

熱い反応

 金属配位性超分子ポリマーが溶けてひびや傷を埋めていく際の温度は約200度にも達する。従って、全工程にかかる時間が1分以下で熱が局部に集中するとしても、火傷をする恐れがある。

 そのため研究チームは、ほかにも分子間を結合させる糊の役割を果たす金属があるかどうか調査している。また、それらの金属の分子の結合を分解するためには200度が必要かどうかも研究中だ。

 金属配位性超分子ポリマーが自己修復するためには、被覆材の厚さがどの程度必要かも研究を進めている。現時点では、非常に薄い層を使ったテストを行っている。

 「ずっと紫外線光を使ってきたが、紫外線がポリマーを突き抜ける深さを突き止めることは常に課題だった。紫外線は1センチメートル単位の厚さを突き抜けることはないだろう」

 とヴェダー氏は語る。

 紫外線で発生した熱は普通の光より深く突き抜けられると判明しているが、その程度はまだはっきりしていない。

 こうした不明点はあるが、科学界はこの研究を評価している。

 「これは精巧に変形させられる素材の研究だ。今までにない高分子物質の力と多様性を明らかにすることよって技術の可能性に取り組み、社会に貢献すると同時に、広く応用できる科学のコンセプトを作り出している」

 とアメリカ国立科学財団 ( US National Science Foundation ) の素材研究部でポリマープログラムの責任者を務めるアンドリュー・ロヴィンガー氏はこの研究の意義を語った。

ナノテクノロジー

ナノテクノロジーとは、ナノメートル ( nm ) の領域における技術のことである。1nmは、10億分の1mで、人間の髪の毛の約1万分の1の太さを示し、原子や小さな分子の大きさに値する単位である。ナノテクノロジーは、1nmから100nmまでの物質の特殊な性質を用いる技術である。

ナノメートルの領域で物質は、別の電磁性、および光学的な特徴を示す。ナノテクノロジーは、融点が下がるなど、ナノメートルの領域で起こる特性(物質の利点および欠点)を利用する技術である。

ナノテクノロジーの誕生において重要な役割を果したのが、スイス人科学者ハインリッヒ・ローラー博士である。ローラー博士は、ドイツ人のゲルト・ビニッヒ博士と共に「走査トンネル顕微鏡(STM)」を発明し、物質の原子構造を直接見ることを可能にした。チューリヒ州のIBMヨーロッパ研究所で研究をしていた両博士は、この研究の成果により1986年にノーベル物理学賞を受賞した。

ナノテクノロジーの活用

ナノメートルレベルで物質の構造を制御し、新たな部品や装置を創出する技術がテレコミュニケーション、医学、バイオ化学などのさまざまな分野で活用されており、ナノテクノロジーは、物質科学、バイオ科学、情報コミュニケーション技術などの分野から注目を集めている。

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ナノテクノロジーの活用

ナノメートルレベルで物質の構造を制御し、新たな部品や装置を創出する技術がテレコミュニケーション、医学、バイオ化学などのさまざまな分野で活用されており、ナノテクノロジーは、物質科学、バイオ科学、情報コミュニケーション技術などの分野から注目を集めている。

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ナノテクノロジーのリスク

ナノテクノロジーは、間違いなく研究価値のある分野である。しかし、ナノテクノロジーの可能性とリスクは、まだ十分に明らかにされていない。

ナノ粒子は、大変小さいため(100ナノメートル以下)、肺や血液を経由して生物の体内に入り込む可能性があり、コントロールされずに広く蔓延するリスクがある。例えば、化粧品に含まれたナノ粒子が肌に浸透し、体内に入り込む可能性もまだ研究途上である。さらに、塗料やニスなど、ナノ粒子が大量に製造された場合、環境に大きなリスクを与える可能性もある。

炭素原子60個からなるC60フラーレン ( fullerene ) という分子を使用した実験では、魚の脳に入り込んだ粒子が個体にダメージを与えたという結果が出た。

スイス連邦環境局は、連邦健康局や関係官庁、専門家と共に人体と環境に安全なナノ粒子の活用を促進し、対策を講じている。

2008年に連邦政府はナノ素材の合成物質の実行計画を承認した。待望の後続報告は2011年11月に発表予定。実行計画の総合的な目的はナノテクノロジーに関する規制枠組みの設立。

(出典:スイスワールドほか)

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2011 世界化学年 ( International Year of Chemistry 2011 )

世界化学年 ( IYC 2011 ) は、化学の業績、および人類の福祉に対する化学の貢献を祝う世界的な催し。

ユネスコ ( UNESCO )と国際純正応用化学連合 ( International Union of Pure and Applied Chemistry) が主催。

統一テーマ「化学、わたしたちの生活、私たちの未来 ( Chemistry – our life, our future ) 」のもと全年齢層に対し、教育的かつ相互作用的でエンターテイメント性のある一連の活動を提供する。また、地方、地域、国家レベルにおける一般参加の機会を世界中で提供する計画 。

( 出典: chemistry2011.org )

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( 英語からの翻訳、笠原浩美 ), swissinfo.ch

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デジタル化が可能にした山での暮らしとワークスタイル

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