スイスのCO2地中貯留計画 北海が候補に

産業の煙突から排出されるCO2を回収し、貯留することで、スイスは排出量を大幅に削減することができる © Keystone / Gaetan Bally

スイスの廃棄物焼却場では、煙突から排出されるCO2を分離回収し、海底に貯留する計画が進められている。緑の党には受けの良いアイディアだが、実現へのハードルは高い。

このコンテンツは 2020/08/13 08:30

「前の世代は、廃水を回収・浄化するための下水道システムを構築した。(...)我々は今、CO2を処理するために同様のネットワークを構築しなければならない」。スイス廃棄物処理プラント経営者協会(VBSA)は、シモネッタ・ソマルーガ連邦大統領に宛てた書簡の中でそう訴えている。フランス語圏のスイス公共放送(RTS)が発表した。

スイスはパリ条約の下、温室効果ガスの排出量を大幅に削減すると約束している。また欧州連合(EU)や他国と同じく、2050年までにゼロ・エミッション達成という目標を掲げている。CO2が濃縮された形で発生する廃棄物焼却場といった排出源でガスを回収し、大気中への放出を防ぐ方法は「生態学的にも経済的にも理にかなっている」とVBSAは主張する。

スイス南部のヴァレー(ヴァリス)州・モンティにあるサトム廃棄物焼却プラントのダニエル・バイリファール所長は「エネルギー革命の担い手になりたいと考えている」とswissinfo.chに語る。同プラントは、焼却炉にCO2分離装置の設置を予定している。スイス東部のグラールス州にあるリント廃棄物焼却プラントでも並行して行われるこのパイロットプロジェクトは、今後スイス全土で模範的な役割を担うかもしれない。

回収したCO2をどう処分?

スイスでは30基の焼却炉で年間約400万トンの廃棄物が処理される。そこから発生する温室効果ガスは、国の総排出量の約5%を占める。煙突から排出されるガスの半分は化石燃料由来(プラスチック廃棄物など)で、残り半分はバイオマス由来(木材、粗大ごみ、建設廃棄物など)だ。

バイリファール所長は、「バイオマスから発生するCO2、つまり自然界で分解されていれば発生したはずのガスも大気中から抽出するため、排出量の観点からはマイナスになる」と説明。しかし「回収したCO2をどう処分するか」という重大な問題が残されている。

唯一、実現可能な解決策は、CO2を長期間にわたり地殻に貯留することだとVBSAは考える。つまり深い地の底にガスを封じ込めるのだ。

スイスのCO2をジェノバ経由でノルウェーへ輸送

だが現状、スイスではCO2を確実に貯留する環境が整っていない。VBSAによると、まず地下の状態を詳細・体系的に分析する必要があるという。今後10年から20年には、深さ800~2500メートルにあるスイスの塩水帯水層にCO2を安全に貯蔵することが可能になると考えられる。それまでの候補地として有望視されているのが北欧だ。

ノルウェーは、既に1990年代末から北海下の古い天然ガス田から発生するCO2を分離回収している。2024年以降は他国のCO2も受け入れると表明。海の貯蔵能力は推定700億トンとされ、これは欧州連合(EU)の年間排出量の約20倍に相当する。

連邦工科大学チューリヒ校(ETH)のビジネスにおけるサステイナビリティ研究所(SUS.lab)が実現の可能性について行った調査によると、スイスの廃棄物から出るCO2をノルウェーに輸送する最も安価な方法はパイプラインだという。そしてこの輸送方法はモンティにあるサトム廃棄物焼却プラントにとって正に格好のチャンスだ。

「モンティ工場の数百メートル先には、2015年に閉鎖されたタモイルの旧製油所があり、何よりも今は使われていないローヌ石油パイプラインの出口がある」とバイリファール所長は説明する。これはヴァレー州と伊ジェノバ港を結ぶ全長242キロメートルのパイプラインだ。

「我々は、エネルギー革命の担い手になりたい」

ダニエル・バイリファール氏、サトム廃棄物焼却プラント所

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この方法を利用すれば、スイスのCO2はイタリアから船で北上して輸送できる。「輸出も視野に入れると、我々がスイス中のCO2を一括するハブになることも考えられる」(バイリファール所長)

2007年、ヴァレー(ヴァリス)州コロンベィで稼働していた石油会社タモイルの製油所 Keystone / Martin Ruetschi

政治的、技術的、財政的な課題

すでにスイス政府は支持を表明し、今後CO2排出量の分離回収と貯留が気候目標の達成に大きく貢献するだろうと強調している。

だがプロジェクト実現に向け、乗り越えなければならない障害は多い。まず政治レベルでは、「現在輸出が禁止されているCO2の回収・輸送を規制する法的ベースや国際協定が必要」と説明する。

技術的にも問題がある。既にノルウェー、アイルランド、ニュージーランドでは同様のパイロットプロジェクトが開始され、スイスでは2017年に大気中からCO2を除去してリサイクルできる世界初の工業プラントが稼働を始めた。だがその技術は「まだ成熟していない」とバイリファール所長は言う。「我々は4千万フラン(約46億円)の投資を計画している。間違いは許されない。確実性が必要だ」

最後に経済的な問題だ。現在、1トンのCO2を輸送・貯留するための価格は推算340フランで、財政的な持続可能性を保つには高すぎる。「セメント工場や化学工業が参加する可能性もある。CO2ネットワークにつながる工場が増えれば、価格は下がる」と同所長は見込む。

海洋生態系への脅威

カーボンニュートラルを達成するためには、大規模なCO2回収が不可欠だとVBSA会長のバスティアン・ジロッド国会議員(緑の党)は述べている。

緑の党は、政府目標より10年早い2040年にゼロ・エミッション達成を目指している。そのため消費削減、省エネ化、再生可能エネルギーの開発に加え、天然や技術的な炭素吸収源を作らなければならないと訴える。

「CO2の流出は海洋生態系を危機にさらすだろう」

ゲオルク・クリングラー氏、グリーンピース・スイス

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それに対し、自然保護団体グリーンピース・スイスのゲオルク・クリングラー氏は懐疑的だ。「地層に封じ込めたCO2が本当にそこに留まるかは証明されておらず、漏れ出すことも考えられる。CO2の流出は海洋生態系を危機にさらすだろう」とRTSのインタビューで警告している。

また、この技術は総じてエネルギーもコストも掛かりすぎると同団体は考える。今後も石炭や石油、ガスを燃やし続ける口実になる恐れもある。

バイリファール所長は、このCO2回収プロジェクトが化石燃料の消費削減にはつながらないと認識している。「化石燃料産業の土俵で相撲を取るのは本意ではないが、我々は現実的になる必要がある。エネルギー転換は一夜にして達成できるものではない。しかしCO2を回収し貯留することで、その移行を加速することはできる」

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