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スイスらしいエコ・イベント!「Bring- &Holtag(不用品交換会)」

ゴミ収集車の車庫の一部が会場となる(OltenのWerkhofより提供) swissinfo.ch

「エコ」、「お片づけ」、そして「無料」・・・これらのキーワードに反応してしまう私が、手帳に書き込んで毎年心待ちにしているイベントがある。日本のみなさまにも、ぜひご紹介したいと思う。「Bring- und Holtag(不用品交換会)」である。

 主催は、町のエネルギー環境保護委員会。会場は、町のゴミ収集場。金曜日の午後3時~7時「持ち込み」、そして翌日土曜日の午前10時~12時「受け取り」の2部構成。

 交換会と訳したが、何も持ち込まず、受け取りだけに参加することも可能だ。

ローカル新聞に載っていた、不用品交換会についての記事。環境保護のシンボルマークは、トンボ swissinfo.ch
  私は毎年、その日が近くなると家族に告知する。そして家中を見回し、要らないものがないかあれこれ物色し始める。

 交換会のルールによると、「廃棄物処理ではないので、汚いものや壊れたものは受け付けません」とある。「まだ使えるもの、もう要らないが捨てるには惜しいものを交換するイベントです。この機会をお見逃しなく!」

 持ち込めるものは食器類、おもちゃ、CD類、スポーツ用品(スキーグッズを除く)、書籍など。家具は、一つの辺の長さが1メートル以内の小さいもののみOK。持ち込めないのは大型家具、衣類、じゅうたん、カー用品など。

 さらに会場内には掲示板が設けてあり、大きいものはここに広告を貼って、もらい手を探すことができる。冷蔵庫、パソコン、ベビーカー、自転車など。

 物品の整理に手間どり(物品価値を高めるため、小物はビニール袋に入れる。こんなことしてるの私だけだろうな)、いつも金曜日の7時直前に慌てて持っていく。

 受付ではスタッフが、持ち込まれた品物の状態をチェックする。身分証明書の提示は求められない。つまり、この町の住民でなくても参加できる。

 スタッフは気さくで、「このお皿、素敵ね」なんて言ってくださる(もう要らないんだけど)。電化製品なら、実際にコンセントを差し込んで、動くかどうか見る。

 チェックを受けている間、私は毎回ドキドキ胸を高鳴らせている。せっかく処分すると決めたものを、つき返されたらどうしよう…!きっと誰かの役に立てると信じて持ってきたのに、否定されたらやっぱり悲しい。無事にぜんぶ受け取ってもらえると、心底ホッとする。

品物が並べられ、あとは開場を待つばかり(ローカル新聞Biboより提供) swissinfo.ch

 そして、翌朝。開場は10時なのだが、10時前に行くと長蛇の列なので、私たちはいつも9時半ごろ行く。土曜日だから、家族全員で並ぶ姿も見られる。車を周辺に停めてから並ぶ人も少なくない。みんな紙袋や買い物カートを手に持っている。

 10時にいよいよ、門が開かれる。と同時に、走り出す人が何人かいるのだ。なんといっても無料、それも早いもん勝ちだから!始めからお目当てのところに向かう人、入り口付近からじっくり見ていく人。中には、手当たり次第に次々と袋に放り込んでいく人もいる。とにかく要るものが決まっているなら、迷う暇などないのかもしれない。

 この町にも移民は多いから、経済的に苦しいのかなと思うが、だからって来場者の多くが外国人というわけではない。いや、彼らのほとんどがスイス人と見た。なんといってもこの交換会は、町の「エネルギー環境保護委員会」の主催だから。

 日本製品は日本人にあげるようにしているが、一度、日本の絵葉書を持ち込んだことがある。翌日、会場で偶然にも、ある女性がそれを手に取っている場面に出くわした。彼女はしばらく眺めた後、もらっていってくれたので、思わず声をかけたくなった。

 いや実際に、「これは僕が持ってきたんだ。とってもいいよ!こうやって使うんだよ・・・」と話しかけられたこともある。それは椅子で、私は実際に座って試していたのだった。結局もらっていかなかったが、勧めてくれた男性には申し訳ないと思ってしまった。

 金曜日に見回して、欲しいものがあると、翌朝の土曜日には張り切って行く。が、特に目ぼしいものが見当たらず、翌日には行かなかったこともあった。だって、あくまでも私の目的は断捨離なのだから。翌日にまたモノが増えてしまっては意味がない。無料だと思うと、ついつい手が伸びてしまうのは事実だけど。

 ある年の持ち込みの日、娘はミッキーのビート板を遠くから見つけた。翌朝は、早くから列に並んで、無事手に入れた。しかし1年間持っていても結局1度も使わず、1年後には、また持ち込んだのだった。

 スタッフもこう言うのだ、「気に入らなかったら、来年また持ってくればいいんだよ」と。

 ふだん一般ゴミを出すのは有料だから、捨てるより誰かにもらっていただいた方が節約できる。きっと欲しい人がいるだろうと信じて、金曜日に持ち込んだ後は、もう気にしない。なんせ始まって1時間もすれば、物品の8割は消えているのだ(ただし書籍だけは、いつも大量に残る。もう読まない本なら、古本屋に持ち込むほうがいい)。

中には、かなりレアなお宝級コレクション本も!!(ローカル新聞Biboより提供) swissinfo.ch

 不用品の大量処分にはフリマという手もあり、それなら臨時収入も期待できる。しかし、売れ残った時が厄介だ。せっかく意を決して整理したのに、売れなかったものはどう処分すればいいだろう?またどこかにしまい込むなんてことにもなりかねない。その点、この交換会は終了後、売れ残りはそのままゴミとして処分してもらえるから気が楽なのだ。

 実はふだんから、道端や家の前に「ご自由にどうぞ」と書かれたものはよく置いてある。有り難くいただいて帰り、よく洗って使っている。今までに椅子とテーブル、お皿やコップ等、手に入れた品は数え切れない。

 もちろん私も、「ご自由にお持ち下さい」と書いて不要品を出しておいたことも(半日ですべて消えました!)。

 しかし、この不要品交換会は年に1度のチャンスだと、気合を入れて家中を整理することができる。一気にスッキリするから私は好きなのだ。このイベントに合わせて家族のお尻もたたく(夫と娘の「がらくた」所持品の多さといったら!夫は聞く耳を持たないが、娘の部屋は私も手伝って、毎年大整理を行う)。

 この不用品交換会、スイスの各地で行われている。中には「婦人服限定」交換会もある。一年中どこかで開催されているので、あちこちに顔を出すのも面白いかもしれない。

婦人服の交換会。教会で行われた。写真は準備中 swissinfo.ch
開場後は、ものすごい人だかり。聖なる教会は異様な熱気に包まれた swissinfo.ch

 数年前、隣町の会に参加したことがある。バスに乗っていって持ち込むのは少々骨が折れた。そこは1日だけの開催で、当日の朝8時半~11時半が持ち込み、しかし受け取りは9時~12時、つまりそのまま受け取りへと突入するのである。二度足を運ばなくていいので、こちらのほうが楽かもしれない。

隣町の交換会。この写真は9時の受け取り。実は嵐の前の静けさだった(ローカル新聞Biboより提供) swissinfo.ch

 が、しかし。9時すぎに私が袋を抱えて入場すると、四方八方から「中に何が入っているの?」「それは何?」と話しかけられた。受付までたどり着いてチェックを受ける前に、すでに物品のほとんどはもらい手が見つかってしまったのである。うっかり袋を床に置こうものなら、すぐに消えてしまいそうな雰囲気だった。こうなると欲望がむき出しになり、ちょっと怖い。

 あくまでも環境保護が目的のイベントだから、穏やかに行いたいものだと思いつつ、会場を後にした。


平川郁世


プロフィール:平川郁世

神奈川県出身。イタリアのペルージャ外国人大学にて、語学と文化を学ぶ。結婚後はスコットランド滞在を経て、2006年末スイスに移住。バーゼル郊外でウォーキングに励み、風光明媚な風景を愛でつつ、この地に住む幸運を噛みしめている。一人娘に翻弄されながらも、日本語で文章を書くことはやめられず、フリーライターとして記事を執筆。2012年、ブログの一部を文芸社より「春香だより―父イタリア人、母日本人、イギリスで生まれ、スイスに育つ娘の【親バカ】育児記録」として出版。

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