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ティチーノで食いしんぼう万歳! ( スイスめぐり‐4- )

全ての部屋からは、広大に広がるブドウ畑と山の素晴らしい景色を楽しめる swissinfo.ch

スイスのイタリア語圏、ティチーノ州。ここに奥深く隠されている小さなホテルが、美味しい物とワインに目のない観光客の注目を浴びている。

ファットリア・ラ・モローザ ( Fattoria L’Amorosa ) は、この地域で最も大きいブドウ園の一つだ。自然の美しさと素朴な田園風景の中でゆっくりしたい観光客に素晴らしいプチ・ホテルを提供している。

 オーナー、アンジェロ・デレアさんがこの農家風のプチ・ホテルをどうして始めることになったのか、成り行きを語った。

ただの畑にしてしまうには美しすぎる

 そもそものきっかけは、1998年にワイン・ビジネスを拡大しようと考えたことだった。「この土地を5ヘクタール買った時は、ブドウとオリーブを栽培しようと思っていました」

 「ところがいざ、ここに立ってみると、あまりに眺めが素晴らしかったので、ただの畑にするのはもったいなくなったのです。ここに何か建物を建てて、私の顧客の方々に、この素晴らしい空気にどっぷりつかって頂こうと考えたのです」

 それから、5年の月日が経った。ファットリア・ラ・モローザはただのホテルでは飽き足らなくなった観光客を惹きつけて止まない。

 「アグリ・ツーリズムは比較的新しいトレンドですが、これはティチーノ州で始まったのですよ。だからここには数多くの農家風ホテルがありますが、ファットリア・ラ・モローザほど洗練されたものは珍しいのです」と語るのは、ティチーノ州観光局のミカエラ・フラスカリーニさんだ。

敵は多くの規制

 デレアさんは、以前はレストランを経営していた。しかし、イタリアのトスカーナ地方に多い、贅沢で個性豊かな農家風ホテルを見て、ファットリア・ラ・モローザでも同じようなものを作ってみたいと思ったと言う。

 「私はティチーノ州のアグリ・ツーリズムのレベルを引き上げたかったのです。全体的に見ると、まだまだ充分とは言えませんがね。ファットリア・ラ・モローザは、洗練性と素朴な田舎風の間の、ちょうどいいバランスを持てたと思っています」

 しかし、このプロジェクトが日の目を見るまでには、数々の官僚手続きのハードルを越えなければならなかった。

 「ティチーノ州の規制は非常に厳しいため、それをクリアーするのに必要な資金をかき集めるのが本当に大変でした。ファットリア・ラ・モローザのようなスタイルの所で休暇を楽しみたい観光客は沢山いるというのに、規制があれこれあって障害になったというのは全く残念なことです」

食事もワインも地元から

 ファットリア・ラ・モローザの客室は、古い屋敷から持ってこられた時代もののアンティークで飾られている。そしてロビーのラウンジでは、デレアさんの農園で作られた約20種類のワインを楽しむことができる。これらワインの60%はティチーノ州の名産、メルロー種で作られている。

 陽光あふれる青空の日には、朝食や昼食は部屋のテラスで取ることができる。目の前に広がるのは、どこまでも続くワイン畑と手入れの行き届いた丘陵だ。ブドウだけでなく、オリーブの木立やハーブ、野菜の農園も見える。

 ここのレストランのシェフ、アルベルト・ジアコネさんによると、レストランの食事は、3分の2がファットリア・ラ・モローザの農地で採れる食材が使われている。残りの3分の1も地元の専門の農家から仕入れている。

 ジアコネさんが腕をふるうのは、レストランのオープン・スペースだ。「大きなホテルで働くより、ファットリア・ラ・モローザの方がずっと働き甲斐があります。素晴らしい食事を作ることで、アグリ・ツーリズムを促進していると実感できますからね」

たゆまぬ努力でおいしいワイン

 ファットリア・ラ・モローザは大成功を収めているが、デレアさんの本業は昔と変わらず、ワイン作りだ。現在、彼は2万ヘクタールのブドウ畑を持っており、これはティチーノ州のワイン市場の1割にもなる。

 「私たちのブドウ畑のうち、主なものはメルローと呼ばれる種類です。また、これ以外にもカベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルドなども栽培しています」とデレアさんは説明する。「他の州でやっている栽培方法などもいろいろ取り入れながら、やっています」

 デレアさんが指をさした方向を見ると、テラスに沿った急斜面にもブドウの木がある。「あれは、ヴァレー州で取られているやり方です。ここでもやってみたら非常にうまくいきました」

 「この夏は暑くて乾燥していましたからね。100年に1度のワインの当たり年となるでしょう」

swissinfo、ヴァネッサ・モック ( ティチーノにて ) 遊佐弘美 ( ゆさ ひろみ ) 意訳

ファットリア・ラ・モローザはベリンツォーナ地方の西に1万5000ヘクタールの土地に広がるブドウ園。
1泊朝食付きで120フラン( 約1万1000円 ) から。
アンジェロ・デレアさんは、樫のたるに長い間寝かせたボルドー式のワイン生産に感銘を受け、1983年に自分のワイン会社を設立した。
ファットリア・ラ・モローザはスイス観光局が主催している「スイス・ワインと美味しい物ツアー」に含まれている。

メルローは、ティチーノ州で最もよく見られるブドウの種類。同州のブドウ総生産の7割を占める。他の種類は、シャルドネ、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨンなど。

ティチーノ州はスイスのワインの産地としては4番目に大きい。

1番生産が多いのはヴァレー州。この後に�Aヴォー州、�Bジュネーブ州、が続く。

緑豊かな農園や山村で長期滞在しながら、せわしない日常から離れてのんびり過ごすこと。欧州が発祥の地。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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