スイスの視点を10言語で

世界最急勾配の登山列車で、ピラトゥスへ

右手の山のてっぺんがエーゼル展望台、左手に見えるロープウェイが新しくなった「ドラゴンライド」 swissinfo.ch

秋晴れが続いた9月のある週末、世界一の急勾配を走る登山鉄道を利用し、中央スイスにある山、ピラトゥス(Pilatus 海抜2132m)を訪れた。今回は、古い伝説が残る、このピラトゥス山についてご紹介してみよう。

 ピラトゥス山へ向うには、いくつかのアプローチ方法がある。私が乗った登山列車を利用する場合は、湖畔の街アルプナッハシュタート(Alpnachstad 海抜436m)から乗車する。

 チューリヒ方面からアルプナッハシュタートまでは、ルツェルンを経由して行く。数年前には電車で出かけてみたのだが、今回はチューリヒ湖畔の自宅からアルプナッハシュタートまで車で向かった。

 列車を利用しない場合、反対側のフレックミュンテックから、クリエンス経由で、2015年に30年振りにリニューアルされた「ドラゴンライド」という名のロープウェイを乗り継いで山頂へと向う方法もある。

ピラトゥス鉄道の駅。赤い電車の車体が出発準備をしている姿が見える swissinfo.ch

 アルプナッハシュタートのピラトゥス鉄道駅に到着すると、小春日和の日曜日だった事もあり、観光客や行楽を楽しむ人々で周りは混雑していた。

 山頂の駅ピラトゥス・クルムまでの列車のチケットは、駅に着いてから購入すればよかろうとタカをくくっていたのだが、20分程並び、ようやく購入できた切符は、なんとその1時間後の列車。15分毎に発車する登山列車は車両も短いため、一度に乗れる人数に制限がある。

 ピラトゥス鉄道の開業は、1889年6月4日と歴史が長い。全長は4618m、高低差は1635mで、最大傾斜度は480パーミル(水平距離1000m当たり480m上る)と、世界一急勾配のラックレール登山鉄道だ。

登山列車がすれ違う場合、片方が一旦停車 swissinfo.ch

 いよいよ登山列車でピラトゥス・クルム駅(Pilatus Kulm)へと上って行く。

 列車の所要時間は、上りが約30分、下りが約40分。レトロな風貌の列車は、ガタガタ音をたてながら、どんどんと山の上へと上って行く。途中、進行方向に向かって右側には湖、左手には、ごつごつと突き出た山々の岩肌が間近に迫る。

急勾配を走る、登山列車 swissinfo.ch

 ピラトゥス・クルムに到着すると、眩しい太陽の下、イスに腰掛けて日光浴をしている人々がいた。駅を出たところにデッキチェアーが山積みにされ、自由に使えるようになっている。

のんびりと、太陽の下でリラックス! swissinfo.ch

 駅のそばに建つピラトゥス・クルムホテルのオープンテラスは、ランチや軽食を楽しむ人々で賑わっていた。民族衣装を身に着けた人達によるアルプホルンの演奏も披露され、ホルンの音色が辺りに響く。

 ピラトゥスの最高地点にあるトムリスホルン(Tomlishorn 2128m)の頂上へは、 表示に従って歩くと、約1時間。運が良いと、野生のシュタインボック(アルプスヤギ)やシャモワ(アルプスカモシカ)にも出会えるのだそうだ。

 前回は、上記のハイキングコースを進んだのだが、今回は麓での電車待ちに時間を費やしてしまった事もあり、ハイキングは諦め、近場でミニウォーキングをスタート。

 片道約15分で上れるオーバーハウプト展望台(Oberhaupt 2106m) や、エーゼル展望台(Esel 2118m)を目指して、カメラを片手に観光客に交じり歩いてみる。

 以前、同じ時期に出かけた時には、辺りには残雪があった。今年はその時の風景と比べてみると、周りに雪の気配は感じられなかった。

 まずはオーバーハウプト展望台へと上る。青々と美しいフィアヴァルトシュテッテ湖(ルツェルン湖)の景色は、何度眺めてみても感動のひと言だ。

 一度下り、次はもう一つの宿泊施設、ホテル・ベルビュー側からエーゼル展望台へと向う。

 人とすれ違うのがやっとの、狭くて急な山道の階段を上って行くと、少し息が切れ、足もガクガクとしてしまう。日頃の運動不足がこんな場面でたたってしまうとは!

 そんな自分とは正反対に、スイスの山に慣れた、幼稚園児くらいに見受けられる子供達が少々足場の悪い道も軽々と上って行くのに驚かされる。

 エーゼル展望台のてっぺんの三角地点に到着。距離はさほどではなかったものの、上り切った後の爽快感はこの上ない。フィアヴァルトシュテッテ湖と、反対側の切り立った険しい山々まで、ぐるりと360度の景色が一望できた。

数年前に訪れた際、同じ時期に撮影した1枚。雪が残るエーゼル展望台から眺めた、フィアヴァルトシュテッテ湖 swissinfo.ch

 展望台で景色を眺めていると、高山を飛ぶ鳥達がすぐそばまで近づいてくる。大自然に抱かれた気分をひしひしと感じ、「ここは、スイスなのだ」と実感する。

 展望台を下り、今度はピラトゥス・クルムホテルの裏手にある洞窟の中に入ってみる。山頂の岩山をくり抜いて作られたという500m程の道が続く洞窟は、「ドラゴンの道(Drachenweg)」と名付けられている。

昼ま/でも薄暗い、ピラトゥスの洞窟 swissinfo.ch

 この場所には、ドラゴン(竜)の伝説が残っている。登山列車をはじめ、ピラトゥスのロゴにドラゴンが描かれ、名称となっているのはそのためだ。

 伝説によるとその昔、ドラゴンはピラトゥスまで飛んできた。癒しの力を持つドラゴンがピラトゥス山の険しい裂け目や割れ目に住んでいたと考えられていたのだという。

 洞窟内を進み、突き当たると、断崖に面して登山道が続く。こんなに高い場所にある道でも、平らに整備されているところもスイスらしい。

下を見ると、足がすくみそうになる! swissinfo.ch

 先には、山を歩いて下りられる出口のようなゲートがある。雄大な自然に囲まれたトレッキングコースが広がり、多くの人々が山歩きを楽しんでいた。

2000m級の山をトレッキング! swissinfo.ch

 高所恐怖症の自分には、高い場所にある遊歩道を歩くだけでもかなりの勇気が必要だった。おそらくあんな高山での山歩きは、残念ながらチャレンジする機会は無いであろう。

 スイスの秋は日に日に深まり、間もなく厳しく長い冬がやって来る。雪が降り積もると、今度はこの山で、人々はスノーウォーキングをエンジョイする。

絶景を眺めながら、ハイキングをする人々 swissinfo.ch

 ピラトゥスと耳にすると、世界中からの旅行客が訪れる観光地のイメージも大きかったのだが、登山列車の中からも、ハイキングを楽しみしながら、山を上り下りする人々の姿を見かけた。ピラトゥス山は、地元の人々が大自然を満喫する場所でもあるのだ!

 編集部の諸事情により、今回の記事を持ちまして、自身の「もっと知りたい!スイス」へのブログ記事の投稿は最後となりました。約3年間の短い間ではございましたが、ご購読下さったみなさま、誠にありがとうございました。

スミス 香

福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。スイス在住13年目。最初の2年間をバーゼルで過ごし、その後は転居して、現在は同じドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。自身では2009年より、美しいスイスの自然と季節の移り変わり、人々の生活風景を綴る、個人のブログ「スイスの街角から」をチューリヒ湖畔より更新中。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部