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ガザの飢饉宣言は「西側諸国に行動促す」 ジェノサイド裁判への影響も

食料を求める人々
8月16日、ガザ地区北部のガザ市にあるコミュニティ・キッチンで、支援食料を手に入れようと奮闘するパレスチナ人たち Copyright 2025 The Associated Press. All Rights Reserved.

世界食糧計画(WFP)などの国連機関が22日、パレスチナ自治区ガザの一部に飢饉(ききん)が発生していると宣言した。人道支援の専門家たちは、宣言が短期的な問題解決にはならないとしても、国際社会や国際裁判への強い圧力になるとみる。

「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」を用いた分析で、ガザ地区北部で飢饉ききんが起きていることが宣言された。IPCは政府や国際支援機関が世界の飢餓レベルを分類する際に使用する。

ジュネーブ国際開発高等研究所(IHEID)のアン・サーブ教授(国際法)は、「IPCがガザでの飢饉を確認したのは重要ではあるが、驚きではない」と話す。

「問題は、それが誰にとって、どのように、いつ重要なのか、ということだ」。サーブ氏は、今まさに死にそうな人々にとっては重要ではないとみる。一方、「IPCが飢饉を確認することで、西側諸国政府は現実に起こっていることを否定しにくくなり、行動を促す。また説明責任を果たさせる点でも重要だ」と指摘する。

報告書は、ガザ市を含むガザ行政区で飢饉が起きている、と分析した。栄養不良により、5歳未満の子ども13万2000人の命が危険にさらされている。うち特に深刻なケースは4万1000人と、5月の前回分析の2倍に増えた。

報告書に対し、イスラエル外務省はガザで飢饉は起きていないと反発。「イスラム組織ハマスの虚偽のキャンペーンに合わせた捏造だ」を非難した。

3つの基準

ガザ地区全域の悲惨な人道的状況について、NGOや国連組織は繰り返し警告を発してきた。イスラエルは3月中旬、ガザへのすべての食料、援助、医療物資を6週間にわたって封鎖し、すでに壊滅的な状況にあった現地の状況をさらに悪化させた。

国際的な圧力の下、イスラエルは5月末にガザへの援助物資の流入を許可し、ガザ人道基金(GHF)を通じて援助物資を分配している。国連によると、これまでに約2000人のパレスチナ人が食糧を手に入れる途中で殺害された。

NGOや国連は6月以来、ガザに届く援助物資は住民の飢餓を回避するには到底足りないと警告してきた。

飢饉の宣言には①少なくとも20%の世帯が極度の食糧不足に見舞われている②少なくとも30%の子どもが急性栄養失調に苦しんでいる③人口1万人あたり毎日少なくとも大人2人または子ども4人が飢餓または栄養失調と疾病の複合により死亡している――の3点が満たされている必要がある。

IPCによる評価は2004年に導入された。およそ20の国連機関や援助機関が参加し、世界中の飢餓状況を評価する。IPCの尺度では、国・地域の食料安全保障を5段階に分けている。最悪なのはレベル5の「大惨事・飢饉」で、レベル4以下は「飢餓危機」という言葉が使われる。これまでは、ガザ全体がレベル4の「緊急事態」にあると評価されていた。

国連のトム・フレッチャー人道問題担当事務次長兼緊急援助調整官は22日の定例記者会見で、「私たちは繰り返し飢饉を警告してきたが、国際メディアはその目撃者として取材することを許されなかった」と述べた。

「これは2025年の飢饉だ。ドローンと史上最先端の軍事技術が監視する21世紀の飢饉だ。イスラエルの指導者たちが、戦争の武器として公然と推し進める飢饉だ」

報告書の発表前、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イスラエル軍がガザ市を占領することを確認した。NGOらは、これにより飢餓に苦しむ住民がさらに増えると批判する。

イスラエル国防相は22日、ハマスが武装解除と人質の解放に応じなければ、ガザ市を破壊すると述べた。

イスラエルは、22カ月で人質50人のうち20人しか生きていないとみている。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は22日、「占領国であるイスラエルには、住民の食糧・医療供給の確保など国際法上の明白な義務がある。私たちは、このような状況を平然と継続させてはならない」と述べた。

「もはや言い訳は許されない。行動を起こすべき時は明日ではなく、今なのだ。即時停戦、すべての人質の即時解放、完全で自由な人道的アクセスが必要だ」

法廷への影響力も

スイスインフォが取材した専門家らは、報告書はジェノサイド(大量虐殺)の罪で南アフリカがイスラエルを訴えた国際司法裁判所(ICJ)の裁判で援用される可能性があるとみる。

IHEIDのニコ・クリッシュ教授(国際法)は、「報告書が強調しているように、これは完全に人為的な飢饉であり、戦争と民族浄化の武器として意図的に押し付けられたものだ。飢餓は戦争犯罪であり、人道に対する犯罪であることは間違いなく、ガザで起きるジェノサイドの一部となっている」と指摘する。

イスラエル側はジェノサイドとの批判を繰り返し否定している。

IHEIDのサーブ氏は「戦争の武器としての飢餓は、ICC(国際刑事裁判所)でもICJでも重要な役割を果たす。飢饉が確認されたことは、これらの議論に力を与える」と話す。

ICJは2024年11月、ネタニヤフ首相と他のイスラエル高官2人に対し、人道に対する罪と戦争方法としての飢餓の責任を問う逮捕状を発行した。

編集:Imogen Foulkes/livm/ts、英語からのDeepL翻訳:ムートゥ朋子

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