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若い世代の大腸がんが増加 検診年齢の引き下げは有効か

大腸がん細胞の顕微鏡スクリーン。
大腸がん細胞の顕微鏡スクリーン。 Keystone / Laif Jens Gyarmaty

50歳未満の若い世代の大腸がんが世界的に増加する中、予防的検診の開始年齢を引き下げる国も出てきている。

世界では毎年約100万人が大腸がんで亡くなっている。世界保健機関(WHO)のデータ外部リンクによれば、大腸がんは2020年に世界で2番目に多いがん死因となった外部リンク。スイスでは男女共に3番目に多いがんで、毎年約4500人が大腸がんと診断され、約1600人が死亡している。日本では外部リンク男女とも2番目に多いがんで、罹患率・死亡率ともに世界的に高い水準にある。死亡率は1995年をピークに緩やかに減少しているが、低下速度は諸外国に比べて鈍い。

大腸がんは高い年齢層に多く、スイスでは2021年までの5年間で大腸がんと診断された人の86%が55歳以上だった。この年齢層の罹患率は近年多くの国で横ばいまたは減少傾向にあるが、一方で若い年齢層(50歳未満)の罹患率が著しく上昇している。

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米国外部リンクの50歳未満の罹患率は2012〜2021年に年間2.4%上昇した。カナダ外部リンクオーストラリア外部リンクニュージーランド外部リンクも過去20年間で急増外部リンクしている。日本では50歳未満・以上の両方で罹患率が上昇し続けているが、50歳未満の方が急速に増えている外部リンク(2009〜2015年の増加率4.7%)。

更に若い世代でも罹患率が上昇している。スイスでは1992〜96年の25~29歳男性の罹患者数は人口10万人あたり0.9人だったが、2017~21年は3.7人と4倍に増えた。30~34歳男性も1.6人から6.4人に増加した。女性も若い年齢層の罹患率は上昇しているが、男性よりも増加は緩やかだ。

フランス、ベルギー、ドイツ、イギリスなどでも1990〜2016年に20〜39歳の罹患率が大幅に上昇外部リンクし、その後も増加傾向が続いている外部リンク

鍵は早期発見

若い世代の大腸がんがなぜ増えているのか、理由はわかっていない。過去数十年で飲酒、喫煙、運動不足、食事(赤肉・加工肉の摂取や食物繊維不足)などのリスク要因が知られるようになったが、罹患率上昇の理由は十分に説明できない。

リスク要因が断定できず効果的な予防戦略を立てられないため、専門家らは早期発見に力を入れている。がんを早期に発見できれば治療しやすく、高い生存率が望める。米国やオーストラリアなど、検査開始年齢を既に引き下げた国もある。

大腸がんは大腸の粘膜上皮細胞から発生する悪性腫瘍で、良性の腫瘍性ポリープ(粘膜が隆起した状態)から始まることが多い。ポリープががん化するまでには数年かかるとされる。

大腸がん検診の主な検査方法は2種類ある。1つは便の中の血液の有無を調べる便潜血検査(検便)で、第1段階のスクリーニングに使われる。安価で非侵襲、かつ準備も最小限で患者の負担が少ない利点がある一方、非出血性のポリープを見逃す可能性があり、検査頻度は2年毎で比較的高い。ここで血液が検出された場合は第2段階の大腸内視鏡検査が行われる。

大腸内視鏡検査は大腸内部をより詳細に調べられる侵襲性の方法だ。細く柔らかいカメラで大腸全体を検査し、がん化する可能性のあるポリープを検査と同時に切除することもできる。高コストで検査前準備(食事制限、絶食、下剤の服用など)が必要だが精度は高い。検査頻度は通常10年毎。

がんが見つかった場合の治療方法はがんの進行度により異なる。早期がんの場合は通常手術のみか、あるいは術後に化学療法を行う。進行がんで他臓器に転移している場合には手術、化学療法、放射線治療の組み合わせが必要なこともある。

低い受診率

大腸がんの症状には便通変化、腹痛、血便などがあるが、早期の段階ではごくわずかまたは無症状のことが多いため、検診が極めて重要だ。

スイスのチューリヒ大学病院消化器・肝臓内科長ミハエル・シャール氏は「スクリーニングプログラムがあっても人々が受診しなければ意味がない」と話す。スイスの受診率は欧州ガイドライン外部リンクが推奨する65%よりはるかに低い。スイスは2013年から50〜69歳の大腸がん検診外部リンクを基礎保険対象に義務付けたが、2012年と2017年(入手可能な最新データ)の受診率はそれぞれ約40%、48%外部リンクで、目標には程遠かった。

検査費用と保険

検査費用は受診の大きな妨げとなっている。スイスでは便潜血検査に約50フラン(約9800円)、大腸内視鏡検査に約800〜2500フラン(約15万6800円〜49万円)かかる。実際に患者が支払う金額は、保険の適用範囲やその州が組織型検診(対象者や検診方法などを国や地方が一括管理する仕組み)を実施しているかどうかなどにより大きく異なる。高額な自己負担額や民間保険の未加入が受診率の低さと相関があるとする報告外部リンクもある。

日本では便潜血検査は費用を自治体が補助することが多く、自己負担は数百円で済む。大腸内視鏡検査は医師が必要と判断した場合には保険適用となる。費用は施設や検査方法・内容によって異なるが、予防目的などで保険適用外の場合でも2万〜3万円程度と、スイスよりかなり安い。

だが日本は組織型検診ではなく、検診の実施は自治体や健康保険組合に任されている。このため受診率の実態を正確に把握する方法がなく、データ取得方法によって10〜50%とばらつきがある。検査費用と受診率の関係も不明瞭だ。

基礎医療保険の適用対象はスイス連邦法の健康保険給付条例で定められ、以下のがん検診も基礎医療保険の対象となっている。乳がん検診=50歳以上の女性のマンモグラフィ(2年毎)、子宮頸がん検診=3年毎、大腸がん検診=50〜74歳の便潜血検査(2年毎)または大腸内視鏡検査(10年毎)。大腸がん検診の上限年齢は2025年に69歳から74歳に引き上げられた。

組織型検診を実施するかどうかは各州の判断に委ねられている。組織型検診では通常、検診対象者に案内状が送付される。スイスがん検診協会によれば、スイスの26州のうち15州が組織的な大腸がん検診を実施しており、3州が導入を計画中だ。残りの8州は機会型検診、つまり組織的な案内はなく医師の紹介によって個別に受診する方法を採用している。

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リスクの過小評価

人々のリスク認識の甘さも受診率が低い理由の1つと考えられる。60歳未満の受診率が低いのは、50〜59歳の年齢層が自身の罹患リスクを十分に低いと判断して検診を避けているからかもしれない。だが罹患リスクは年齢と共に高まり、この年齢層はスクリーニングによって前がん病変のポリープや早期がんが発見される可能性が格段に高まることが実証外部リンクされている。

検診の適切な開始年齢

検診の開始年齢を引き下げる国も出てきている。スイスでも現在の50歳から45歳に引き下げるべきだとする意見がある。チューリヒ大学病院のシャール氏らが約2800件の大腸内視鏡検査データを解析したところ、大腸がん・前がん病変の検出率は男女共に40〜49歳と50歳以上で同程度外部リンクだった。この結果は、より若い年齢層でスクリーニングプログラムを実施する必要性を示唆している。

今年6月までスイスがん検診協会の副理事長を務めていたフィリップ・グロックス氏は「スイスの政治家は予防・スクリーニングプログラムの推進活動にあまり関心がない」と指摘する。だが検診年齢を引き下げるよう基礎健康保険法を改正する動きも見られるという。「政治レベルで議論は始まっているが、まだ何も決まっていない」

米国予防医学専門委員会は2021年に更新したガイドライン外部リンクで、検診開始の推奨年齢を50歳から45歳に引き下げた。その結果、45〜49歳の受診率は21%(2019年)から34%(2023年)に伸びた外部リンク

欧州では検診開始を50歳としている国が大半を占める。オーストリアは2023年に45歳に引き下げた外部リンクが、医師の紹介がある場合に限られ、検診アクセスは地域や施設によって異なる。

日本「45~50歳も許容」

日本は大腸がん検診を開始した1992年以来、40歳以上を対象にしている。当時は高齢化に伴う医療費の膨張を抑える施策の1つとして40歳からの健康診断が導入され、これに合わせて各種がん検診も一律40歳が推奨された。

検診に科学的根拠を補強すべく、国立がん研究センターは2005年以降、各種がん検診のガイドラインを発行している。大腸がん検診のガイドライン外部リンクは2024年、19年ぶりに改訂。初めて推奨年齢について明記されたが、「検査対象は40歳から74歳を推奨するが、45歳または50歳開始も許容される」という幅のある表現となった。

同ガイドラインをとりまとめた国立がん研究センターがん対策研究所の細野覚代・検診評価研究室長によると、40歳代の罹患率は増えているとはいえ絶対数が少なく、「がんの早期発見」と「検診や精密検査に伴う患者への負担」とのバランスをどう評価するか、議論した医師の間でどうしても意見が収束しなかった。「がんの発見率など数値で明確な線引きがされているわけでもなく、どの考え方も正解と言える」。国としての推奨年齢は、厚生労働省の「がん検診のあり方に関する検討会」で今後議論されることになる。

スクリーニングの利益・不利益

スクリーニングは死亡率を下げるために実施されるが、偽陽性リスク、不要な処置、患者・医療制度のコスト増などの不利益も伴う。例えば、多くの国は過剰診断(進行せず症状も出ないものを疾患と診断すること)の懸念から乳がん検診の50歳未満への拡大に踏み切っていない外部リンク

日本の国立がん研究センターは、利益(死亡率の減少)と不利益(大腸がん1例を発見するために必要な検査件数,偽陽性,過剰診断など)のデータに基づき検診方法の有効性を総合的に評価外部リンクしている。同ガイドラインでは、便潜血検査は「利益はあるが不利益は中等度」で最も推奨される方法であり、大腸内視鏡検査は、検査性能・精度は高いが、集団全体の利益・不利益を評価するにはデータ不十分などの理由から「利益はあるが、証拠の信頼性は低く、不利益あり」で、「スクリーニングには用いないことを推奨する」としている。

チューリヒ大学病院のシャール氏は大腸内視鏡検査の性能の高さを強調する。「大腸内視鏡検査は科学的根拠に基づく、安全かつ精度の高い標準検査方法だ」

「大腸がんの約3割は見つかった時点で既にステージIVだ。この段階では生存率が劇的に下がり、5年生存率はわずか10〜15%しかない。だからこそ、症状がない段階で検診を行うことが重要だ。がんになる前に行うのが最も効果的だ」(シャール氏)

編集:Nerys Avery/vm/ts、英語からの翻訳・追加取材:佐藤寛子、校正・追記:ムートゥ朋子

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