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付加価値は「スイス」

ムートホルンに運ばれるバルサミコ酢は5年後、付加価値を付けて平地に戻ってくるはず Berg Marti

エーデルワイスをデザインした時計や小物、スイスアルプスのハーブを原料に使った化粧品、白十字の国旗をあしらったバッグ。スイスアーミーナイフを代表とするブランドとしての「スイス」を前面に出すことで成功したビジネスは枚挙にいとまが無い。

8月15日には、標高3000メートルにあるベルナーオーバーラントのムートホルン( Mutthorn ) へ、スイス産のバルサミコ酢が入った15個の樽がヘリコプターで運ばれる予定だ。

高級ブランド「スイス」

 標高3000メートルで熟成されたスイスのバルサミコ酢 「 46°29’N7°49’E 」は5年後に付加価値をたっぷりつけて平地に戻ってくると期待するのはチューリヒ州に本社を置く「ベルク・マルティ ( Baerg Marti ) 」の社長、シュテファン・マルティ氏だ。スイスで栽培される木イチゴ、ラズベリー、サクランボなどを原料とする6種類のバルサミコ酢を製造し、それぞれ産地名とその位置を表す経緯度や標高をラベル上に明記することで、商品価値を上げる商法を展開する。

 金融・経済危機の影響によりスイスも不景気の真っただ中にあるが、6月にザンクトガレン大学が主催した「スイス・ブランド09」では、消費者はいまでも高くとも良い品質の商品を買い続ける傾向にあることが、参加者の中でお互いに確認された。そのためスイス企業は、スイス製品の品質への信頼性を伝統として持ち続けることが肝心であるとも強調された。この会議に参加したコンサルタントのドミニック・フォン・マット氏は
「スイス人は性格として内向的だが、スイスをブランドとして利用したビジネスをさらに展開すべきである」
 と助言している。標高3000メートルのバルサミコ酢はまさに、こうした戦略に乗ったビジネスの1つだ。

自分の樽をスイスアルプスで

 バルサミコ酢を5年間寝かすのは、アルプス山脈のムートホルンに第2次世界大戦中に岩を掘って建設されたものの、使われずにあるスイス軍基地。気温が0度から18度の間を上下する貯蔵場所だ。夏になり暖かくなるとバルサミコ酢の醸造が進む。樽の中の温度が外気より高くなり、酢が樽を通して蒸発するため結晶となる。マルティ氏によると、バルサミコ酢の結晶は30グラムで200ユーロから300ユーロ ( 約2万7000円から4万円 ) になるという。投資のリターンは200%から300%になるとマルティ氏はそろばんを弾く。

 当初、ムートホルンを訪れる観光客向けに売り出す計画だったが、高所でバルサミコ酢を熟成する提案を知り合いの日本人にしたところ、口コミにより多方面から反響があったという。今回運び込む15個の樽のうち、6個は日本人の投資家たちが買ってくれた。8月末までに30リットル入りの樽100個が持ち込まれる予定で、ロシアやスイス国内からも投資者が集まっているという。
「ほかのどこにもない唯一のバルサミコ酢を自分のものとすることに魅力を感じるのだと思う」
 とマルティ氏は言う。

 バルサミコ酢といえばイタリアのモデナ産が有名で、「バルサミコ」は商標。モデナ式で製造されているとはいえスイスのバルサミコ酢の品質を疑う意見もあったが
「モデナ産とは違って、カラメルは一切使っていない。すべてスイス産のベリーや果物を使った自然の産物。品質を証明する化学分析リポートをいつでも開示できる」
 スイスの伝統的な商品ではなくとも、スイス・ブランドという付加価値があれば、商品は「売れる」とマルティ氏は確信する。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、swissinfo.ch

イタリア特産の酢。ブドウなどの果汁を醸造して造られる。熟成に年月をかけることでまろやかな味を出す。10年以上の年代物の値段は高く、一般家庭で使われることは少ないものの、スイスでは普及品を常備する家庭も増えた。黒い色を出すために、カラメルを使い、値段を抑えた汎用品も出回っている。主に、西洋料理でドレッシングや隠し味のほかデザートにも使われる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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