米ロ唯一の核軍縮条約・新STARTが5日失効、国際社会への影響は?
二大核保有国アメリカとロシアの間に唯一残っていた核軍縮の枠組み、新戦略兵器削減条約(新START)が5日、ついに失効する。これを機に新たな軍拡競争の到来を懸念する声も上がる。その理由を説明する。
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新戦略兵器削減条約(新START)とは?
新STARTは、米ロの二国間協定だ。2010年にバラク・オバマ大統領とドミトリー・メドベージェフ大統領が署名し、2011年に発効した。条約は、長距離核戦力の上限を定めている。 具体的には、この条約は両国が保有する「配備済み戦略核弾頭総数」を1550発、戦略核運搬手段総数を800発(うち配備済みは700発)に制限する。同条約は射程の長い戦略核に限られているため、ウラジーミル・プーチン大統領がウクライナでの使用を警告したような、一般的に威力が低く射程距離の短い、いわゆる「戦術」兵器は対象外だ。
新STARTは、冷戦最盛期には6万発を超えた米ロ両国の核弾頭総数の削減を目指したSALT(戦略兵器制限交渉)、START(第一次)、SORT(戦略攻撃力削減条約、モスクワ条約)といった一連の核軍縮条約・合意の流れをくむ。新STARTは2021年に失効する予定だったが、土壇場で5年間延長され、2026年2月4日までとなった。条約の条項では、これ以上の延長は認められていない。
失効は何を意味するのか?
新STARTは、世界の約1万2000発の核弾頭の約90%を保有する二大核保有国、米国とロシア間の唯一の条約だ。反核団体は、新STARTの失効によって両超大国間の軍拡競争の引き金になりかねないと懸念している。このような取り決めがなくなるのは、1972年以来初めてのことだからだ。
「代替の合意に向けた交渉が行われないまま、この条約が失効してしまうのは憂慮すべき事態だ」と、ジュネーブ拠点のNGO連合「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の政策ディレクター、アリシア・サンダース・ザクレ氏は話す。「米ロ間で新たな核軍拡競争が起これば、既に容認できないレベルにあるリスクをさらに高める」
1月27日、人類が滅亡するまでの残り時間を象徴的に示す「終末時計」が、昨年の89秒から4秒進み、過去最短の85秒となった。専門家は特に、ウクライナや中東などの紛争への核保有国の関与や、兵器の近代化をその理由に挙げている。
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新STARTは本当に遵守されていたのか?
部分的に遵守されていた。この条約は、現地査察や互いの核戦力に関するデータの交換を含む相互検証メカニズムを通じ、両国間の一定の透明性を確保することができた。2020年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、米ロの合意のもと、査察は中断された。
「アメリカ側は査察再開の準備ができていた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻と、その後米国の対ロ制裁により、両国の関係は悪化した」。ジュネーブ安全保障政策センター(GCSP)の准研究員で核軍縮の専門家であるマーク・フィノー氏はそう説明する。「2023年2月、ロシアは条項の遵守は継続しつつも、条約の一部の履行を停止することを決めた」
データ交換や相互訪問は再開されていないものの、どちらかの国が条約の定める上限を超えた兆候は見られない。
条約は更新できる?
再延長はできない。昨年9月、ロシアのプーチン大統領は、上限を1年間自主的に尊重することを提案したが、ドナルド・トランプ大統領は公式に反応しなかった。
理論上は新たな合意の交渉が可能だが、条件が整っているかどうかは不明だ。「ウクライナ問題、グリーンランドへの脅威、そして今、イラン問題が続いている状況を考えると、少なくともすぐには交渉再開に適した状況ではないことは明らかだ」と、フランスの核軍縮イニシアチブ(IDN)副会長も務めるマーク・フィノー氏は話す。「したがって、今後何が起こるかを予測するのは非常に困難だ」
トランプ氏は今年初め、米紙ニューヨーク・タイムズから核軍縮条約の行方について問われ「失効するなら失効する。より良い合意を結べばいいだけだ」と答えた。トランプ氏は中国を含む新たな条約を望んでいると示唆したが、中国は反対している。中国の核兵器保有量は増加しているとはいえ、米ロの約10%に過ぎないからだ。一方、ロシア側はNATO(北大西洋条約機構)加盟国であるフランスとイギリスも条約に含むべきだと主張しているが、両国は拒否している。
他の国際的な核条約はどうなっている?
米国、ロシア、そして他の3つの核保有国は、1968年の核兵器不拡散条約(NPT)の締約国であり、核軍縮に向けた努力を義務付けられている。
「新STARTの失効は非常に憂慮すべきことだ。しかし、だからといって米国とロシアは何の制限も受けなくなるわけではない。これらの国々は、失効期限のないNPTに縛られている」とサンダース・ザクレ氏は話す。
しかしNPTは、特に核兵器の削減に関して具体的な目標を定めていない。国際社会は2017年、NPTを補完する目的で核兵器禁止条約(TPNW)を創設した。
約100カ国が署名したこの条約は、核兵器の開発、実験、生産、保有、配備、使用、そしてその使用による威嚇を禁止している。特に核兵器保有国への圧力をかけることを目指すが、現在までに核保有国とその主要同盟国はいずれも批准していない。
日本はこの条約に署名も批准もしていない。被爆国である日本は条約の理念を共有しつつも、米国の「核の傘」に依存しているという安全保障上の理由や、核保有国が参加していないことを理由に挙げている。
「核兵器が1つでも存在する限り、使用リスクはなくならない。したがって、唯一の保証は核兵器の完全な廃絶であり、だからこそTPNWは非常に重要だ」(サンダース・ザクレ氏)
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編集:Virginie Mangin、仏語からの翻訳:宇田薫、校正:上原亜紀子
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