The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録

スイスが冒した「稀有なリスク」 平和サミットの舞台裏

スーツを着た男性の顔写真
ガブリエル・リュヒンガー氏は、ウクライナ平和サミットの仕切り役を務めた連邦外務省(EDA/DFAE)の実行委員会を率いた Keystone / Peter Schneider

世界中から100の代表団がスイス・ビュルゲンシュトックに集結した「ウクライナ平和サミット」。実行委員会トップとして参加国の招待や共同声明の草案作りを担ったスイス外務省のガブリエル・リュヒンガー氏が、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)とのインタビューで舞台裏を振り返った。

SRF:サミットの期間中臨機応変な対応が求められた場面はどのくらいあったか? 

ガブリエル・リュヒンガー:準備は万全だった。しかし、100を超える国・国際機関が招待されている以上、予測できないことが起こるのは当然だ。 

例えば、代表団の到着時間が変更されることは度々あった。参加登録していない代表団が現れたこともあった。突然、会場入口に現れたのだ! 

おすすめの記事

それは、どの国だったのか 

アフリカの、あまり事前連絡をしないカルチャーを持つ国々だ。私たちは急遽対応を迫られ、なんとか全員の滞在ホテルを見つけることができた。 

ウクライナのゼレンスキー大統領は、このサミットで歴史がつくられるだろうと語った。その一方で、平和に一歩も近づくことはできなかったという批判の声もある。あなたの意見は? 

ポジティブに捉えている。首脳や閣僚らを交えた最高レベルで、早い段階から和平案を策定するのは定石通りでないことは承知している。しかし、私たちは効果的に出発点を作ることができたと思う。和平案を練るプラットフォームの提供は、多くの国とウクライナがスイスに期待していたことでもある。サミットは成功したと、私は思う。 

おすすめの記事
スーツ姿の男性と女性が1列に並ぶ

おすすめの記事

スイスの平和サミット閉幕 総意得られずも「ウクライナに真の平和は近づく」

このコンテンツが公開されたのは、 スイスで開催されたウクライナ平和サミットでは、参加した約100カ国・国際機関のうち、84カ国が共同声明に署名した。しかし、スイスのヴィオラ・アムヘルト大統領は、ロシアがいつ、どのように関与すべきかについての合意を得ることはできなかったと認めた。

もっと読む スイスの平和サミット閉幕 総意得られずも「ウクライナに真の平和は近づく」

しかし、すべての参加国が共同声明に署名をするには至らなかった。落胆したか 

まったくしていない。共同声明が出せないことさえ覚悟していたくらいだ。もしそうだった場合、スイスは代替プランとして、議事要旨を発表して終わりにするつもりだった。 

私たちは直前までさまざまな国と交渉し、コンセンサスが得られるように(共同声明の)文章を調整した。そして、84の代表団が署名した共同声明を発表することができた。これは大きな成功であり、今後のプロセスにとっても非常に重要なことだと確信している。 

つまりサミット開幕時スイスはこの大規模なイベントが共同声明の署名にすら至らないようなものになる可能性も頭に入れておく必要があった、と? 

まったくその通りだ。スイスがこんなにもリスクを冒すのは稀だ。個人的には、スタート地点の不確実性にもかかわらず、勇気を持ってサミットを開催したことを誇りに思っている。 

今後はどうなるのか?すでに中国やロシアから反応はあったか? 

私はすでに中国と連絡を取り、会議の内容を伝え、対話を続けている。中国抜きの解決策はない。個人的には、彼らをビュルゲンシュトックに連れてくることができなかったことを非常に残念に思っている。この点は失敗だ。 

もちろんロシアとも、スイスはつながっている。私たちは今、プロセスを開始するための土台を提供した。ロシアを何らかの形で組み込まなければならないのは明らかだ。 

しかし、次のサミットがいつ、どこで行われるのかさえ明らかではない。 

欧州や西側諸国で開催されることはないだろう。我々はビュルゲンシュトックの場で、関心を持つ国々と話し合いを行った。あとは彼らが決めることだ。今後数週間のうちに何かが起こると私は思う。どのような展開になるかは、そのうちわかる。 

おすすめの記事
国旗を背に立つスーツ姿の男性と女性

おすすめの記事

ウクライナ平和サミットの功績 和平は見えずともスイスは望みを達成

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・ビュルゲンシュトックで開かれた平和サミットをどう評価するか。和平に関して言えば、その功績は非常に乏しい。それでもスイスとウクライナが勝利を収めた理由とは?

もっと読む ウクライナ平和サミットの功績 和平は見えずともスイスは望みを達成

ガブリエル・リュヒンガー氏は、ウクライナ平和サミットの仕切り役を務めた連邦外務省(EDA/DFAE)の実行委員会を率いた。 

独語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:ムートゥ朋子 

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

セメンヤ

おすすめの記事

欧州人権裁判所、スイスは「セメンヤさんの権利を侵害」

このコンテンツが公開されたのは、 欧州人権裁判所(ECHR)大法廷は10日、スイスが女子陸上五輪金メダリストのキャスター・セメンヤさん(南アフリカ)の権利を侵害したとする2023年の判決を支持した。

もっと読む 欧州人権裁判所、スイスは「セメンヤさんの権利を侵害」
スイス公共放送協会

おすすめの記事

スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も

このコンテンツが公開されたのは、 スイス放送協会(SRG SSR)は政府の予算削減を踏まえた組織再編計画を発表した。4言語圏の放送局のスポーツ、ドラマ、制作、配給、人事、財務、ITサービスなど各部門を縦割りで再編成する。

もっと読む スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も
財布

おすすめの記事

スイスでは現金のチップが主流

このコンテンツが公開されたのは、 スイスのレストランでクレジットカードやスマホ決済が普及しているが、チップは今も現金で払うのが主流だ。消費者の多くは、チップが確実にスタッフの手元に入るようことを重視している。

もっと読む スイスでは現金のチップが主流
プラタナス

おすすめの記事

プラタナス、猛暑でも冷却効果 スイスの研究

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの研究所が新たな研究結果を発表し、プラタナスは猛暑でも冷却効果を発揮することが分かった。樹木の冷却効果は30~35℃で限界に達するという既存の仮説を覆す結果が出た。

もっと読む プラタナス、猛暑でも冷却効果 スイスの研究
ひまわり畑

おすすめの記事

見えぬ障がい伝えるバッジ、試験配布開始 スイス連邦鉄道

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦鉄道(SBB)は17 日、目に見えない障がいを持つ乗客を対象としたヘルプマークの配布を試験的に開始した。外見からは分からなくても支援・配慮を必要としている人への理解を深めることを目的としている。

もっと読む 見えぬ障がい伝えるバッジ、試験配布開始 スイス連邦鉄道

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部