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歩くことで伝えたい - 大飯原発再稼働反対あじさいウォークに参加して

あじさいの花と使った主張のプラカード swissinfo.ch

7月6日金曜日、大飯原発再稼働への抗議を日本政府に伝えてもらうためにベルンにある日本大使館まで歩くあじさいウォークが開催されました。ベルン駅に集合した有志があじさいの花を持って大使館まで歩いていったのです。

 大飯原発の再稼働決定に抗議する日本の人たちの様子は、日本のマスコミを通してはほとんど伝わってきません。けれど、ヨーロッパのマスコミやFacebookなどSNSを通しての情報拡散で多くの人々がこの決定に対して抗議と反対の意思を表明しています。

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 世界のエネルギー政策に関しては様々な意見があります。それぞれの意見が尊重されてきちんと論議されて決定されるべきだとも思います。ただ、私はどのような政策でも、一番優先されるべきは安全性だと信じています。今回のあじさいウォークでも、主宰者「スイスから日本の原子力発電所再稼働を憂慮する有志一同」のみなさんによる抗議文に明記されていたのは原子力発電そのものの廃止要求ではなく、安全性をなおざりにしたまま再稼働を決定したことへの抗議と撤回の要求です。

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 大飯原発には、免震事務棟もフィルター付きベント装置も防波堤のかさ上げもなく、「100%安全」と言い切れる根拠はどこにもありません。それどころか研究により活断層があることもわかってきました。福島で実際に起こってしまった絵空事ではない悲劇にまったく学ぶ姿勢のない無責任な決定だと思いますが、今回のウォークはこれに対しての抗議なのです。

 この抗議行動のことを知ったのは7月4日でした。抗議活動には大賛成で署名を送ることもすぐに決めました。けれど、そこで考えました。送るだけ? そう、最初は自分が行くことは無理だと思っていました。金曜日は出勤日です。ベルンまではどんなに早く行けても三時間かかる。仕事に調整をつけて午後を休まなくてはなりませんはなりません。それでも私は行きたかったのです。

 普段感じていたのは、「私は遠くの安全な所にいるだけで何も出来ない」という無力感でした。被災地支援のための義援金を送ることはしました。けれど、現在日本で起こっている、あきらかに論理的でない決定に対しては口で意見は言っても、現実に解決に結びつくようなアクションは何も起こしていませんでした。それであじさいウォークに参加することを決めたのです。

 ベルン中央駅にはたくさんの人たちが集まっていて、大人も子供も、日本人もスイス人もみなそれぞれが色とりどりのあじさいの花を持っていました。職場を飛びだしてきたのであじさいを購入する時間がなかった私は、そういう人たちのためにご自宅の庭で端正に育てた花をたくさん抱えて来てくださった方のご厚意に甘える事になりました。

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 陽の差して来た構内で約60人の参加者は和やかに穏やかな表情で談笑していました。向かう先、日本大使館は、日本政府への窓口ですが敵ではありません。非暴力で、民主的に主張を伝えにいくのです。あじさいの花を持っていくことは、その平和行動の象徴です。

 署名者の多く、そして参加者の半数はスイス人でした。緑の党(die Grüne)やスイス・エネルギー基金(SES)通して、この抗議活動のことががスイス人にも配信されたためで、人々の日本の原発事情への関心の高さが伺えました。子供たちも進んで活動に参加していた事も印象的でした。

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 スイスでは福島原発の事故からわずか二ヶ月半で将来の原発ゼロが決定されました。日本のように三つのプレートの上に立っているわけでもなく、津波が来る可能性も限りなくゼロに近いにも関わらず、安全性を優先する決断をしたのです。ごく普通の市民と話すと、彼らがそのためにコストがかかる事も快適さを犠牲にする事も受け入れる覚悟を持っていることがわかります。福島の事故以来、既に身の安全が脅かされている当事者の日本で、同じような覚悟が市井に広がらず、無関心にすらみえる事を私はいつも不思議に思ってきました。

 ここ一ヶ月で日本の人々も変わったように見えます。一部の活動家だけがしていた行動に、一般の人たちが賛同して行動で示すようになった、それが本当の意味でのあじさい革命なのだと思っています。私も遠くにいても、何とか力になりたかったのです。こうやってベルンで歩く事は、そういう日本の同じ志を持つ人々に寄り添って一緒に歩く事と同じなのだと思っています。

 あじさいウォークの抗議活動は最後まで平和に行われました。警察も来ていたし、門の向こうにも大使館の方が待っていたのですが、警察の方とは笑って握手をするなど、終始穏やかにこちらの主張を伝える事が出来ました。主宰者の代表として山本まさとさんが抗議文を朗読し、署名を大使館員に手渡し、その後私たちは「大飯原発再稼働反対」のシュプレヒコールもしました。

 あるスイスの方が「サイカドウハンタイって正確にはどういう意味?」と訊いてきました。説明を聞くとなるほどと頷き、口の中で何度も噛み締めるように繰り返していました。

 抗議文と署名は大使館を通して外務省、ひいては官邸に届くでしょう。でも、これで終わりではないのです。自然災害は不可抗力で防ぎようがない事だと思います。けれど、第二のフクシマは絶対に作ってはならない、そう思います。そのためにスイスにいても出来る限りの支援をしていこう、そう思いを新たにした一日でした。

ソリーヴァ江口葵

東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。

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