ベルジェ委員会は1996年12月、未回収資産と第二次世界大戦時のスイスの役割を追究するため、連邦内閣により設置され、02年に報告書を発表した
Keystone-SDA
スイス最大手のUBS銀行の資料室には、第二次世界大戦中の行動に関する秘密がまだ残されている可能性がある――。過去にスイスの銀行と独ナチス政権とのつながりを調査した歴史家、マルク・ペルヌー氏は、再調査の必要性を強調する。
このコンテンツが公開されたのは、
ペルヌー氏はフランス語圏の大手紙ル・タン(7日付)インタビューで、「ベルジエ委員会は1996~2001年の5年間で、すべてに目を通すことができないほど多くの文書を発見した」と語った。
おすすめの記事
おすすめの記事
「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録
スイスの主要メディアが報じた日本関連ニュースを要約した記事を毎週月曜日に配信しています。ご登録いただいた方には記事配信と同時に全文をメールでお手元にお届けします。
もっと読む 「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録
ペルヌー氏のコメントは、UBSがナチス関連の口座について独立オンブズマンによる調査を進めるという報道を受けたものだ。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は4日、同行が2023年に買収したクレディ・スイス(CS)の顧客口座のなかに、1990年代に実施された調査では開示されなかったものがあると報じた。
WSJは、米国のニール・バロフスキー元米検察官が昨年12月に米上院に宛てて書いた書簡を入手。バロフスキー氏は21年、CSのナチス時代との関連を調査する独立オンブズマンとして任命されたが、後に解任された。
書簡によると、バロフスキー氏は当時「米国人ブラックリスト」と書かれた顧客口座のファイルを発見した。ナチス関係者との取引が疑われる口座の一覧で、過去の調査では秘匿された形跡があったという。
WSJによると、バロフスキー氏は1990年代にユダヤ人の休眠口座を調査したベルジエ、ボルカー両委員会の目には触れられなかった書類3600箱分を精査している。
バロフスキー氏はUBSによるCS買収後の23年12月、CSの独立オンブズマンに再任名された。
時間も協力もなく
ペルヌー氏は1990年代後半のベルジエ調査について、スイス連邦政府から委託された調査期限が2001年12月31日に迫っていたため、任務を完了させる「プレッシャーにさらされていた」とル・タンに語った。
時間だけでなく協力も欠けていた、と振り返る。「(情報の)隠蔽を疑ったケースもあったが、我々は知らされていなかったし、証拠も持っていなかった」
ペルヌー氏は、ベルジエ委員会は警察の査察官を派遣して検査することもできたが、「UBSのマイリ事件で証明されたように、文書が破棄される恐れがあった」と話した。1997年、UBSの前身スイス・ユニオン銀行がホロコースト時代の資産に関する文書を破棄していたことが、同行警備員だったクリストフ・マイリ氏の告発によって曝露された経緯がある。
「不完全な資料だった」
スイス連邦内閣(政府)・議会は1996年12月、ユダヤ人の休眠口座と第二次世界大戦中のスイスの役割を明らかにするため、ジャン・フランソワ・ベルジエ教授を長とする独立調査委員会を設置。02年3月に最終報告書が発表された。
おすすめの記事
おすすめの記事
スイスの中立性を探る「ベルジエ報告」から5年 ベルジエ教授にインタビュー
このコンテンツが公開されたのは、
1990年代半ば、米国のユダヤ人組織がホロコースト犠牲者が所有するスイスの休眠口座の預金の返還を求めて集団訴訟を起こした。スイスへの批判が高まり、スイス政府はジャン・フランソワ・ベルジエ教授が率いる独立専門委員会 ( ICE ) に調査を委託した。
もっと読む スイスの中立性を探る「ベルジエ報告」から5年 ベルジエ教授にインタビュー
これとは別に、スイス銀行協会や世界ユダヤ人賠償機構、世界ユダヤ人会議が1996年、元米連邦準備理事会(FRB)議長のポール・ボルカー氏をトップとする独立調査委員会を設置した。99年12月、スイス銀行にホロコースト時代に開設された口座が約680万口座あったとする報告書を発表した。
スイス政府はベルジエ、ボルカー両調査委員会のメンバーに文書閲覧権限を法的に保証した。文書を破棄したり入手不能にしたりすることを禁止する政令を発した。
だがペルヌー氏は、銀行からベルジエ委員会への文書提出には長い時間がかかったと明かした。
「例えば、UBSは調査の完了間際になって新たな顧客情報を寄越してきた。我々はその時初めて、1997年に受け取った資料が不完全だったことに気づいた。UBSの資料庫を調べ直さなければならない、これは不完全だ、と」
英語からのDeepL翻訳・追記:ムートゥ朋子
おすすめの記事
欧州人権裁判所、スイスは「セメンヤさんの権利を侵害」
このコンテンツが公開されたのは、
欧州人権裁判所(ECHR)大法廷は10日、スイスが女子陸上五輪金メダリストのキャスター・セメンヤさん(南アフリカ)の権利を侵害したとする2023年の判決を支持した。
もっと読む 欧州人権裁判所、スイスは「セメンヤさんの権利を侵害」
おすすめの記事
スイスの抗生物質開発企業、塩野義と研究・ライセンス契約を締結
このコンテンツが公開されたのは、
抗生物質の開発に特化するスイスの新興バイオ企業ビオヴェルシス(BioVersys)は2日、日本の塩野義製薬と共同研究・独占ライセンス契約を結んだと発表した。
もっと読む スイスの抗生物質開発企業、塩野義と研究・ライセンス契約を締結
おすすめの記事
スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も
このコンテンツが公開されたのは、
スイス放送協会(SRG SSR)は政府の予算削減を踏まえた組織再編計画を発表した。4言語圏の放送局のスポーツ、ドラマ、制作、配給、人事、財務、ITサービスなど各部門を縦割りで再編成する。
もっと読む スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も
おすすめの記事
スターリンクの衛星アンテナ設置に反対運動 スイス南部
このコンテンツが公開されたのは、
米宇宙企業SpaceX(スペースX)が運営する通信衛星「Starlink(スターリンク)」のアンテナ40基をスイス南部の村に設置する計画に対し、反対する声が上がっている。
もっと読む スターリンクの衛星アンテナ設置に反対運動 スイス南部
おすすめの記事
スイスでは現金のチップが主流
このコンテンツが公開されたのは、
スイスのレストランでクレジットカードやスマホ決済が普及しているが、チップは今も現金で払うのが主流だ。消費者の多くは、チップが確実にスタッフの手元に入るようことを重視している。
もっと読む スイスでは現金のチップが主流
おすすめの記事
プラタナス、猛暑でも冷却効果 スイスの研究
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの研究所が新たな研究結果を発表し、プラタナスは猛暑でも冷却効果を発揮することが分かった。樹木の冷却効果は30~35℃で限界に達するという既存の仮説を覆す結果が出た。
もっと読む プラタナス、猛暑でも冷却効果 スイスの研究
おすすめの記事
スイス国立銀行、政策金利ゼロに引き下げ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国立銀行(中銀、SNB)は19日、政策金利を0.25%引き下げて0%にすると発表した。
もっと読む スイス国立銀行、政策金利ゼロに引き下げ
おすすめの記事
欧州外相、ジュネーブでイラン外相と核協議へ
このコンテンツが公開されたのは、
メディア報道によると、ドイツ、フランス、英国の外相は20日、スイス・ジュネーブでイラン外相と核協議を行う見通しだ。
もっと読む 欧州外相、ジュネーブでイラン外相と核協議へ
おすすめの記事
スイス議会、超富裕層への相続税案を否決 対案なく国民投票へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス上院は17日、超富裕層の相続に相続税を課し環境保護の財源にする案を否決した。
もっと読む スイス議会、超富裕層への相続税案を否決 対案なく国民投票へ
おすすめの記事
見えぬ障がい伝えるバッジ、試験配布開始 スイス連邦鉄道
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦鉄道(SBB)は17 日、目に見えない障がいを持つ乗客を対象としたヘルプマークの配布を試験的に開始した。外見からは分からなくても支援・配慮を必要としている人への理解を深めることを目的としている。
もっと読む 見えぬ障がい伝えるバッジ、試験配布開始 スイス連邦鉄道
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。