長江のイルカを救え!
長江(揚子江)にだけ住む珍しいイルカが、絶滅の危機にひんしている。クジラの仲間で淡水に棲息するカワイルカの一種、ヨウスコウカワイルカをスイスの財団が救おうとしている。
スイスのバイジ・オルグ(baiji.org)財団は世界各国のイルカの専門家のネットワークを使い、ヨウスコウカワイルカの救済のために、調査隊を派遣することを中国政府に提案した。中国政府はヨウスコウカワイルカを1979年から第1種保護動物に指定し保護に当たっているが、スイスの救済プロジェクトを採用し、米国などとも協力することにした。
2万年前に太平洋から長江に移り住んできたヨウスコウカワイルカの歴史が今、終わりを迎えるかもしれない。ヨウスコウカワイルカは中国の長江のみに棲息する淡水のイルカだ。長江は全長6300キロメートルと世界で3番目、中国では最長の河川である。しかし河水は汚染され、川の生態系は大きく変化してしまった。
調査隊の派遣
30年程前には長江に波を打って泳いでいたヨウスコウカワイルカは5000頭に上ったというが、現在棲息するのは20頭から100頭と推測され、絶滅寸前の危機に立たされている。
バイジ・オルグ財団は今年3月、中国、米国、スイスから専門家が集まり、ヨウスコウカワイルカの調査隊を結成し、イルカ保護に動き出した。バイジ・オルグ財団はスイスに本部を置き資金もスイスの本部から調達される財団である。
バイジ・オルグの責任者でスイス人のアウグスト・プルーガー氏は「11月に調査隊が派遣されます。今回は、3艘の船を使って長江を往復しヨウスコウカワイルカの棲息地を調べますが、大掛かりな調査になるので、このほど事前調査をしました」と言う。事前調査では、陸水学(池や湖の生態系を調べる学問)、河川学、クジラとイルカの各専門家を招待し、長江の一部300キロメートルを船で移動し、ヨウスコウカワイルカの観察方法のレベルアップを図った。スイスからは、連邦工科大学の水質研究所(Eawag)の化学者、ベアート・ミューラー氏が参加した。
絶滅する前に引っ越しさせる
「もし、ヨウスコウカワイルカを1頭でも発見したら、保護地区になっている全長30キロメートルの古水路に移すつもりです」とプルーガー氏。中国政府は今後、湖北省内の長江が蛇行してできた湖をイルカの保護地区に指定する予定である。
「水の質が非常に問題です。保護地区の環境設定やその維持が、われわれ調査隊の最大の課題となるでしょう」とプルーガー氏は連邦工科大学の水質研究所「Eawag」の役割を強調する。Eawagは中国の専門家と共同で、常時イルカが棲息できるに足る水質の管理をすることになる。
長江は工場、農耕地、住居から排出される汚水が流れ込み、今後その水質が向上することはあまり望めない。汚染された水のほかヨウスコウカワイルカの天敵は多い。たとえば、長江を行き来する船だ。船の騒音で、ほとんど目の見えないヨウスコウカワイルカが方向感覚を失ってしまうのだ。病に侵されている長江の「健康が回復するまで」ヨウスコウカワイルカは保護地区に隔離されることになる。
長江の汚染度合い
長江では、ヨウスコウカワイルカだけが絶滅の危機にひんしているわけではない。セミクジラの一種も以前は7000頭確認されていたのが2000頭まで減少したことが確認された。現在セミクジラは、保護地区に保護され快適に過ごしており、繁殖さえもしている。ヨウスコウカワイルカにもそのチャンスを与えるのが、調査隊の第一の目標だ。
しかし、スイスのプロジェクトはヨウスコウカワイルカの保護に留まらない。「長江そのものの救済のための資料を中国政府に提供したい。長江は川沿いに住む4億人の人たちの生命の源でもあるから」とプルーガー氏は語る。
swissinfo、エティエン・シュトレーベル 佐藤夕美(さとうゆうみ)意訳
<ヨウスコウカワイルカ(Lipotes vexillifer)>
- 体長2〜2.5メートル
- 体重125〜167キログラム
- 寿命およそ30年。3〜4頭の群れを成す
絶滅の危機にある原因
長江での船の交通、漁獲(食用ではないが、他の魚を獲る際に網にかかる)、環境条件の悪化、三峡ダム建設で餌になる小魚が不足していることが挙げられる。
中国政府は1975年から保護対象動物に指定。切手の絵柄やマスコットとしてその存在をアピールしている。
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