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女性閣僚は増える?減る? スイス閣僚選出選挙を予測

クロード・ロンシャン氏と連邦議事堂
今回のコラムでは、今年12月の閣僚選出選挙での女性閣僚の当選数を予想。全七つの閣僚ポストのうち三つを女性に割り当てるよう求めた政治キャンペーン「ヘルヴェティアが呼ぶ!」が展開されているが、果たして要求は実現するだろうか? swissinfo.ch

スイス連邦議会では今年12月5日、連邦閣僚のヨハン・シュナイダー・アマン氏とドリス・ロイタルト氏の後任を選ぶ閣僚選出選挙が行われる。両氏は今年末に退任予定。今回の注目ポイントは、新閣僚に選ばれる女性の人数だ。

近年のスイス閣僚選出選挙では毎回、ドラマチックで独特な展開が起こっている。例えば2015年にはギー・パルムラン氏が当選し、国民党が二つの閣僚ポストを再び獲得した(各党については本文末尾の囲み枠参照)。そして17年にはイグナツィオ・カシス氏が選ばれ、少数言語のイタリア語圏から連邦閣僚が再び選出された。

そして今年は女性閣僚の当選人数に大きな注目が集まっている。

予想結果は?

国連が発表した各国の女性閣僚の割合ランキング(Women in Politics 2017 map)では、7人中2人の女性閣僚がいるスイスは185カ国中33位だった。

女性閣僚が1人だけなら115位で、3人いれば10位内に躍り出ていただろう。

「ヘルヴェティアが呼ぶ!」

超党派の政治キャンペーン「ヘルヴェティアが呼ぶ!」は、全七つの閣僚ポストのうち三つを女性に割り当てるよう求めている。運営主体は女性団体「アリアンスF」と政治団体「オペレーション・リベロ」。地位のある女性団体が、とりわけ前進的で勢いのある政治団体とタッグを組んだ形だ。

執筆者

クロード・ロンシャン氏は、スイスで最も経験豊富で声望の高い政治学者およびアナリストの一人。 調査機関「gfs.bern外部リンク」を設立後、定年まで所長を務める。現在も同機関の取締役会長。スイス・ドイツ語圏向けスイス公共放送(SRF)で30年間、国民投票と選挙のアナリストおよびコメンテーターとして活躍。

スイスインフォの直接民主制に関する特設ページ#DearDemocracyで毎月、2019年のスイス総選挙についてコラムを執筆。

ロンシャン氏の政治ブログ「Zoonpoliticon外部リンク」、歴史ブログ「Stadtwanderer外部リンク」 

「ヘルヴェティアが呼ぶ!」は、男性と女性の生活環境の違いを強調する。性別によって社会的、経済的な経験が異なることから、政治に対する考え方もそれぞれ異なるとする。

一方、保守的な女性たちは別の見方だ。単なる女性閣僚増員案は「ジェンダーに執着しすぎている」と、チューリヒ州政府閣僚に立候補するナタリー・リックリ氏(国民党)は話す。

決め手は選挙方法と時代精神

これまで選出された女性連邦閣僚の数が左派と右派とで開きがあることは驚きに値しない。 

・右派の国民党から選出された女性閣僚は1人もいない

・右派の急進民主党からはこれまで1人の女性閣僚が選出

・中道派のキリスト教民主党からは2人が選出

・左派の社会民主党からは3人が選出

(女性を含む)政治学者によれば、これには二つの原因がある。 

一つ目は多数代表制だ。国民議会(下院)では女性議員の割合は32%で、各州の州議会では平均28%。下院および州議会では大抵の選挙区が比例代表制だ。

一方、ほぼ全国的に多数代表制を取る州政府閣僚選挙では、女性の割合は21%と低い。そして全州議会(上院)では15%と下回る。

二つ目は時代精神だ。女性の政界進出が1971年以降に進んだ背景には、スイスの社会でリベラルな風潮が強まったことがあった。しかし2003年に急激な反動が起き、上院で女性議員の数が減少を続けた。そして15年以降は各州の州政府でこの傾向が一段と強まった。

閣僚と事務総長の集合写真
2017年、ソロトゥルンで撮影された連邦内閣の閣僚と事務総長(写真左)の集合写真。写真中央に写るのは女性閣僚のドリス・ロイタルト氏(左)とシモネッタ・ソマルーガ氏(右) Keystone/Peter Schneider

期待がかかる急進民主党

「ヘルヴェティアが呼ぶ!」は今度の閣僚選出選挙を見据え、メディアを通して急進民主党とキリスト教民主党に圧力をかけている。もし両党が女性を閣僚候補に擁立すれば、来年の連邦議会選挙で先手を打てる可能性は高い。

まず急進民主党だが、同党にはこれまで以上に期待がかかる。これには同党女性部も納得している。なぜなら急進民主党からは過去29年間で1人も女性の連邦閣僚が選出されていないからだ。今のところ、ザンクト・ガレン州出身のカリン・ケラー・ズッター上院議長が有力候補として注目されている。

候補者の選出プロセスと任命に関して、急進民主党には次の選択肢がある。 

・一つ目は、候補者にケラー・ズッター氏だけを擁立することだが、これだと連邦議会(上院および下院)が選べる候補者が限られてしまう

・そこで二つ目の選択肢は、女性2人を候補者に擁立することだ。これだと少なくとも女性1人の当選は確実だが、急進民主党にとっては次善の選択肢に過ぎないかもしれない

・三つめは男性と女性の両方を擁立すること。急進民主党は10年と17年にこの方法を選択したが、これでは今まで通り男性候補が当選する可能性もぬぐい切れない 

キリスト教民主党のダークホース

一方、キリスト教民主党は冷静に閣僚選出選挙に臨めるだろう。同党から選出された閣僚はこの12年間で女性のみだったからだ。それでも女性党員たちは女性2人の擁立を求めてすでに奔走しているが、党代表は「少なくとも女性1人」を指名推薦すると発言している。

閣僚選挙では初めに在任期間の長いドリス・ロイタルト氏の後任が選ばれる。もしそこでザンクト・ガレン州出身の男性が当選でもしたら、その男性は否応なしに女性からひんしゅくを買うだろう。そんな男性役を買うかもしれないのが、全ての州政府のトップである全国州政府会議の議長で、キリスト教民主党所属のベネディクト・ヴュルトゥ氏だ。同氏は同党女性部の希望を打ち砕くだけでなく、急進民主党のケラー・ズッター上院議長の当選を阻む可能性もある。

キリスト教民主党には二つの選択肢がある。一つは、それほど有力ではない男性候補者を擁立し、ケラー・ズッター氏の当選を確実にすること。もう一つは、「ザンクト・ガレン州出身者が2人選出されることは連邦議会にとっても喜ばしいことだ」とすぐにアピールを始めることだ。

予想はほぼ現状維持

個人的には、連邦内閣での女性閣僚数はこれまで通り2人になる可能性が最も高いとみる。ただし、新しい女性閣僚はキリスト教民主党からではなく急進民主党から誕生するだろう。そして「ヘルヴェティアが呼ぶ!」の要求は一部は受け入れられるが、一部は聞き流されることになるだろう。

スイスで連邦内閣を選ぶのは連邦議会であって、国民ではない。上下両院の女性議員は現在69人。これは全議員の28%に当たり、全連邦閣僚7人中女性閣僚2人という連邦内閣での女性閣僚の割合に相当する。

スイスの政党

SVP/UDC: 国民党(保守系右派)

SP/PS: 社会民主党(左派)

FDP/PLR: 急進民主党(リベラル右派)

CVP/PDC: キリスト教民主党(中道/右派)

GPS/Les Verts: 緑の党(左派)

GLP/PVL: 自由緑の党(中道)

BDP/PBD: 市民民主党(中道)

JUSO: 青年社会党(左派)

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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