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ネスレCEOを解任に追い込んだ内部通報システムとは

ローラン・フレイシェ氏
ネスレの元CEOローラン・フレイシェ氏は部下との恋愛関係そのものではなく、それを会社に報告しなかったために辞職に追い込まれた Keystone / Gaetan Bally

スイスの食品大手ネスレのローラン・フレイシェ氏は、「直属部下との恋愛関係」を理由に最高経営責任者(CEO)の地位を追われた。発覚のきかけは、内部告発ツールだった。

9月1日午後7時。ネスレ本社があるスイスのジャーナリストが基本の勤務時間外に受信したメールを見逃したとしても不思議ではない。それがフレイシュCEOの解任を発表するプレスリリースだった。

リリースのタイトルは「ネスレ取締役会、ローラン・フレイシェの解任に伴いフィリップ・ナブラチルをCEOに任命」というものだった。退任理由を説明したのは第2段落だ。

「ローラン・フレイシェの退任は、ネスレ企業行動規範が禁じる直属部下との未公表の恋愛関係についての調査を受けたもの」

ネスレ広報によると、フレイシェ氏が解雇されたのは部下との恋愛関係そのものではなく、ネスレの企業行動規範で義務付けられている報告を怠ったことが原因だという。同社は利益相反の報告を義務付けており、従業員には、従業員や会社の名声を傷つける可能性のある利益相反行為を報告することが義務付けられている。

メディア報道によると、フレイシェ氏は取締役会で当該関係の存在を否定した。だが2回目の社内調査で関係が証明されたため、事態をこじらせただけだった。

ネスレ広報はスイスインフォに「ネスレには強い価値観があり、上級管理職を含む全員がその価値観に従うことを期待している」と語った。

1986年にネスレのフランス支社に入社した後、執行役員として17年間にわたり欧州・米国・南米事業を率いたフレイシェ氏の輝かしいキャリアは、こうして幕を下ろした。

内部通報

しかしなぜ、フレイシェ氏と部下の関係が明るみに出ることになったのか?社内恋愛はそうそう隠し通せるものではない。いずれは社内の誰かに見つかるものだ。とはいえ、社内ゴシップが公式な苦情に至るまでには長い道のりがある。

そこで威力を発揮したのが、社内外苦情報告ツール「スピーク・アップ」だった。ネスレが2021年に導入したもので、従業員がグローバル・ホットラインを通じて内密・匿名で問題提起できるシステムだ。

2024年にネスレがスピーク・アップを通じて得た報告は3218件と、前年比12%増えた。ただ苦情が立証された例は7%減り、119件の従業員が解雇された。

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フレイシェ氏の軽率な行動が最初に上層部に指摘され、最終的にCEOの解任につながるプロセスが始まったのは、スピーク・アップを通じた苦情がきっかけだった。

ネスレ広報は次のように説明する。「2025年5月、スピーク・アップを通じて匿名の報告が提出された。情報を受け取った取締役会は直ちに対応した。最良のコーポレート・ガバナンス(企業統治)に則り、ネスレは独立した外部弁護士の協力を得て、厳格かつ徹底的な社内外の調査を実施した」

スピーク・アップは第三者機関が運営し、ネスレの企業ウェブサイトやQRコード、ウェブフォーム、専用電話からアクセスできる。

スピーク・アップに寄せられたすべての苦情は5営業日以内に認識される。第1段階として、地域のコンプライアンス担当者が苦情を精査し、事案を調査する。問題の機密性(スイスの執行役員または上級管理職が関与している場合など、11の優先基準がある)に応じて次の段階に進み、ネスレ本社のグループコンプライアンス部に引き渡される。

通常、調査が終了するまでに約90日かかるが、贈収賄や独占禁止法違反などの複雑な問題ではそれ以上かかることもある。調査後、懲戒処分を下すかどうかが決定され、その結果についての最終回答が申立人に通知される。 

編集:Balz Rigendinger/ts、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:

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