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薬の並行輸入は末端価格を下げるか

ほかの国と比べてスイス国内の医薬品価格が2倍近いという商品もある。並行輸入で価格は下がるのか。 Keystone

スイス国内では最近、パテントがまだ有効でオリジナルの医薬品を製造しているメーカーに使用料が支払われるような薬にも並行輸入を認めるように求める動きがある。医薬品メーカーと消費者団体はこうした薬の並行輸入に関して、いまだに意見が対立したままである。

消費者団体は並行輸入が解禁されれば、医薬品価格が下がると見込んでいるが、医薬品メーカーはまったく逆の意見。価格は下がらないばかりか、研究開発費を縮小しなければならなくなり、スイス国内経済にも影響があると主張している。

経済協力開発機構(OECD)の統計によると、スイスの医薬品の価格は他のほとんどの国に比べて、およそ4割高い。外国から直接、国内の卸を通さず商品輸入することを並行輸入という。スイスでは、国内におけるパテントの有効期限内にある薬の並行輸入は禁止されている。アイディアなどの所有権を登録して特許(パテント)を取るのが普通。パテントが切れた薬は、並行輸入が認められているにもかかわらず、実際は輸入のルートが確立されていない。このため、国内の消費者は高いお金を出して薬を買うことを強いられているとの認識が高い。一方で、並行輸入の全面的解禁が認められたとしても、全体の価格に与える影響は少ないだろうという意見が、医薬品メーカー協会(インターファルマ)が6月末に開催したセミナーの中で主張された。

スイス市場が危険にさらされている

 セミナーの中でインターファルマは、ロンドン大学付属「ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス」が発表した調査をもとに、並行輸入は輸入業者に利益をもたらすが、消費者や健康保険会社はその恩恵を受けないと主張した。

 大手医薬品会社のノバルティスの欧州・中東・アフリカ市場の担当主任であるシルビオ・ガブリエル氏は、「メーカーが大儲けをしているとか、価格を引き下げないなどということはない。研究開発費は年々上がっている。利益はこれに充てている」と言う。

 チューリヒ工科大学のベルント・シップス経済学部教授は「特にスイスはコスト高。減益となればスイスから他の国へ研究開発所を移転しなければならなくなるだろう」と並行輸入が認められれば、スイス経済に悪い影響を与えるだろうとの意見である。

意見は対立したまま

 並行輸入の是非については、さまざまな意見が対立している。消費者団体は政府に対し、欧州連合(EU)との並行輸入を簡単にできるようにする協定を結ぶよう要求している。EU諸国間では、薬が登録されていれば並行輸入は認められている。

 「医療費が年々高くなっているのは、より高い薬を医者がどんどん処方するからである」と消費者保護基金のジャックリン・バハマン氏。バハマン氏はEU諸国からの並行輸入が医療コストを大幅に下げると確信している。「市場が価格を決めるのだから、並行輸入された薬は価格が通常のものより安くなるはずだ。並行輸入を政府が認めさえすれば、必ず薬の価格は下がる」という。「儲けたお金は研究開発費に充てるとメーカーは言うが、ライセンス料金で十分賄えるのではないか」。高い研究開発費を理由に並行輸入の禁止を主張するのは納得がいかないと同氏は反論している。

スイス国際放送 イソベル・レイボルト−ジョンソン (佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳) 

パテントが有効な医薬品の並行輸入は禁止されている。
パテントが有効な医薬品は市場の6割を占める。
パテント期限が過ぎたものについては並行輸入は認められている。
他国と比較してスイスの薬価格は最高2倍高い。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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