The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録

後発薬市場、トランプ関税に戦々恐々

店頭の薬剤師
顧客にジェネリック医薬品を勧めるフランス人薬剤師 Keystone / Photononstop / Philippe Turpin

ドナルド・トランプ米大統領が導入を検討する医薬品への輸入関税は、ジェネリック医薬品(後発薬)の価格上昇や市場撤退を招くとの懸念が高まっている。特に米国自身や医薬品価格の低い地域で影響が大きそうだ。

おすすめの記事

後発薬は今や医療の重要な支柱だ。世界で発行された処方箋の大半はジェネリックで、感染症から心血管疾患まで幅広い普通・慢性疾患の治療に欠かせない存在だ。

だがその手頃な価格には代償が伴う。ジェネリックメーカーの利益率は極めて低く、複雑なサプライチェーンに依拠する。外的ショックに対して脆弱だ。

新たな関税の導入は国内生産を促進し、外国依存を減らす可能性がある。一方でコストを押し上げ、一部のメーカーが主要市場から駆逐されるリスクもある戦略だとの指摘外部リンクも挙がる。

ジェネリック業界にとって、関税は製造中止や欠品をもたらす可能性がある――医薬品の品質基準を定める非営利団体、米国薬局方協会(USP)のRonald Piervincenzi最高経営責任者(CEO)は4月に製薬メディア「Fierce Pharma」のインタビューでこう語った。「関税が実際に生産移転を促すインセンティブになるのかどうかは分からない。むしろ別の製品を生産したり、別の市場向けに購入したりするインセンティブになるだけだろう」

今のところ、医薬品は米国の新たな関税の対象から除外されている。だがそれも長くないかもしれない。

ドナルド・トランプ米大統領は医薬品輸入を標的にする意向を再三示している。米商務省は4月に医薬品輸入が国家安全保障上のリスクとなるかどうか調査を開始した。調査結果の発表までには最大9カ月の猶予があるが、ハワード・ラトニック商務長官は25%以上と予想される関税は結論を待たずに導入される可能性がある。現時点では、後発薬が先発薬とは異なる扱いを受けることを示す兆候はない。

アジア依存

後発薬の安さの背景には、サプライチェーンのアジア依存の高さにある。米国の関税政策は、国内生産を奨励しアジア依存から脱却する狙いがある。

薬局のバックヤード
インド・ニューデリーで、顧客のために後発薬の在庫を調べる従業員。インドは「発展途上国の薬局」という異名を持つ PRAKASH SINGH / AFP

複数の推計で、中国だけで世界の医薬品有効成分(API、医薬品に治療効果をもたらす必須成分)の8割を生産している。世界保健機関(WHO)が推奨する必須ジェネリックのうち少なくとも3品目は、世界のAPI生産を中国が独占している。

欧州では後発薬に使用される原薬の約8割と、完成品の4割が中国またはインドで生産されている。米国では国内市場向けのジェネリック原薬の生産施設の約9割が、完成品の生産施設の約3分の2が海外にある(2021年)。 米国が中国から直接輸入するAPIの比率は16%だが、間接的な依存度はさらに高い。米国で販売される後発薬完成品の約4割はインド製だが、インドはAPIの最大8割を中国から調達する。

外部リンクへ移動

一部の製品は、このグローバルサプライチェーンに強く依存する。推定では米国の病院・救急医療で使用されている滅菌注射用ジェネリック医薬品の90~95%は、中国やインド産の原材料または有効成分に依存している。

新たな関税が課されれば、先発薬も含めて医薬品供給がさらに不安定になるリスクがある。人材・資金的には余裕があるはずの大手医薬品メーカーも、警鐘を鳴らしている。米ジョンソン・エンド・ジョンソンのホアキン・デュアトCEOは4月の決算会見で「関税はサプライチェーンに混乱を生じさせ、品不足につながる可能性がある」と訴えた。

価格圧力

米アクセスしやすい医薬品協会(AAM、旧ジェネリック医薬品協会)によると、米国で2023年に処方された医薬品のうち、後発薬とバイオシミラー(承認済み治療薬とほぼ同じ生物学的医薬品)は件数では9割を占めたが、医薬品支出総額に占める割合は13.1%にすぎなかった。これにより、米国は医療費を4450億ドル(約64兆円)以上節約した計算だ。

だがこの節約効果にも暗雲がたれ込める。米国が医薬品に輸入関税を課した場合、国内の医薬品価格が上昇すると予想する声が多い。その影響は医薬品市場全体に及ぶが、特に後発薬は大きな打撃を受ける可能性がある。後発薬はもともと利益率が低く、コスト上昇を吸収しきれないためだ。

オランダの銀行INGは25%の関税が米国で後発がん治療薬の24週間分処方費用を8千~1万ドル押し上げると試算する。INGの医薬品・ヘルスケア部門のグローバル責任者、スティーブン・ファレリー氏は、保険未加入者が最も大きな打撃を受けるが、その他の人々も保険料の上昇に見舞われる可能性があると警告する。

一方、英ブラッドフォード大学薬学部・医学部のジョナサン・シルコック准教授は、米国やスイスのように既に価格が高く製薬業の盛んな国々よりも、後発薬が安い地域で製薬会社が値上げする可能性が高いとみる。

スイスは後発薬の使用率が上がってはいるものの、他の欧州諸国に比べると依然として低い。2023年の後発薬比率はわずか23%と、経済協力開発機構(OECD)平均の54%を大きく下回った。ドイツや英国では8割に上る。他の欧州諸国では後発薬価格がスイスより平均45.5%安いことが背景にある。

これらの要素を踏まえると、米関税がスイスの後発薬市場に与える影響は比較的小さく済む公算が大きい。

外部リンクへ移動

政治的な選択

トランプ氏の関税方針を受けて、スイスのロシュやノバルティスなど複数の製薬大手が米国工場の新設など巨額投資を発表した。完成には数年かかるものの、将来の潜在的な関税から企業を守り、米国の産業政策との整合性を示す狙いがある。

だが後発薬メーカーにとってそれはハードルの高い戦略だ。サンド(本社・バーゼル)のような企業は、先発薬を最大95%下回る価格で後発薬を販売しており、関税による追加コストを吸収する余地はほぼ皆無だ。

キューネ・ロジスティクス大学の医療・医薬品サプライチェーンマネジメント助教授、イヴァン・ルゴボイ氏は「新工場の建設には少なくとも3~5年かかり、規制当局の承認を得るのにも1~2年かかる」と指摘する。「長期投資となり、リターンは不確実だ。ホスト国が明確で確実なコミットメントを示さない限り、他の製薬会社に比べて資金力の低い後発薬メーカーは決断できない」

コスト上昇に直面する後発薬メーカーは、特定の製品の販売を中止する方が現実的だと判断する可能性がある。2023年にノバルティスから分社化したサンドのリチャード・セイナーCEOは4月、大幅な関税が課されれば米国市場から一部製品を撤退せざるを得なくなると警告した。「関税が米国への投資拡大を促すことは絶対にないだろう」

編集:Virginie Mangin/sb、英語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子

SWI swissinfo.ch日本語編集部では和訳の一部にDeepLやGoogle 翻訳などの自動翻訳ツールを使用しています。自動翻訳された記事(記事末に明記)は、日本語編集部が誤訳の有無を確認し、より分かりやすい文章に校正しています。原文は社内の編集者・校正者の確認を受けています。 

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部