UMTSアンテナを巡る論争
第3世代携帯電話(3G)の普及が待たれる一方で、これに対応した移動体通信システム(UMTS)用のアンテナの設置と人体に与える影響を懸念する住民との対立が顕著になっている。
アンテナが人体に悪影響をもたらすかどうかを証明することは難しい。また、電波防護対策にかかる住民の金銭的負担も大きい。
2004年に入って第3世代携帯電話(3G)が急速に本格化した。欧州の3Gに対応する移動体通信システム(UMTS)がスイスでもやっと普及し、消費者は高速なデータ通信やマルチメディアを利用した各種のサービスが受けられるようになった。一方で、全国どこでも3Gに対応できるように、新規にアンテナが設置され続けている。この傾向はスイスのみならず欧州全域にわたっており、現在「アンテナの森」ができつつあると言われる。
アンテナの乱立に反対する住民
スイス国内だけでも、通信大手のスイスコム、オレンジ、サンライズの3社が3Gのサービスを提供しており、各社は独自のアンテナを建設中で、9月だけでも2,000本から3,000本のアンテナが新しく建つとみられる。
デジタル携帯電話の導入によりGMS用のアンテナが全国に建てられた際も、人体に及ぼす影響の心配から住民が反発したが今回、UMTS用のアンテナの乱立に対する反対の動きは、以前より強いものになると見られる。
通信最大手、スイスコムの広報担当、クリスティアン・ノイハウス氏は「アンテナを建てるごとに、近くの住民の反対の声が上がる。人々は電波の人体への影響に対して、より敏感になっている」と語る。住民が敏感になっただけではなく、電波の密度は20年前と比べ10倍になったことも事実だ。
健康に対する影響の証明は難しい
複数の調査によると、電波は人体に悪い影響を及ぼすといわれる。頭痛や不眠をはじめ、ガンの原因にもなるというが、現代人の病気と似通っていることから、唯一電波による影響であるという決定的な証明はなされてない。医療機関が、アンテナの設置の検討に時間を取るよう要求しても、行政はほとんどの場合そのような配慮はなされず、アンテナ設置を認可するのが現状である。
また、住民がアンテナ建設に反対して裁判所に訴えても敗訴し、数ヵ月後にはアンテナが建ってしまうことがほとんどである。アンテナの普及計画に反対者の声が上がっても、今年中には3Gのサービスは全国の半分をカバーする予定だ。
対応策には費用がかかる
スイスの場合、人体への影響を考え、携帯電話から発せられる電波は他の欧州諸国の電波と比較し、10分の1の強度であることが法律で定められている。しかし、電波の脳に対する影響を研究をしているヨゼフ・ペーター氏によると、欧州各国と同じ程度にスイスも電波の問題を抱えているという。対策としては「アンテナの建設場所を選ぶことで、人体に与える影響も少なくできる。既に建っているアンテナの電波から身体を防護するためには、家の敷地に壁を建てたり、窓のシャッターを下ろすことが考えられる」という。
しかし、電波から確実に人体を防護するには、費用がかかる。電波の状況を監査するために700フランから2,500フラン(約6万円から21万円)、電波防護施設を作るために2,000フランから15,000フラン(約17万円から128万円)が必要となる。
一方、市民の要求により調査をしても、アンテナの電波に対する防護施設を作る必要があると判断されるのは1割という。前出のペーター氏は、「携帯電話の普及とアンテナの乱立により、市民は電波の影響に敏感になった。頭痛や不眠は、以前にもあった家電やコンピュータが発する電波が原因だったりする」と指摘する。
情報サービスの最先端を享受しながら、健康も保ってゆくためにはどのような道があるのか。スイスのみならず各国の今後の大きな課題でもある。
スイス国際放送 アレクサンダー・ケンツェレ(佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳)
スイスではすでにGMS用およびGPRS用のアンテナが9,000本建っている。
UMTS用のアンテナは4,000本建つ見込み。
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