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2011年総選挙、スイスの有権者は「大政党に平手打ち」

最大政党の国民党は、外国人政策だけに的を絞った。これが裏目に出たと政治学者のルッツ氏はみる。 AFP

10月23日に行われた総選挙は、大政党のほとんどが議席を減らす結果となった。躍進したのは中道派の新政党だ。

政治学者のゲオルク・ルッツ氏は、選挙戦での柔軟性の不足が票を失うことにつながったとみる。

swissinfo.ch : 国民党(SVP/UDC)はイスラム教の尖塔ミナレット建設禁止イニシアチブや厳しい外国人政策で国外にも知られた保守政党ですが、予想に反してその勢いが減速しました。この結果は意外でしたか?

ルッツ : 意外だった。国民党の勢いに少なくともブレーキがかかることは予想されていた。しかし、これほど明らかな負け、またどの政党よりも大きい支持率の低下は想像以上のものだった。

swissinfo.ch : スイス最大の政党がなぜこのような敗北を喫することになったのでしょうか。

ルッツ : 国民党だけでなく大政党すべてが、スイスフラン高で世の中が動揺している経済危機の時勢の中、それぞれの選挙戦術に固執したままそれぞれの政策を訴え続けた。だから、どの大政党もこらしめられたのだろう。特に国民党は(外国人政策の強化という)たった一つのテーマしか取り上げていない。

swissinfo.ch : 左派は4年前の総選挙でも議席を増やすことができませんでしたが、政治の対極化はこれで終わるのでしょうか。

ルッツ : 部分的に終わる程度だろう。右派の国民党は依然として最大政党だ。この数年間を振り返っても、特におとなしくなったわけでも穏健になったわけでもない。それはこれからも変わらないだろう。

また、左派も依然として強い。しかし、両極の成長は止まり、わずかに後退さえした。そして、中道に新しい分散が見られるようになった。

swissinfo.ch : 中道派は分散化しましたが、力をつけてもいます。この分散は連邦議会にとってどんな意味を持つのでしょう。

ルッツ : 全体的に協議は難しくなるだろう。穏健派はこれまでずっと多数を占めてきたが、今回さらに議席を増やした。それでもそれらの政党は相互に調整を図り、話し合いを行わなければならない。彼らの政治的目的はそれぞれ異なるのだから。

今後の4年間でどの政党も旗色をはっきりと示していかなければならない。そのしわ寄せはほかの中道派政党にいくだろう。中道派が一つにまとまって無条件に共同で政策を進めていくことはできない。どの政党もほかとは違うことを示さなくてはならない。そうなると、議会での協議はこれまでより困難になるはずだ。

swissinfo.ch : 中道派は政治的決定がなされる際に決定票を握っていることが多く、妥協によってスイスの政治を先へ進ませる勢力だと言われています。この見方をどう思いますか。

ルッツ : これまで確かにそうだったし、これからもおそらくその傾向がさらに強まるだろう。この8年から10年の間、中道派政党は不安定な時期が続いた。これまで勝ち続け、音頭を取ってきた両極の政党(国民党と社会民主党)に倣うことが多かった。

しかし、国民党に対する中道派政党の不安はもはや消え去った。国民党は、中核の政策テーマに多大な費用と労力を投入してキャンペーンを繰り広げたにもかかわらず、支持率を増やすことはできなかった。それが明らかになった今、国民党が日常の政治業務に与えうる脅威は一部無くなったはずだ。

swissinfo.ch : 7大政党は以前と同じポジションをキープしており、外から見た限りではそれほど変化は感じられません。この政治のバランスの良さがスイスを麻痺(まひ)させることはありませんか。

ルッツ : それはないと思う。これまでも内閣に組み込まれた、それでいながらときには野党の役割を演じた多くの勢力が存在し、それが常に一つの強みとなってきた。この強みが根本的に戻ってきたのであり、これからもスイスの政治の特徴であり続けるだろう。

swissinfo.ch : 12月半ばには連邦内閣閣僚の選挙を控えています。今回の選挙結果は閣僚選挙にどんな影響を与えますか。

ルッツ : 相対的に、結果が読みにくくなったと思う。内閣閣僚は全員揃って選出されるのではなく、一人ずつ順番に選出される。つまり、各閣僚がそれぞれ多数票を得なければならない。

国民党が、市民民主党(BDP/PBD)のエヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ司法相に対抗しようと思えば、やはり多数票を得なければならない。しかし、今回の選挙の結果、それはより難しくなった。それが不可能であれば、その後に行われる閣僚選挙のどれかで多数票を得るしかない。

このような事情をかんがみると、内閣を作る政党が選挙後も今と変わらない可能性は大きい。

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swissinfo.ch : チュニジアでも同日選挙が行われ、70%もの投票率となりました。一方、スイスでは有権者の半分近くが投票しただけです。なぜでしょう。

ルッツ : スイスの情勢は非常に安定している。国際的な比較でも変化は少ない方だ。結果として、政府も比較的安定したものとなる。

また、スイスの有権者は重要な案件に関しても投票することができる。これらの要素がスイスの投票率を低くしている。

連邦議会議員の選挙は4年ごとに行われる。

スイスの選挙システムは比例代表制に基礎を置く。

連邦議会は200議席の国民議会(下院)と州を代表する46議席の全州議会(上院)から成る。

現在、内閣を構成しているのは次の五つの政党。急進民主党(FDP/PLR)と社会民主党(SP/PS)がそれぞれ2人。国民党(SVP/UDC)、キリスト教民主党(CVP/PDC)、市民民主党(BDP/PBD)がそれぞれ1人ずつ。

国民党(SVP/UDC) 54議席(-8)

社会民主党(SP/PS)  46議席(+3)

急進民主党(FDP/PLR) 30議席(-5)

キリスト教民主党(CVP/PDC) 28議席(-3)

緑の党(Grüne/Les Verts) 15議席(-5)

自由緑の党(GLP/PVL) 12議席(+9)

市民民主党(BDP/PBD) 9議席(+9)

ティチーノ同盟(Lega di Ticinesi) 2議席(+1)

スイス福音党(EVP/PEV) 2議席(±0)

ロマンド市民運動(MCR) 1議席(+1)

キリスト教社会党(CSP/PCS) 1議席(±0)

スイス労働党(PdA/PST)0議席(-1)

スイス民主ユニオン(EDU/UDF)0議席(-1)

ツーク州社会緑オールタナティブ(SGA)0議席(-1)

(独語からの翻訳、小山千早 )

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