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スイスでは、医師から処方された致死量の薬物を患者本人が投与し、自死する自殺ほう助が認められている Keystone / Alessandro Della Bella

スイスでは安楽死を求め自殺ほう助団体に登録する人が増えている。国内には外国人を受け入れる団体もあるが、自殺ほう助を受けるには厳しい条件をクリアしなければならない。

このコンテンツは 2023/01/31 09:53

年間1500人超

スイス連邦統計局他のサイトへによると、国内の自殺ほう助による死亡者は増え続け、2017年末では1000人を超えた。65歳超が大半だが、若年層も増えてきている。この数値には国外居住者が含まれておらず、実際の数はさらに多くなるとみられる。

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国内の自殺ほう助主要3団体が発表した年間の死亡者は1500人を超える。

理由はがんが最多

国内最大の自殺ほう助団体エグジットによると、2021年に同団体のサービスを受けて自死した人のうち、最も多かったのはがん患者(35%)だった。複数の疾患が併存する多疾患罹患が次に多い。疼痛患者は12%、筋萎縮性側索硬化症(ALS)は全体の2%だ。認知症(3%)、精神疾患(1%)もある。

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どんな人が自殺ほう助を受けられる?

スイスでは、医師など第三者が患者に直接薬物を投与するなどして死に至らせる「積極的安楽死」は法律で禁止されている。認められているのは、医師から処方された致死薬を患者本人が体内に取り込んで死亡する「自殺ほう助」だ。

自殺ほう助を受ける条件は団体によって若干異なるが、大まかには以下の通り。

  • 治る見込みのない病気
  • 耐え難い苦痛や障害がある
  • 健全な判断能力を有する

自殺ほう助以外に苦痛を取り除く方法がないこと、突発的な願望でないこと、第三者の影響を受けた決断でないことも考慮される。

精神障害や認知症を持つ人も、健全な判断能力があると認められれば自殺ほう助を受けられるが、実施に至るケースはまれだ。

自殺ほう助を受けるにはまず団体に会員登録(年間40~80フラン、約4600~9200円)し、医師の診断書や自殺ほう助を希望する身上書を指定された言語(英語・独語・仏語など)で提出する。団体の専門医が審査し、認められれば許可が下りる。申請から自殺ほう助に至るまでは通常数カ月かかる。

自殺ほう助は通常、医師から処方された致死量のバルビツール酸系薬物を患者本人が点滴のバルブを開けるか、口から飲み込んで体内に取り込み、死亡する。スイス国内居住者では自宅を実施場所に選ぶ人が多い。

国外から来る自殺ほう助希望者は数日間の滞在中に専門医の面談を受け、医師の許可が下りれば団体所有の建物内で自殺ほう助を受ける。

自殺ほう助を希望する患者に処方されるバルビツール酸系薬物 Keystone / Alessandro Della Bella

会員はどれくらいいる?

スイスで最も歴史が古いエグジット他のサイトへ(1982年設立)は2021年末、会員数が過去最高の14万2233人(ドイツ語圏・イタリア語圏)に上った。フランス語圏のエグジットA.D.M.D他のサイトへは3万1070人(2020年末)で、こちらも2010年以降で最多だ。エグジットはスイス国籍保有者か、国内居住者のみが会員になれる。

国外居住者を受け入れている団体は、ディグニタス他のサイトへが最大。2021年末時点で1万1024人の会員がおり、約9割が国外居住者。最多はドイツだ。

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そのほかにもバーゼル拠点のライフサークル他のサイトへペガソス他のサイトへなどが国外居住者を受け入れている。ライフサークルは2022年、新規会員の受け入れを終了した。

法的根拠は刑法

スイスには「安楽死」について定めた独立法は存在せず、連邦刑法115条他のサイトへが「利己的な理由で他者の自殺を誘導・手助けした場合は5年以下の懲役または罰金刑に処される」と規定している。専門家によると同条文は1942年、安楽死とは別の理由で制定されたが、その後自殺ほう助団体の法的根拠になった。

スイスで逮捕された医師はいる?

スイスでは自殺ほう助に絡み、これまで複数の医師・関係者が逮捕・起訴されている。

バーゼル拠点の団体ライフサークルを主宰する医師エリカ・プライシヒさんは2019年7月、精神科の専門医でないのに精神病患者の判断能力があると認め、この患者に自殺ほう助を行ったとして起訴され執行猶予付きの有罪判決を受けた。

ライフサークルのエリカ・プライシヒ医師 Keystone / Thorsten Wagner

同年秋には、エグジットA.D.M.Dの副代表ピエール・ベックさんが、重病の夫と共に死にたいと訴えた健康な女性(86)の自殺を手助けしたとして、執行猶予付きの罰金刑を受けた。いずれの事件もまだ係争中だ。

ビジネスか非営利か

スイスの自殺ほう助団体はいずれも非営利の形を取り、財源は会費・寄付で賄われる。ただ昨今の会員増で団体の資産が膨れ上がり、使途の透明性を危惧する声も出ている。

独語圏の日刊紙NZZ他のサイトへによれば、エグジットの総資産は2013年の940万フランから2019年には2900万フラン(約31億円)に達した。

実際に裁判に発展したケースもある。ディグニタスの創始者ルートヴィヒ・ミネッリ氏は2018年、自殺ほう助を希望する人たちから不当に高い手数料を取ったとして訴えられた。ただ裁判所は、検察側の主張は立証が不十分だとして無罪判決を言い渡した。

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