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2020年11月のスイス国民投票

大手多国籍企業が集中するスイス 高まる企業責任論

ツーク州を本拠地にするグレンコアなど、スイスには世界的な原料取引大手の拠点が多数ある Keystone / Alessandro Della Bella
このコンテンツは 2020/11/09 08:30

スイスは、大手多国籍企業の数の密度が世界で最も高い国の1つだ。多国籍企業の中には、原料取引や化学など、29日の国民投票に掛けられる「責任ある企業イニシアチブ(国民発議)」によってリスクが高まる分野の巨大企業もある。

多国籍企業は、税金と雇用の供給者として、スイス経済で重要な役割を果たしている。連邦統計局によると、2018年の多国籍企業の総数は約2万9千社、雇用者数は約140万人だった。

そのうち1万6千社を超える企業(雇用者数にして約92万人)がスイスに本社を持っていた。また、多くの外資系企業も欧州本部や主要な事業部門をスイスに置いている。

これらの多国籍企業の中には、国際的に見ても大手の企業が多い。スイスを拠点とする企業14社が、米経済誌フォーチュンによる最新の世界企業番付「フォーチュン・グローバル500」(業種を総合して売上高が上位の500社)にランクインした。これら14社は世界中で120万人以上を雇用している。

さらに、すべての数字を公表すれば同番付の上位に入るであろうスイスの大手多国籍企業もある。例えば、年間売上高2250億ドル(約23兆5440億円)の石油商社ヴィトル。もしヴィトルが国であれば、ペルーとギリシャに挟まれて世界第52位の経済規模だ。

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ランクインした企業の半数は中国企業や米国企業だ。しかし、人口比では、スイスに「グローバル500」企業が最も集中している。

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大企業にとってスイスには多くの利点がある。経済の安定性、金融の中心地である強み、優れた労働力、運輸網の中心に位置する地理的条件、優遇税制、柔軟な規制などだ。

原料取引分野の世界的な巨大企業はスイス企業

スイスには500社以上の原料取引企業がある。特に、石油、金属、鉱物、農産物などの原料取引では世界有数のプラットフォームの1つだ。スイスには、同分野のリーディングカンパニーであるヴィトル、グレンコアトラフィグラマーキュリアガンバーの本社がある。これら5社は、世界で約18万人を雇用し、全大陸、数十カ国で活動している。

カーギルBHPコッホバンジルイ・ドレフュスなど、同分野の巨大企業は他にもある。これらの企業の多くは、商品取引に限定せず、鉱山や探鉱ライセンスを購入するなど、サプライチェーン全体に関わることで活動を多角化した。

スイスには19世紀前半にまで遡る商品取引の伝統があるが、「ここ20年間、ツーク州やジュネーブ州などいくつかの州の当局が魅力的な働きかけ」をし、スイスは最近新たな大手商社を惹きつけた、とフリブール大学のパウル・デンビンスキー教授(経済学)は説明する。今では、これらの進出企業が、スイスの最大手企業ランキングのトップを独占している。

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食品分野や製薬分野の主要企業

スイスの最大手多国籍企業の中には、他の分野にも世界的な大企業が存在する。何年にもわたり、食品・飲料分野で世界トップネスレがそうだ。ロシュノバルティスも、どのランキングでも世界のトップ10に入る製薬分野のリーディングカンパニーだ。建築資材ではラファージュホルシム機械ではABBがそうだ。

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コンサルティング大手のデロイトが作成したレポート「世界のトップ高級品企業」によると、世界の10大高級品グループのうち、リシュモンスウォッチグループの2つがスイス企業だ。スイスにはさらに、世界第2位の人材派遣会社アデコ)、世界第2位の海運会社MSC)、世界第2位のサード・パーティー・ロジスティクス(物流受託事業)(キューネ・アンド・ナーゲル)もある。

コープミグロは、世界の主要小売業250社の中からデロイトの「世界の小売業ランキング」トップ50に入っている。化学分野では、シンジェンタが総合で世界第29位、農薬部門でトップだ。

人権や環境基準に違反するリスクが特に高い産業

スイスで29日、「責任ある企業」イニシアチブが国民投票に掛けられる。同イニシアチブは、「スイスに規定上の本社、経営中枢、あるいは主要な事業所」を有する多国籍企業に、国際的に認められた人権と環境基準を尊重するようデューデリジェンスという注意義務を課している。この義務を怠った企業は、子会社や企業が管理する国外事業所が犯した可能性のある違反について、法的責任を問われる可能性がある。

多国籍企業の定義は?イニシアチブの影響を受ける企業は?

連邦統計局(FSO)は、スイスに本社を置く「スイスの多国籍企業」と、スイスに存在するが外国の事業体によって管理される「外国の多国籍企業」とを区別する。

多国籍企業に普遍的で厳密な定義は無い。多くの人々にとって多国籍企業とは、証券取引所に上場し、世間に広く知られる非常に大きな国際的企業のことだ。

しかし、これは実態の一部でしかない。FSOは、欧州連合(EU)の統計局であるユーロスタットに合わせて、少なくとも2つの法人が別々の国にある場合、その企業グループを多国籍企業とみなす。この定義によると、中小企業も多国籍企業とみなされる可能性がある。

反対派は、中小企業もイニシアチブの対象になるのではないかと危惧する。しかし、デューデリジェンスの義務を負うかどうかは企業の規模に応じて決定されることや、企業がリスクの高い分野で活動している場合を除いて、中小企業は除外されることがイニシアチブには規定されている。よって、イニシアチブの影響を最も大きく受けるのは大企業だろう。

「人権や環境に関して、国際的に認められている基準を下回る規制しかない国に子会社などを置く企業」だけがイニシアチブの対象になるとフリブール大学の教授(経済学)で、金融観測所所長のパウル・デンビンスキー氏は考える。「つまり、発展途上国に依存した活動をしている企業だ」

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このような大企業の中には、確かに人権や環境基準に違反するリスクがより高い企業がある。例えば、スイスの非政府組織(NGO)パブリック・アイが近年明らかにした不祥事では、アフリカ、南米、アジアにあるグレンコア、ラファージュホルシム、シンジェンタの子会社が関与していた。

「リスクは主に、活動の性質と多国籍企業が活動している背景の2要素に集中している」と、イニシアチブを支持するパブリック・アイの広報担当者ジェラルディーヌ・ヴィレ氏は指摘する。

ヴィレ氏によると、農薬分野と同様に、「原料分野は特に影響を受けやすい」。人権ビジネス研究所(IHRB)の年次評価報告書(インフォボックス、参照)では、影響を受けやすい分野の一覧に繊維と情報通信機器製造が加えられている。

多国籍企業の活動に関連する「壊滅的な」環境問題に加えて、「地下資源が豊かであるにもかかわらず人々が困窮しており、国が市民を守ることができない脆弱な国も問題だ」とヴィレ氏は指摘し、「(多国籍企業の)経済力と影響力が、しばしば多国籍企業が活動する国の力を超えていることも問題だ」と話す。

高リスク分野の巨大企業の拠点であるスイスが、企業責任に関する法律を整備し、中心的な役割を果たすべきだとパブリック・アイは考える。企業責任と企業の力とのバランスを取ることを同NGOは求めている。

人権基準を満たす多国籍企業は非常に少ない

人権ビジネス研究所(IHRB)は毎年、世界最大手の上場企業200社を、一連の人権指標に基づいて評価している。農産物、衣料品、資源開発、情報通信機器製造の4つの「高リスク」分野が対象だ。年次評価報告書によると、大企業の多くが国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を満たすと証明することができない。同報告書に掲載されているスイスの多国籍企業4社の評価は低い、いや悪い。評価が高かった企業から順に、ネスレ(55/100)、グレンコア(46/100)、リンツ&シュプルングリー(6/100)、TEコネクティビティ(5/100未満)だ。

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