宇宙の起源や生成を解明 素粒子やガンマ線バーストを捉える実験装置
宇宙の素粒子は、太陽や宇宙の遥かかなたからやってくる。エネルギーのいっぱい詰まった極小の「粒」である素粒子は、科学者に宇宙の起源やその生成について教えてくれる。現在世界には、国際宇宙ステーションと中国の「宇宙実験室」に搭載された二つの実験装置があり、こうした宇宙素粒子を捉え分析している。中でも一つの実験装置は、宇宙で最も激しく最も光度の高い物理現象である「ガンマ線バースト」を捉えようとしている。
一つ目の実験装置は、「AMS-02」と呼ばれるアルファ磁気分光器だ。国際宇宙ステーション(ISS)に設置され、5年半前からISSとともにその軌道を回っている。ISSは、アメリカ、ロシア、日本、カナダ及び欧州諸国が協力して運用している宇宙ステーションだ。
二つ目は、「Polar」と名づけられた実験装置で、9月に打ち上げられた中国の「宇宙実験室」と呼ばれる「天宮2号」に搭載されている。
目的は、宇宙の中で狂気的な速さで絶えず回転している恒星からやってくる素粒子を捉え、分析することだ。これは、欧州原子核研究機構(CERN)が行っていることに酷似している。ただ大きな違いは、CERNで捉えられる素粒子が人工的に陽子ビームを衝突させることで生まれるのに対し、こうした宇宙に設置された実験装置が捉える素粒子は、自然に生成されることだ。
またこうした二つの実験装置は、CERNとジュネーブ大学の放射線・素粒子物理学科の協力に負うところが多い。
AMS-02について専門家たちは…
まずAMS-02から見てみよう。これは、ノーベル物理学賞を受けたサミュエル・ティン氏によって構想された磁気分光器だ。6千枚の金属版が合わさってできており、直径1メートル10センチ、厚さ80センチの円形で、真ん中が空いているため一種の巨大なドーナツのような形をしている。
まず電力の量によって素粒子を分別し、次いで一連の検知装置を通してそれらの性質を特定していく。
AMS-02は、陽子や反物質を捉える機能を備え、さらには謎に富む暗黒物質の研究を物理学者に促してくれるはずだった。だが、5年の間に約1千億個の素粒子が検知されたにも関わらず、大きな発見にはつながっていない。むしろ、理論物理学者に、理論のモデルをさらに精巧に複雑にさせるだけのために役立っているようだ。
「AMS-02」には、構想から軌道に乗せるまで16年の歳月がかかっている(英語版)
こうした現実に研究者たちは落胆しているのだろうか?AMS-02のコンセプトに関わったソニア・ナタルさんは、がっかりしてはいないと言う。科学にはチャンスが付き物だからだ。そしてその例として、今年2月にアメリカの重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)が再稼動したまさにその日に、2つのブラックホールの合体によって発せられた重力波の検出に成功したことを挙げる。
「何はともあれ、AMS-02は今日まで達成されなかったことを実現していくだろう。地球の周りの、基本的には太陽から発せられる素粒子のあらゆる流束を継続的にモニタリングしていく。それは、ISSの運用が約束されている2024年まで必ず続く」とCERNの物理学者ナタルさんは断言する。
こうして科学者は、11年周期という太陽の活動のバリエーションについて貴重なデータを入手していくだろう。そしてそれは、生命や気候変動などを含む人間の活動への影響についても考察をもたらすだろう。
Polarと中国の規律
もう一つの実験装置Polarは、かつてCERNで働き現在はジュネーブの天文台で研究を続ける物理学者ニコラ・プロデュイさんによって構想された。よって、中国の「天宮2号」に搭載されてはいるが、Polarは中国製ではない。
ところで、プロデュイさんは自分が作ったPolarの宇宙への出発に際して、苦い経験をしている。彼は、Polarと「天宮2号」を搭載した長征2号FT2ロケットの打ち上げを、2人の同僚とホテルの屋根から見るはめになったのだ。打ち上げの前日、3人はある大臣が来ていたために立ち入り禁止になっていた地区を散歩した。それが理由で、プロデュイさんがロケット打ち上げ現場へ入場することは許されなかったのだ。宇宙開発に大きな権限を持つ中国軍が許可しなかったからだ。
だが、プロデュイさんはこの「思い出」を今では笑いとばしているだろう。というのも、この小さな「事件」はあったものの、中国がPolarの宇宙への搬送を認めてくれたことは本当にありがたいことだからだ。「実験装置などを宇宙に送り込むのは容易ではない。競争が激しく、僕は欧州宇宙機関(ESA)、ロシア、インドに交渉した。だが認めてくれたのは中国だけだった」
このPolarだが、これはAMS-02の軽量版ではない。アルミニウムでできた40立方センチメートルのこの箱は、高エネルギーの光子(フォトン)の爆発を捉えるように設計されている。つまりは、「ガンマ線バースト」の光子が偏光するか否かを観測することだ。
銀河系の大異変
では、この「ガンマ線バースト」とは何だろう?これは、ガンマ線が数秒から数時間にわたって閃光のように放出される、最も激しく、最も光度の高い宇宙の物理現象だ。その間、地球に比較できるぐらいの、素粒子の塊が光の速度で宇宙に放出される。
それでは、なぜガンマ線バーストが起きるのだろう?この大異変に対する最も一般的な仮説は、太陽より数百倍大きな巨大な恒星が爆発して一生を終えるときに起こるというものだ。爆発後、中心部にブラックホールが残るといわれる。
この動画は、ガンマ線バーストの現象を分かりやすく日本語で解説している
だが、この銀河系を閃光で照らす(超新星とも言われる)恒星の爆発現象は、すべての銀河系の中で1億年に1回の割合で起こるといわれる。だが、非常に多くの銀河系が存在するため、ガンマ線バーストはおよそ1日に1回の割合で観測される。Polarは、宇宙の4分の1を絶えず観測し、平均で4日に一度ガンマ線バーストを検知するよう設計されている。
では、偏光はどうなるのか?普通の光は、海の波のような垂直の波の形で動く。もし光が偏光されるとしたら、その波は例えば45度傾き、垂直というよりむしろ水平に広がっていくだろう。
ガンマ線バーストのガンマ線の波はどう伝播するのだろう?「過去50年の研究でも、何も分かっていない。よって、Polarが集めてくれるデータによって、ガンマ線バーストの正体がはっきりと見えてくる」とプロデュイさんは説明する。
空からやってくる最後の日
ガンマ線バーストは、我々の地球から数百万光年あるいは数十億光年も離れた他の銀河系の中で起こっている。「それは、我々にとって幸いなことだ。なぜなら、もし『天の川』の中でそれが起きたら、地球上の生命にとってとんでもないことになる」とプロデュイさんは強調する。
一つ例を挙げてみよう。2013年に英科学誌ネイチャーに発表されたある論文によると、ガンマ線バーストが起きてガンマ線が地球に到達するとしたら、(地球をそうした攻撃から守っている)オゾン層の3分の1を数秒で破壊するという。そうすると太陽から来る紫外線は、地球上のほとんどの植物を直撃して死滅させ、食物連鎖の基となる海中のプランクトンもほぼ全滅する。そうなると、数週間で食物の6割が失われ、人間がかつて経験したことのないカオスが起こる。
そしてこの「地獄絵」にさらに絶望的な雰囲気が付け加わることになる。ガンマ線の直撃により大気中では新しい化学変化が起き、有毒な亜酸化窒素の雲の層が形成される。この雲は太陽を隠し、空はオレンジがかった黄色に染められ、酸性の雨が、大量に降り注ぐのだという。
(仏語からの翻訳・里信邦子)
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