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心の病、就職活動で打ち明ける?

スイスでメンタルヘルスに問題を抱えて半年間休職した従業員の中で、元の職場に復帰できるのは半数に留まる Keystone / Alex Habermehl

安定していることで知られるスイスの労働市場だが、メンタルヘルスに問題を抱える人の失業率は、健康な人の3倍近くに上る。心の病を経験、もしくは抱えながらの再就職は、スイスでも簡単ではない。

このコンテンツは 2020/12/03 08:30

ルドルフ・ガフナーさんは、心の病による休職を経ての再就職が、いかに困難でうんざりすることか、身を持って知っている。2年前、50歳を過ぎたばかりのガフナーさんは双極性障害(躁うつ病)を患い、人生のどん底まで落ちた。「このレベルになると、人は簡単に破滅する。 スイスにいてもそれは同じだ」。ガフナーさんは、スイス公共放送(SRF)の番組他のサイトへでそう語った。

ガフナーさんは30代前半に、北アイルランド、アフガニスタン、レバノンなどの紛争地域で、スイスの日刊紙や通信社の特派員記者として働いていた。「仕事中毒のようになっていることに気が付いた」と当時を振り返り、「延々とパソコンのモニターを見ていた。たばこを吸い過ぎていたし、最後には完全に疲れ果ててしまった」と話す 。20年以上闘病した末、ガフナーさんはついに離職した。

不採用が続く毎日

離職から数カ月して、ガフナーさんの体調は徐々に快方へと向かった。自身を「模範的な失業者」と呼ぶガフナーさんはその言葉通り、月に50件近くの求人に応募し、再就職活動に取り組んだ。唯一の問題は、ガフナーさんが心の病の話をすると、雇用者側はそれをリスクと捉え、採用に難色を示すことだった。

チューリヒ州機関間協力ネットワーク(IIZ)のイヴォンヌ・ウェヒスラー代表は、これは珍しい例ではないと話す。「メンタルヘルスが原因で休職した後に社会復帰する場合、求職者はジレンマを抱えることになる」とswissinfo.chに説明する。「スイスでは、採用担当者が精神疾患を抱える応募者に対して持つ猜疑心が、そうでない人に対してより不相応に高い。そのため、そのような応募者を採用しない傾向がある」

経済協力開発機構(OECD)が発表した報告書によると、スイスでは、精神疾患を持つ人の失業率は、持たない人の3倍近くに上る。

しかし、ウェヒスラー氏は、スイス国内での精神疾患を抱える求職者への差別は、他国よりも大きいとは考えていない。「スイスの精神疾患を持つ人の就職率は他のOECD諸国と比較すると、比較的高い。したがって、スイス国内でその点に関して特別な差別的行為があるとは考えにくい」

難しい復帰

イェローナ・トレーヤーさん(30歳)も大変な経験をした1人だ。境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)を患ったため、2年前に休職して治療を行った。

3カ月の治療期間を経て、トレーヤーさんは職場に復帰した。だが復帰後、トレーヤーさんは上司の態度が変わっていることに気が付いた。休職するまで、その会社に勤めた期間は9年。病気に気付いた人もほとんどいなかった。しかし、今では多くの人がトレーヤーさんの仕事のスキルを疑うようになっていた。

そうしてトレーヤーさんは勤めていた会社を辞めることにした。「私がその一歩を踏み出したことを、会社は喜んでいるような気がした」。トレーヤーさんはSRFのインタビュー他のサイトへに対しそう語る。

前出のガフナーさんもトレーヤーさんと同じように、自身の病気についてオープンに語ったことが深刻なハンディキャップとなった。「双極性障害を打ち明けたことで、私は労働市場で自殺に追いやられた」

チューリヒ大学病院精神医学科のエリッヒ・ゼイフリッツ医学部長はSRFのインタビューで、雇用主は精神疾患を経験した従業員に対し、本能的に不安感を抱くと説明する。「その病気が長い目で見て何を意味するのか分からない。その人はストレス耐性が低いのか?再発する恐れはないのか?」

ルツェルン応用科学芸術大学、独ケルンのデプファー大学、バーゼル・ラント精神病院の研究チームがスイス・ドイツ語圏で働く管理職1524人を対象に行った調査では、回答者の約4割が精神疾患を抱える従業員と一緒に仕事をすることは大きなプレッシャーとなり、多くの時間と労力を必要とすると答えた。

研究チームは、このような問題は何年も前から複数メディアで報じられているにも関わらず、管理職や人事担当者、保険会社、政策立案者などのメンタルヘルスに対する理解は未だに乏しいと結論づけた。

そのうえで、雇用主への対策義務付けを提唱する。例えば管理職や従業員向けの研修や、精神疾患を抱える従業員への接し方の具体的なガイドラインの作成などだ。また総合医向けに、メンタルヘルスに不調をきたした人に個々の勤務実態により即した診断書を発行できるよう、基準の作成や研修会の開催を推奨している。

面接で病気の話をすべき?

逆説的だが、調査では、回答した管理職の9割が「従業員から精神疾患を抱えていると告げられたら安心する」と答えた。一方で、6割は「採用面接でそのような病を申告する人は採用しない」と回答した。研究の著者は、このような風潮が、応募者が心の病を企業に隠す傾向を増長させると指摘している。

前出のウェヒスラー氏は、応募者が故意に病気を隠したり、うそをついたりして、それが後になって明らかになった場合、危険で予測不可能な人物だと見なされる可能性があるという。「研究結果と実務経験から、信頼性と予測可能性は双方にとって採用プロセスの要であることが分かっている」

しかし、面接で聞かれなくても、応募者は率先して採用担当者にメンタルヘルスの問題を伝えるべきなのだろうか。

ウェヒスラー氏は、ケースバイケースだという。「履歴書から転職歴など変化が明らかに分かる場合は、精神疾患について伝えることが採用担当者を納得させる十分な理由になるかもしれない。新しい雇用主にメンタルヘルス問題への対処経験がある場合はなおさらだ」

(独語からの翻訳・大野瑠衣子)

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