課題を残すも、益多し

日本の自動車産業は、日本・スイス経済連携協定を最も活用している Keystone

2009年9月1日に日本・スイス経済連携協定が発効してから約2年半が過ぎた。この協定の目的は、両国間の貿易や人の移動の自由および経済協力関係を強化することだ。

このコンテンツは 2012/05/08 15:00
小山千早(こやま ちはや), swissinfo.ch

チューリヒ大学とザンクト・ガレン大学は共同で、発効後16カ月間で同協定がスイスと日本間の貿易に及ぼした影響について調査し、この4月、専門誌「アジア研究(Asiatische Studien)」に結果を発表した。

「日本・スイス経済連携協定は(すでに)サクセスストーリーか?適用と効果における実証的分析の主な結果(Ist das Freihandels- und Wirtschaftliche Partnerschaftsabkommen (FHWPA) zwischen der Schweiz und Japan (bereits) eine Erfolgsgeschichte? Hauptergebnisse einer empirischen Analyse zu Umsetzung und Wirkung)」と題されたこの調査では、協定は「1年を少し過ぎた時点ですでに成功したと評価できる」と結論付けている。

輸出額だけではわからない

輸出額全体で見ると、日本からスイスへの輸出額の増加率は約30%。一方、スイスから日本への輸出額はほぼ変わっていない。「しかし、協定以外に景気や通貨などいくつかの要素が影響を及ぼしているため、金額の増減だけで協定の影響を実証することはできない」と説明するのは、調査を行った1人、チューリヒ大学東アジア研究所の研究員および講師のゲオルグ・ブリント氏だ。

そのためブリント氏らは、輸出額の増加率を、関税が撤廃された商品と、対象外の商品やもともと関税がかかっていなかった商品に分けて、この両者を比較した。

その統計結果で目立ったのは、スイスから日本への輸出における関税撤廃商品の輸出額の高い増加率だった。つまり、協定の好影響は、輸出額の場合とは逆にスイス側にあったことが確認された。

一方、日本からスイスへの輸出では、輸出額自体は増加しているものの、関税撤廃の対象となっている商品に限った顕著な増加率は認められない。ブリント氏はこれについて、次のように推測する。「両国とも、協定の対象となっている商品の輸出量は対象外のそれよりも増えている。にもかかわらず、日本の関税撤廃商品の増加率が協定対象外の商品よりも高くないのは、日本の企業が関税軽減で得た分を利益としているからだろう。スイスの企業はその利益を商品の価格引き下げに充て、相手国のマーケットシェアを拡大しようとする傾向が強いと思われる」

スイスにとって日本は魅力ある輸出市場だ。だが、小国スイスは日本にとってそれほど大きな価値があるわけではない。「日本にしてみれば、例えばカナダやアメリカで売り上げを0.5%アップした方が有益なはず」とブリント氏は推測する。報告書にも「この協定はスイスの主導で締結されたが、スイスの輸出の伸びは当然の帰結だ」と記されている。

データ不足

分野別に見ると、協定を最も活用しているのは日本の自動車産業だ。それに鋼鉄産業など卑金属関連、プラスチック工業、繊維業と続く。関税上の便宜が適用される商品の輸出増加は協定締結の5カ月後、2010年2月辺りから目立ち出した。

この分析の元になっているのは、スイスの税関がまとめたデータだ。スイスからの輸出品については日本の税関のデータに頼るしかないが、「残念ながら、そのデータはない。日本側では、輸入された商品が協定の対象となっているか否かをまとめたデータを提供できないためだ」とブリント氏。この先も、当分の間はデータを得られそうになく、スイス側でどの分野が協定をよく利用しているかという分析を行うことは難しいようだ。

日本の中小企業の低い利用度

同調査ではまた、2010年秋にスイスと日本の企業へのオンライン・アンケート調査も実施した。両国の商工会メンバー約230社のうち79社が回答した。うち半数以上は従業員1000人以上の大企業だった。分野別では、7割以上が商社および製造業者だ。

全体的には、日本とスイスの両方に拠点を持ち、自由貿易協定の利用において豊富な経験を持つ自動車産業などが、経済連携協定も盛んに活用する傾向にある。スイスと日本の比較では、スイスの企業の方が協定の利用度が高い。

前述のとおり、今回のアンケート調査では大企業の回答率が高かったが、これまでの調査ですでに、従業員数の多い企業の方が自由貿易協定の利用度が高いことが明らかになっている。このことからブリント氏らは、協定を利用していない企業からはあまり回答を得られていないと推測。2011年11月に電話で追加アンケートを行い、主に協定を利用しない理由を聞いた。

その結果、最も多かったのは「手間がかかる」という理由だった。また、機械製造業など無数の部品を扱う分野からは、物品の原産地を認定するための原産地規則が厳しすぎるという声が上がっている。ブリント氏は、スイスでは一般的な「認定輸出者制度」が、日本ではまだあまり浸透していないことも理由の一つだと言う。一度認定輸出者として承認されると、輸出のたびに原産地証明を取る必要が無くなり、協定が利用しやすくなる。「スイスでは中小企業の占める割合が多く、これらの企業はこの制度で保護されている」

ブリント氏はまた、次のように指摘する。「日本でも中小企業の占める割合は大きく、構造的にはスイスとよく似ている。しかし、スイスでは中小企業、特に中企業の国際化が非常に進んでいる。それに対し、日本の中小企業、特に小企業はほとんど輸出していない」

だが今後、日本にこの新しい制度が定着すれば、協定の利用度は高まるとの期待を寄せている。

「日本・スイス経済連携協定は(すでに)サクセスストーリーか?適用と効果における実証的分析の主な結果」

調査内容

協定締結後、2009年9月から2011年12月までの初期の貿易状況を調査。調査項目は以下の三つ。

 

1.取引が自由化された商品と自由化されていない商品(注:以前から関税がかからなかった項目も「自由化」されていないと定義)の貿易量の比較。

2.日本からスイスへの輸出における取引が自由化された商品の輸出量の推移。

3.両国の企業へのアンケート調査。

  

執筆者

ダヴィッド・キアヴァッチ氏(チューリヒ大学 )、ゲオルグ・ブリント氏(チューリヒ大学)、マティアス・シャウプ氏(ザンクトガレン大学)、パトリック・ツィルテナー氏(チューリヒ大学)

スイスを生産拠点に?

日本はEUとまだ同様の協定を結んでいないが、スイスを最終生産拠点にすれば、日本製品を無税でEUに輸出できると期待する声も上がっている。しかし、ブリント氏は「それはおそらく無理だろう」と考える。

理由は、スイスの人件費の高さ、スイスフラン高など。「スイスとEUが結んでいる自由貿易協定では、原産地から運ばれてくる物品費が最終販売価格の約7割以上を占めていれば「スイス製」と認められ、スイスから無税でEUに輸出することができる。しかし、スイスは人件費が非常に高いので、スイスでかかる経費が最終販売価格の約3割を超えてしまい、スイスEU自由貿易協定の条件をクリアできなくなる。そのため、スイスを最終生産拠点にできる商品はほとんどないと思われる」

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自由貿易協定により関税が無くなった主な産業

日本からの輸出

自動車産業(年間約600億円)

貴金属(年間約800億円)

機械等(年間100億円)

スイスからの輸出

科学製品(年間約500億円)

薬品(年間約1500億円)

貴金属、アクセサリー等(年間約300億円)

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