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選挙戦で外交問題の影が薄いのはなぜ?

連邦広場に集まる群衆
今年9月、連邦憲法制定175年を祝うイベントで多くの人が首都ベルンの連邦議事堂前広場に集まった © Keystone / Peter Klaunzer

10月22日のスイス総選挙に向け選挙戦が激しさを増すなか、外交政策についてはあまり語られていない。対欧州連合(EU)関係をはじめ、外交は連邦議会の一大任務のはずなのに、なぜなのか?

総選挙後には新議会が連邦内閣(政府)のメンバーを選出する。新政府が4年の任期中に取り組むべき外交課題は山積みだ。欧州連合(EU)との二国間条約交渉、ウクライナ戦争を踏まえた中立政策の見直し、国連安全保障理事会の非常任理事国としての今後の戦略などだ。

だがこれらの問題は、選挙戦では余興に過ぎない。政党や候補者は発言せず、演壇など公の場での議論もほとんどない。swissinfo.chは5人の専門家に、この点をどう考えるか、想定される理由を尋ねた。

オスカー・イェンソン氏
© David Ausserhofer

市民団体の役割

スイスの外交シンクタンク「foraus(フォアラウス)外部リンク」の理事を務めるオスカー・イェンソン氏も、この選挙戦で外交政策があまり語られていないことに気づいた1人だ。「外交問題は連邦議会の重要な任務だ。だが外交議論を公の場に移すのは必ずしもうまくいかないようだ」

その役割を市民団体が引き受けることは少なくない。forausもその1つで、専門家が次期議会の外交課題をテーマ別に解説するプラットフォーム「外交政策ブリーフィング」を設けている。「私たちの目標は政党やメディアなど重要アクターに、これらの諸テーマについて公共の場で目に見えるように議論する手段を提供することだ」

ラファエル・ベズ氏
Europäische Bewegung Schweiz

党内の不一致

不変の外交課題は対EU関係だ。それが選挙戦でほとんど語られない理由について、EU加盟を目指す「スイス欧州運動外部リンク」のラファエル・ベズ事務局長は2点を挙げる。「ほとんどの政党、特に連邦内閣を構成する政党では、実際何を目指しているのか党内が一致していない。このためこの外交が中心的話題にならない」。また外交は技術的・抽象的で、国民の日常生活からかけ離れたテーマだとみなされていることが2つ目の理由だという。

ベズ氏にとって、これは理想的な状況とは言えない。「連邦内閣や政党が私たちの足を引っ張っている。それでも外交を世に問い続ける」。スイス欧州運動は支援候補とともにスイス全国を回り、各政党の対欧州政策を紹介している。

アミ・ボッサール・ガルテンマン
zVg

議論する意欲が減退

スイスの独立と中立を志向する「プロ・スイス外部リンク」のメンバー、アミ・ボッサール・ガルテンマン氏はEUから最大限距離を置くべきだと主張するが、国民的議論が乏しすぎるという点には同意する。「対EU関係や中立性は今のところ最も注目されている議題だが、政党は選挙前に世論を煽りたくないと考えている。選挙前にこれらについて議論すれば(保守系右派の)国民党を利するだけだという考えもあるのだろう」

これは人々の反対意見に耳を傾けようとする姿勢が後退していることの裏付けでもあり、ボッサール・ガルテンマン氏は憂慮すべき事態だと考える。「特に地域レベルでは話し合いへの意欲が減退しており、人々が刀を交えることができる政治基盤はほぼ失われてしまった」。とりわけ議論に消極的なのは左派政党の支持者だという。「それは憂慮すべきことであり、最終的にはスイスの民主主義にとって損失だ」

ゾエ・ケルゴマール
swissinfo.ch

クリック稼ぎのトピックに焦点

選挙戦において外交問題が副次的な存在でしかないという事象は、繰り返される対EU政策を除けば目新しいものでもスイス特有のものでもない――。チューリヒ大学の歴史学者ゾエ・ケルゴマール外部リンク氏はこう話す。国会議員は一国家レベルで対処できそうな問題に集中している。メディアを取り巻く環境の変化も背景にあるという。「政党は支持基盤を固めるため、『ウォーキズム(啓発主義)』のようなキーワードがありクリック数を稼ぎやすいトピックに焦点を当てることが戦略的に有利だと考えている」

これにより人々は根本的な問題について自身の立ち位置を取る必要がなくなり、他者から攻撃されにくくなる。フレーミングや意思決定レベルの問題もある。「移民や気候危機といった問題は本来、純粋な国内政治ではない。だが、特に国政選挙前はもっぱら内政の観点から議論される」

ファビオ・ヴァッサーファーレン
Universität Bern

連邦内閣に責任

ベルン大学政治学研究所のファビオ・ヴァッサーファーレン外部リンク所長の見方は、他の専門家たちとは少し異なる。「アンケート調査によって明らかになったのは、外交政策が国民の関心事として上位に位置付けられていないということだ」。焦点が当たっているのは医療保険料や年金などの国内問題であり、政党はこれらに関して立場を表明しやすい。「外交政策は具体的でなければならない。だが現時点では国民に示せるだけの具体策がない」

次なる二国間条約交渉に向け予備交渉中の対EU関係はまさにその典型だ。「議論の対象となる具体策がない以上、選挙の有無に関係なく、仮定の議論しかできない」

ヴァッサーファーレン氏は、外交を議論する政治的枠組みが必要で、それを用意する責任は連邦内閣にあるとみる。だがこの数年、政府は全くその責任を果たせていないと指摘する。

独語からの翻訳:ムートゥ朋子

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