スイス政府は、スイスの現在の中立性の伝統は「現在の国際状況でスイスの外交・安全保障政策の手段として中立を用いる余地を十分に提供している」と結論付けた
© Keystone / Christian Beutler
スイス連邦内閣は26日、これまでの政治的中立政策を維持すると明記した報告書を閣議決定した。
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの現在の中立性の解釈は、1993年にまとめた白書が基になっている。現在の解釈では、個々のケースにおいて、世界情勢を考慮しながら効果的な決定を下すための十分な裁量が7人の閣僚から成る連邦内閣に与えられている。
今回の報告書外部リンクは過去30年間に中立性がどう実践されてきたか、ウクライナ戦争以降に内閣がどのような決定を下してきたかを検証した。1993年に定義された中立政策は引き続き有効で、ウクライナ戦争を受けて変更するべきではないと結論付けた。
現在の中立性の慣行は、「現在の国際状況において、スイスの外交・安全保障政策の手段として中立性を用いる余地を十分に提供している」と強調した。
連邦内閣はウクライナ戦争の勃発後、全州議会(上院)外交委員会の付託を受けてスイスの中立性の定義の見直し作業を進めていた。8月31日と9月7日の閣議でもこの問題について議論した。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、スイスの中立性が問われることとなった。政府はこれまでの慣行を転換し、欧州連合(EU)による対ロシア制裁に追随した。
これを受けて、ロシアは3月にスイスを「非友好国」に分類。8月には「スイスはもはや中立ではない」として、スイスがウクライナ・ロシア間の利益代表国になることを拒否した。
スイス国内では、中立政策をどう解釈すべきか、2つの陣営で激しい論争が繰り広げられている。
1つは右派の国民党を代表とする保守派で、中立の厳格な解釈を守りたいとの考えだ。連邦憲法に包括的な中立性を明記するべくイニシアチブ(国民発議)を立ち上げようとしている。
もう一方は内閣の過半数を占めるリベラル派で、国際政治でより積極的な役割を果たすよう求めている。
スイスの現在の中立政策は、武力紛争に参加せず、いかなる紛争当事者も支持しないことを意味する。中立国として、国家どうしが部分的または完全に関係を断絶した場合の外交的な仲介者としての役割も果たす。
一方で、中立性を単独で盲目的に貫く方針は既に手放している。西側の防衛同盟である北大西洋条約機構(NATO)や近隣諸国との軍事的協力関係を維持してきた理由もそこにある。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
おすすめの記事
スイス議会、超富裕層への相続税案を否決 対案なく国民投票へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス上院は17日、超富裕層の相続に相続税を課し環境保護の財源にする案を否決した。
もっと読む スイス議会、超富裕層への相続税案を否決 対案なく国民投票へ
おすすめの記事
見えぬ障がい伝えるバッジ、試験配布開始 スイス連邦鉄道
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦鉄道(SBB)は17 日、目に見えない障がいを持つ乗客を対象としたヘルプマークの配布を試験的に開始した。外見からは分からなくても支援・配慮を必要としている人への理解を深めることを目的としている。
もっと読む 見えぬ障がい伝えるバッジ、試験配布開始 スイス連邦鉄道
おすすめの記事
ユーロスター、スイスと英国結ぶ直通列車運行へ
このコンテンツが公開されたのは、
英国と大陸欧州をつなぐ高速鉄道ユーロスターは、スイス・ジュネーブとロンドンを結ぶ初の直通列車の運行を計画している。
もっと読む ユーロスター、スイスと英国結ぶ直通列車運行へ
おすすめの記事
スイス政府、金融規制改革の最終案を発表
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦内閣は6日、クレディ・スイス危機を踏まえた金融規制改革の最終案を発表した。自己資本規制を強化し、金融監督局の権限も強化する。
もっと読む スイス政府、金融規制改革の最終案を発表
おすすめの記事
スイスの元外交官50人、ガザめぐる政府の「沈黙」を非難
このコンテンツが公開されたのは、
パレスチナ自治区ガザにおけるイスラエルの「戦争犯罪」に関して、スイスの元外交官55人がスイス外相に共同書簡を送り、スイスの「沈黙と消極性」を非難した。政府に対して直ちに措置を講じるよう求めた。
もっと読む スイスの元外交官50人、ガザめぐる政府の「沈黙」を非難
おすすめの記事
スイスで放射能測定の合同演習
このコンテンツが公開されたのは、
スイスでは2~6日、国際チームがヘリコプターで空中の放射能測定を行っている。緊急時に広い範囲の放射能を迅速にチェックする予行演習だ。
もっと読む スイスで放射能測定の合同演習
おすすめの記事
自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が死亡
このコンテンツが公開されたのは、
自殺カプセル「サルコ」を運営する自殺ほう助団体「ラストリゾート」共同設立者のフロリアン・ウィレ氏(47)が、先月5日にドイツで死去していたことが分かった。
もっと読む 自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が死亡
おすすめの記事
スイス南部で氷河が崩壊 土石流がふもとの村を飲み込む
このコンテンツが公開されたのは、
スイス南部レッチェンタール(ヴァレー州)で28日午後、大きな氷河が崩壊し、大規模な土砂崩れがふもとのブラッテン村を襲った。多数の家屋が倒壊し、1人が行方不明。
もっと読む スイス南部で氷河が崩壊 土石流がふもとの村を飲み込む
おすすめの記事
クレディ・スイス株で大損した株主、政府への賠償請求認められず
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦最高裁判所は23日、スイス政府の「誤った情報」によりクレディ・スイス株で損失を被ったとして損害賠償を求めた夫婦の訴えを棄却した。
もっと読む クレディ・スイス株で大損した株主、政府への賠償請求認められず
おすすめの記事
移動式ホール「アーク・ノヴァ」がスイスに初帰国
このコンテンツが公開されたのは、
東日本大震災の被災者を勇気づけようと建設された移動式コンサートホール「アーク・ノヴァ」がこの秋、親元のスイスに初めて登場する。
もっと読む 移動式ホール「アーク・ノヴァ」がスイスに初帰国
続きを読む
オピニオン
おすすめの記事
ウクライナ侵攻で中立国スイスはどう変わる?
このコンテンツが公開されたのは、
中立国スイスはロシアに前例のない制裁を科し、自国の立場を鮮明にした。これを機に、スイスの対中政策、対欧州政策は大きく変化することが予想される。スイス外交の今と今後を考察する。
もっと読む ウクライナ侵攻で中立国スイスはどう変わる?
おすすめの記事
「スイスの中立には何の変化もない」国連代表
このコンテンツが公開されたのは、
スイスはロシアへの制裁を科したことで、中立を放棄したとの認識が国際社会に広がっている。これは誤解だろうか?スイス国連代表部のパスカル・ベリスヴィル常駐代表に聞いた。
もっと読む 「スイスの中立には何の変化もない」国連代表
おすすめの記事
千の横顔を持つ「中立」
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは「中立」の新たな解釈を模索中だ。国際比較により中立の持つさまざまな横顔を浮き彫りにしていく。
もっと読む 千の横顔を持つ「中立」
おすすめの記事
スイス、ロシア資産を凍結 大統領「今回限りの措置」
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは28日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を含むロシア人・企業の資産を凍結すると発表した。国内外からの圧力を受け、欧州連合(EU)の対ロシア制裁に全面的に追随する。
もっと読む スイス、ロシア資産を凍結 大統領「今回限りの措置」
おすすめの記事
スイス「有事が起きない限りは中立を維持」
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは中立国だ。しかし、長年にわたり北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)と安全保障分野で協力している。これは中立と矛盾しないだろうか?そもそも、なぜスイスはそのような行動を取っているのだろうか?
もっと読む スイス「有事が起きない限りは中立を維持」
おすすめの記事
スイスはNATOに加盟するか?
このコンテンツが公開されたのは、
ウクライナの戦争を機に、中立国ではNATO加盟の是非を巡る議論が再燃している。スイスがNATOに加盟する可能性について、安全保障を研究するレア・シャードさんに話を聞いた。
もっと読む スイスはNATOに加盟するか?
おすすめの記事
紛争当事国の仲介役を務めるスイス
このコンテンツが公開されたのは、
中東情勢の緊張の高まりと原油価格上昇により、米国とイランの仲介役を務めるスイスの役割が再び脚光を浴びている。しかし、そもそも仲介役とは何をするのか。なぜ永世中立をうたうスイスが国際関係に介入するのか?
もっと読む 紛争当事国の仲介役を務めるスイス
おすすめの記事
NATOが創設70周年 スイスとの関係は?
このコンテンツが公開されたのは、
北大西洋条約機構(NATO)は今年、創設70周年を迎えた。スイスは中立国のため非加盟だが、20年以上、NATOと協力関係にある。
もっと読む NATOが創設70周年 スイスとの関係は?
おすすめの記事
スイスの武器 紛争当事国で使われているのはなぜ?
このコンテンツが公開されたのは、
最近の複数の報道で、スイス製の武器が紛争当事国のイエメンやサウジアラビアで使われていたケースが判明した。人道主義の伝統と人権の尊重を重んじる中立国スイスの武器が、なぜそれらの国に渡っているのか。
もっと読む スイスの武器 紛争当事国で使われているのはなぜ?
おすすめの記事
スパイ疑惑はスイスの中立性を汚すのか
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの暗号化企業クリプト社をめぐるスパイ疑惑は、永世中立国家スイスのアイデンティティを揺るがしている。スイスの政治家、歴史家、メディアの間ではスイス製の不正デバイスが国の信用に与える悪影響について議論がかまびすしい。
もっと読む スパイ疑惑はスイスの中立性を汚すのか
おすすめの記事
今の時代も「中立は切り札」 スイス元外相の中立論
このコンテンツが公開されたのは、
「中立」はスイス外交政策の要の1つだ。しかし新たな形の紛争、テロ行為、サイバー攻撃といった現代の問題を前にしても、いまだ重要と言えるだろうか?元スイス外相のミシュリン・カルミ・レ氏はswissinfo.chの取材に応じ、中立が今後もスイスの「切り札」である理由を語った。
もっと読む 今の時代も「中立は切り札」 スイス元外相の中立論
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。