スイスの視点を10言語で

スイスのマイナス金利、経済コストへの懸念大きく

Piggy bank
スイス中銀のマイナス金利政策を巡っては、企業年金や貯蓄に対して懸念を抱く企業が多い Keystone / Gaetan Bally

スイス国立銀行(中央銀行、SNB)のマイナス金利政策は、スイス経済全体にとっては利益よりコストの方が大きいと考えられている。個々の企業収支に与える影響は今のところ小さいが、大手金融機関が顧客にマイナス金利を転嫁する動きが広がり、今後はダメージが大きくなる可能性がある。

スイス最大の銀行UBSは7日、国内企業2500社にマイナス金利政策の影響を尋ねたアンケート調査結果外部リンクを発表した。「3分の2近くが、経済全体としてはマイナス金利によるコストが利益を上回ると答えた」。

ただ自社の収支に関しては、大半の企業が「無関心」か「費用と便益が釣り合っている」と答えた。「ほとんどの企業はマイナス金利の直接的な影響を受けない。マイナス金利を課される銀行口座はごく少数だ」と指摘した。

SNBが2015年に導入したマイナス金利政策は、フランの相場上昇を抑えスイス輸出企業を支える。低金利環境は企業への融資も後押しする。

ただUBSスイスのダニエル・カルト最高投資責任者(CIO)は「収益の5割以上が輸出を占める企業の大多数が、マイナス金利はスイス経済全体に有害と考えていることは注目に値する。状況に終わりが見えないためだ」と指摘した。最大の懸念は、企業年金や貯蓄に付く金利が著しく低いことだという。不動産価格の高騰も不安を呼んでいる。

富裕層への転嫁

SNBのトーマス・ジョルダン総裁は先月、SNBのマイナス金利政策はフラン相場を安定させ、経済全体に利益をもたらしていると擁護した。今月3日には日刊紙NZZのインタビューでマイナス幅の拡大も示唆した。

商業銀行が中央銀行の当座預金に預けている資産に対して課されるマイナス金利は年間約20億フラン(約2200億円)に上り、悲鳴をあげている。

一部の大手金融機関は、富裕層や企業口座にマイナス金利を転嫁し始めている。UBSは今月から残高200万フランを超える個人預金口座で0.75%の手数料を取っている。

クレディ・スイスも先月、200万フラン以上の個人・企業口座にマイナス0.75%、1千万フラン以上の企業口座にマイナス0.85%の金利を課すと明らかにした。企業口座のマイナス金利は今月15日から、個人口座は来年1月1日から始める。

ポスト・ファイナンスは12月から、マイナス金利の対象口座をこれまでの預金額50万フラン以上から25万フランに広げると報じられた。

おすすめの記事
スイス国立銀行のファサード

おすすめの記事

GAFA投資進めるスイス中銀が抱えるリスク

このコンテンツが公開されたのは、 グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン。「GAFA」と総称され政治さえ動かす力を持つ巨大IT企業たちに、巨額を投資する世界でもまれな中央銀行がある。スイス国立銀行(SNB)だ。

もっと読む GAFA投資進めるスイス中銀が抱えるリスク
​​​​​​​

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

ベツナウ原発

おすすめの記事

世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの電力会社アクスポは5日、世界で最も古いベツナウ原子力発電所の稼働を2033年に終了すると発表した。33年までの運転継続にかかる追加事業費は3億5000万フラン(約600億円)を予定している。

もっと読む 世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了
アルコール検査

おすすめの記事

スイスのドライバー、2割が飲酒運転

このコンテンツが公開されたのは、 欧州など39カ国のドライバーを対象にした調査で、スイスでは2割超が飲酒運転をしたことがあると回答した。

もっと読む スイスのドライバー、2割が飲酒運転
銃口

おすすめの記事

狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部

このコンテンツが公開されたのは、 先月29日午後、スイス西部ヴォー州で64歳の男性が狩猟中に死亡した。イノシシを撃とうとした 猟友会のメンバーに射たれた。

もっと読む 狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部
サルコ

おすすめの記事

自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束

このコンテンツが公開されたのは、 今年9月にスイスで初めて使われた自殺カプセル「サルコ」について、連邦内閣は、当分の間、立法措置は必要ないとの見解を示した。サルコ運営団体は2日、身柄を拘束されていたフロリアン・ヴィレ代表が釈放されたと発表した。

もっと読む 自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束
金塊

おすすめの記事

スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの金融誌ビランツがまとめた長者番付2024年版によると、スイス在住の富豪トップに輝いたのは、仏高級ブランド・シャネルのオーナー家族の1人、ジェラール・ヴェルテメール氏だった。上位の顔ぶれはほぼ前年と同じだが、香料メーカーのフィルメニッヒ(Firmenich)創業家が初のトップ10入りを果たした。

もっと読む スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー
ポイ捨てされた空き缶と小鳥

おすすめの記事

スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・ポイ捨て防止コンピテンスセンター(IGSU)の年次アンケート調査によると、「スイスでは多くのゴミが適切に処理されていない」と考える人は16%にとどまった。

もっと読む スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査
鉄道の時刻表

おすすめの記事

スイス国鉄、夜間列車を増発

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦鉄道(SBB/CFF)は27日、新ダイヤを発表した。長距離・地域間の夜行列車が増える。12月15日に発効する。

もっと読む スイス国鉄、夜間列車を増発
ロレックスの本社ロゴ

おすすめの記事

2025年の高級品市場、米国が牽引役に UBSレポート

このコンテンツが公開されたのは、 高級品市場は中国での需要減退により、2025年は米国が成長のエンジンとなる――スイスの銀行UBSが25日発表したレポートでこんな見通しを示した。

もっと読む 2025年の高級品市場、米国が牽引役に UBSレポート
兵士

おすすめの記事

スイス製狙撃弾60万発以上がウクライナに

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの弾薬製造会社Pディフェンスの狙撃用弾薬が昨年7月、ポーランドの会社経由でウクライナに届いていた。スイス公共放送が報じた。

もっと読む スイス製狙撃弾60万発以上がウクライナに

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部