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OECDのブラックリスト

スイス政府の交渉手腕。対EU、そして対OECDともに、スイスの主張が通った。 Keystone

世界開発協力機構(OECD)はスイスは脱税の温床になっているとして、代案が提示されない限りリストに載ると警告。話し合いの結果、スイスの主張が受け入れられ、リストへの掲載は避けられることになった。

OECDの中に設置されている「害を及ぼす可能性がある税制」フォーラムは当初、加盟国のうち47カ国を悪税制の国と名指し。個別交渉の末、多くが「無罪に」なったものの、スイスはいままで残っていた。27日から2日間に渡って行われた交渉で、ホールディング会社の納税実態については必要に応じて情報交換するというスイス案が認められた。

世界開発協力機構(OECD)に1998年に設けられた「害を及ぼす可能性がある税制」フォーラムに名指されたスイスは、OECD本部のパリで行われた2日間にわたる交渉の末、リストから外され「シロ」のお墨付きを得るに至った。スイスが提示した案は、ホールディング会社(持ち株会社)の納税内容を他国から要請があった場合、その国と情報を交換するというもの。

OECD側はリストから外す条件として各州の税制の改正を求めていたが、その必要はなくなり、スイス政府としては満足の行く結果となった。

スイスの魅力が「いじめ」の理由

 スイスの税制は州ごとに異なるが、他の先進国と比較して税金は一般に安い。特に企業の誘致に熱心な州では税制面での優遇措置が取られており、ホールディング会社がこぞって集まるようになっている。住所だけスイスに置いている実体のない会社も多くある。

 1999年から2001年にかけて、新しくヨーロッパに拠点を設けようとした企業のうち6割近くが、スイスを本拠地として選んでいる。数ヶ国語を操り、高等教育を受けた人が多いことや、スイスが欧州の中心に位置しており交通の便も良いといった理由のほか、財政面での優遇措置が魅力なためである。

 多国籍企業の中には本国を脱出し、税金対策としてスイスに拠点を移す会社もある。企業に「逃げられた」母国は、その「被害」をなるべく小さくしようとするのは当然のこと。スイスがブラックリストへの掲載されそうになった理由の1つである。 

スイスは勝利したのか

 ホールディング会社でも大手は財務管理もきちんとしているので、OECDに提示された妥協案により情報開示は脅威とならないであろう。一方、税金対策のみが目的といった会社が、スイスから流出する可能性は否めない(29日付ノイエ・ツゥリヒャー・ツアイトゥング)。スイスに不利になる点の1つである。

 また、情報交換はOECD諸国がそれぞれ個別にスイスと条約を結ぶこととなっている。スイスと同様に金融業が経済の重要な役割を担うイギリス、オーストリア、ルクセンブルクなどとの交渉は難航することが考えられ、情報交換が実践されるに至るまで、時間がかかるとも見られる。

 一方、各州が税制度を改正する必要がなくなったことはスイスにとって大きなメリットである。また、スイスの税問題を盾にして情報開示を迫ったOECDのフォーラムの意図が、スイスの銀行の「最後の砦」ともいえる守秘義務の撤廃まで望んでいたとすれば、これを保持し続けることができたスイスは、まずは一安心したといったところであろう。


スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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