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どうすれば温暖化を止められる? スイス気候学者が考える解決策 

温暖化イメージのコラージュ
Kai Reusser / SWI swissinfo.ch
シリーズ パリ協定の10年, エピソード 5:

世界中で温室効果ガス排出量の増加と気温の上昇が止まらない。しかし、スイス国内の研究者たちは、まだやれることはあるとみる。

温室効果ガス排出量削減と気温上昇抑制という大胆な目標を掲げたパリ協定への署名から10年が過ぎたが、署名各国は依然として目標達成からほど遠い状況にある。

この点については今月、国連環境計画(UNEP)が発表した、現在の気候政策を分析した最新の報告書外部リンクの中で明らかにされている。報告書によると、温室効果ガスの排出削減に関する目標が世界中で達成されたとしても、地球の温度は産業革命前に比べて2.3~2.5℃の上昇が免れない見込みだ。パリ協定では今世紀の気温上昇を2℃未満に抑制することを目標として掲げ、1.5℃未満に抑えることを努力目標としている。

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排出削減

スイスの気候学者、政府の対策に厳しい評価 国内で最大4.5度上昇を予想

このコンテンツが公開されたのは、 2015年にパリ協定が採択されてから10年。スイスの気候科学者を対象としたアンケート調査では、世界が気温上昇を1.5度以下に抑えることはもはや期待できないとの意見が大勢を占めた。2100年までの気温上昇幅としては、2.5度を予想する人が最多だった。

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スイスインフォが今年9月にスイス国内の気候研究者を対象に実施した調査では、回答した80人の多くが報告書と同様の温暖化の進行を予測している。しかし彼らは、気候危機に対処し低炭素社会・脱炭素社会への移行を加速させるための方法や手段は既に存在すると強調する。気候変動対策の促進に有望な要素を以下に挙げる。

科学技術と司法機関への信頼

調査に参加した科学者たちは炭素排出量に関しては悲観的な予測を立てているが、科学技術の進展、脱炭素化に向けた経済的インセンティブ、気候変動に対する市民運動などには期待しているという。

ヌーシャテル大学応用気候学教授でスイス連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)研究員のマルティーヌ・レベテス氏は「今日、我々は化石燃料を一切使わない住宅暖房や輸送が完全に可能だ」と述べる。

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国内外の裁判所の判決も世界規模での化石燃料からの移行の後押しになる、と気候研究者たちは言う。政府の不十分な気候変動政策に異議を唱え、化石燃料企業に二酸化炭素(CO₂)排出の責任を追及するために個人や団体が裁判所に提訴している。

2025年7月、国連の主要な司法機関である国際司法裁判所(ICJ)は気候変動対策を行う法的義務が各国にあるとする勧告的意見を出した。2024年には欧州人権裁判所(ECHR)がスイス政府は十分な気候変動政策を実施していないと非難した

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セメント大手ホルシムと闘うインドネシアの島民たち

このコンテンツが公開されたのは、 インドネシアの小さな島、プラウ・パリの住民は、セメント世界大手ホルシムの排出するCO₂が彼らの生活を脅かしていると訴える。同社が本社を置くスイスの地方裁判所に、気候変動がもたらした損害の賠償を求める訴訟を起こした。

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個人の行動と自然を活用した解決策

気候目標の達成に最も寄与する可能性のあるものは何か。その問いに対しスイス国内の大半の気候学者は「大規模な行動様式の変化」だと答える。同時に、政治・産業レベルでの制度的改革による支援も欠かせないと指摘する。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、食肉消費の削減や化石燃料をエネルギー源とする輸送手段の制限といった、環境に配慮した生活様式や行動を促す適切な政策、インフラ、科学技術を整備することで2050年までに温室効果ガス排出量を40~70%削減外部リンクできる可能性があるという。

調査の結果、生態系の保全・回復や、範囲は限られるがCO₂回収・貯蓄(CCS)といった自然を活用した解決策も気候変動対策に役立つことが分かった。しかし、CCS技術に目を向ける前に「我々は化石燃料から脱却し、再生可能エネルギーの割合を大幅に増やさなくてはならない」と連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)で気候変動がエネルギーシステムに与える影響を研究するヤン・ヤセル・ハダド氏は述べる。

気候変動対策に関する画期的な枠組条約であるパリ協定から10年を迎えるにあたり、スイスインフォは2025年9月、スイスで気候変動関連研究に従事する科学者を対象に、気候研究・政策・地球温暖化の現状に焦点を当てた22の質問からなるアンケート調査を送付した。

調査票を送ったのは、以下の研究機関に所属する気候科学者108人。

連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)、ヌーシャテル大学、チューリヒ大学、ベルン大学、バーゼル大学、ジュネーブ大学、フリブール大学、ローザンヌ大学、パウル・シェラー研究所(PSI)、連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)、連邦材料科学技術研究所(Empa)、スイス気象台(MeteoSwiss)

このうち、80人が調査に回答した。調査結果の詳細はこちら(英語)を参照。

脱炭素移行の加速

調査に参加した多くの科学者が、再生可能エネルギー源の開発の重要性を強調する。チューリヒ大学(UZH)でグローバル・サウスの気候を研究するアンドレア・ファーナム氏は「太陽光発電と風力発電は過去10年で大幅に価格が下がり、格段に利用しやすくなった。再エネの拡大加速が必要な我々にとって、こうした発展は希望が持てる」と言う。

再エネの拡大を妨げているのは技術的問題や財政的問題ではなく、「石油産業によるロビー活動だ」とレベテス氏は指摘する。英紙ガーディアン外部リンクは2024年、欧米の石油産業が半世紀以上にわたりクリーンテクノロジーに対する政府からの支援を阻止してきたと明らかにした。

原子力発電を選択肢とみなす気候研究者はごく小数だ。原子力発電ではCO₂は排出されないものの、原発には環境面・安全面でのリスクがある。調査参加者のうち、太陽放射改変(SRM)に信頼を寄せる研究者の数はさらに少なかった。SRMは太陽放射を人為的に操作して地球の温度を下げるという、物議を醸す技術だ。

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炭素税、電動モビリティ、「シンプルな暮らし」

ベルン大学主任研究員で海洋のCO₂吸収に関する研究を行うイェンス・テアハール氏は調査への回答の中で以下のように述べた。「CO₂排出量を90%削減しないかぎり、どんな技術をもってしても気候変動を食い止めることはできない」

調査に参加した気候研究者の大半は、化石燃料の全面禁止を含む使用の制限と炭素税の導入が国内のCO₂排出料削減に最も効果的な政策手段だとの見解を示した。

チューリヒ大のファーナム氏は「CO₂排出量削減に向けた世界的な取り組みは意欲不足か、意欲はあっても目標未達成かのどちらかだ。炭素税の導入は比較的容易であるし、導入によって個人や企業に気候目標達成を促すことができる」と指摘する。

スイスは2008年、北欧諸国に続く形で炭素税を導入した。化石燃料(暖房用石油と天然ガス)を課税対象とする炭素税の導入は建築物からのCO₂排出量削減に大きく寄与し、2022年までにCO₂排出量は1990年比で44%も減少した。

しかし依然として、建築部門は工業・運輸業と並びスイス国内最大のCO₂排出源だ。調査参加者らは回答の中で、国全体の気候影響を軽減するためには住宅の省エネ改修を対象とした政府補助金は重要な政策手段だと述べた。また公共交通機関への投資や、持続可能な投資を促すための金融規制を支持する声も多かった。

ヌーシャテル大のレベテス氏は、電気を使った移動手段を使うよう促し、障壁を下げる必要があるとみるが、「現在の制度は、内燃機関車(エンジン車)から電動モビリティへの移行を巧妙に妨げている」と指摘する。スイスでは2024年1月1日以降、電気自動車に付与されていた免税措置が廃止され、電動自動車の輸入価格に自動車税が課されている。

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政治的決定や技術的進歩を待たずとも、カーボンフットプリントを減らす方法はあるとする調査回答もあった。ヌーシャテル大学のフィリップ・ルナール教授(水文学)は、温室効果ガス排出量削減に最も効果的な方法は、よりシンプルに暮らし、全体的な消費量を減らすことだと述べる。「我々はもっとシンプルな暮らしの楽しみ方を学ぶ必要がある」

編集:Gabe Bullard/Vdv、英語からの翻訳:鈴木寿枝、校正:ムートゥ朋子

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