スイスの視点を10言語で

イスラエル・ガザ衝突 赤十字国際委員会「組織の活動、ときに誤解」

人質解放が円滑に進んだのは、赤十字国際委員会(ICRC)が武力紛争の全ての当事者との間に築き上げた「信頼関係」に因るところが大きいと語るファブリツィオ・カルボーニ中東事業局長
人質解放が円滑に進んだのは、赤十字国際委員会(ICRC)が武力紛争の全ての当事者との間に築き上げた「信頼関係」に因るところが大きいと語るファブリツィオ・カルボーニ中東事業局長 swissinfo.ch

赤十字国際委員会(ICRC)は、パレスチナ自治区ガザ地区で拘束されているイスラエルの人質解放に大きく貢献した。この難しい任務を可能にしたのは、ICRCの中立性だ。だが組織の活動はときに誤解されることもあるという。

「緊迫」と「複雑」――。先月27日夕にジュネーブで行われたインタビューで、ICRCのファブリツィオ・カルボーニ中東事業局長はここ数日間の出来事をそう表現した。人質解放が行われた4日間、ICRCの現地職員らは、ガザ地区で拘束されていた人質のイスラエル人50人の解放と、イスラエルの刑務所に収監されていたパレスチナ人受刑者150人の釈放を成功させた。

イスラエルとハマスは先月24日から4日間戦闘を休止し、武装組織ハマスが人質を段階的に解放する一方、イスラエル側も収監しているパレスチナ人を釈放することで合意していた。また27日には戦闘休止を更に2日間延長し、30日の午前7時までとすることで合意。28日にはパレスチナ囚人30人の釈放と引き換えに、イスラエルの人質が更に10人解放された。ICRCは拘束者の解放と移送を担当するよう要請を受けたが、中立的な立場から交渉には参加していない。

武力紛争の全ての当事者と「信頼関係」を築くICRCのノウハウのおかげで、過去に何度もそうしてきたように、今回もデリケートな任務が達成できたとカルボーニ氏は言う。この信頼関係は「私たちが中立を貫くという約束の上に成り立っている。政治情勢には決して口を挟まず、なぜ人々が争っているのか、武力行使する権利はあるのかついて、どちら側にも付かない」

>>> 動画ではカルボーニ氏がICRCの中立性の重要性について説明します。来年1月9日配信のポッドキャスト「インサイド・ジュネーブ」では、このインタビューの拡張版をお聞きいただけます(英語)。

「例えば人質が解放される場合、この中立性のおかげで私たちは戦場に赴き、真夜中に出動し、秘密の場所に行って人質の身柄を引き受けることができる。そして同時に、そこから何百キロメートルも離れた場所で、同じことが確実に実行されるように手筈を整えることができる。今回、それはパレスチナ人受刑者の釈放だった」

部外者の目には、単なるロジスティックスの問題に映るかもしれない。だが「互いを信頼せず、殺し合う」者同士の武力紛争において、両サイドから信頼される第三者となるのは「極めて困難」であり、一朝一夕にできることではないとカルボーニ氏は言う。

人質との面会は困難

イスラエルのエリ・コーヘン外相らはここ数週間、ガザに拘束されているイスラエル人の人質と面会しないのであれば、ICRCには「存在の意義がない」と批判していた。国際人道法であるジュネーブ条約に基づき、ICRCは捕虜を訪問して安否を確認し、家族との橋渡しを担う特別な任務を負う。だが面会には当局の承認が必要だ。

「私たちは何でもできると過信されがちだが、できないこともある。私たちには軍隊もなければ武器もない。当事者の一方が拒んでいることを強要できる政治的な力すらない」とカルボーニ氏は説明する。

ICRCは人質を解放するよう繰り返し訴え、全ての拘束者との面会を認めるよう求めてきたが、ガザ地区で拘束されている人質との面会は困難を極める。通常、拘束場所は最前線から離れた場所にあるが、ガザではそれが戦火の真っ只中に位置する。「いずれの当事者も私たちに面会を許可したがらない上、安全上のリスクもある」

医療施設と国際人道法

戦争はガザの医療体制に深刻な影響を与えた。世界保健機関(WHO)によると、ガザ地区にある病院の約4分の3(36軒中26軒)が、敵対行為による被害や燃料不足のために閉鎖されている。またイスラエル軍は最近、ガザ地区最大規模のシファ病院に突入し、ハマスが施設の地下にあるトンネルを隠れ家として利用し武器を保管していると主張した。

病院が軍事拠点として使われているか否かについて、カルボーニ氏はコメントを避け「全ての当事者との極秘の対話の中で、私たちが把握している内容と、彼らが何をすべきかについて包み隠さず話したことだけは確かだ」とした。

国際人道法のもと、医療施設には特別の保護が認められており、攻撃や軍事目的での使用は禁じられている。たとえ兵士が病院を占拠して保護が失われた場合でも、慎重かつ軍事上の危険に見合ったものでなければ武力行使は認めらない。

停戦の次はどうなる?

停戦により、より多くの人道援助がガザ地区にアクセスできるようになった。27日に合意された停戦延長は「良いニュース」だとカルボーニ氏は言う。市民にしばしの安息をもたらし、より多くの支援物資が行き渡り、人質や囚人の解放が可能になる。だが同時に「やるせない」ニュースでもあった。「停戦が終わったら、次はどうなるのか」と考えざるを得ないからだ。

「人道支援団体には解決策を打ち出せない。この危機は政治的に解決するしかないからだ」。また「暴力の根本的な原因に取り組まなければ、いずれまた同じことが繰り返されるだろう」とした。世界各地の紛争で得た数十年の経験から、「安全保障の課題」だけに焦点を当ててもうまくいかないと分かっているためだ。

「閉鎖的で人口密度の高い」ガザ地区で繰り広げられる戦争は、「民間人に壊滅的な打撃」を与えたとカルボーニ氏は言う。「私たちがガザに派遣したのは経験豊富で優秀なスタッフばかり。そんな彼らでさえ、現地の光景にはとてもショックを受けていた」

ハマスの情報によると、ガザではこれまでに18歳以下の6150人を含む1万4854人がイスラエル軍に殺害された。一方でイスラエル側は、10月7日のハマスの攻撃で1200人が死亡し、人質の総数は240人に上ると推定する。

ICRCが紛争国の両側で民間人を保護していることについて、今では「理解を得るのが難しくなった」のは遺憾だとカルボーニ氏は言う。そして「苦しみに上下関係を作ることなく、全ての人に救いの手を差し伸べることは可能だ」と結んだ。

編集:Virginie Mangin/livm、英語からの翻訳:シュミット一恵

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部