チューリヒ市が可決した最低賃金制度は、清掃業者など低賃金の業種に恩恵を与えそうだ
© Keystone / Gaetan Bally
スイス最大の都市チューリヒ市で18日行われた住民投票で、時給23.90フラン(約3780円)の最低賃金を導入する案が可決された。また育児休暇の拡大案がジュネーブ州では可決、ベルン州では否決されるという対照的な結果となった。
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チューリヒ市の最低賃金案は69.4%の圧倒的多数で可決された。時給23フラン未満の労働者は現在約1万7000人で、大半は清掃業、レストラン、小売業などに就く女性だ。
提案したのは左派・中道政党で、最低賃金は貧困との闘いに必要な手段だと訴えていた。
反対派は、最低賃金は非常に限られた「ワーキングプア」にしか恩恵を与えないと反論した。その大半は時給23.90フランを超えているにもかかわらず、他の理由で生計を立てられないだけだと主張した。最低賃金を設ければ、かえってお役所仕事が増えるとの意見もあった。
最低賃金は職業訓練中の実習生やインターンの他、25歳未満で義務教育を終えたが労働資格を持っていない人には適用されない。
チューリヒ州ヴィンタートゥール市も23フランの最低賃金制度が可決された。全労働者の5%に当たる約3600人が恩恵を受ける。
市町村レベルでは初
スイスには全国的な最低賃金制度はない。全26州のうちヌーシャテル州、ジュラ州、ティチーノ州、ジュネーブ州、バーゼル・シュタット準州の5州が住民投票を経て導入した。約20~23 フランと時給はばらつきがある。
連邦レベルでは、2014年に労働組合の提案が国民投票にかけられた。全国規模の最低賃金としては世界最高の22フランが提案されたが、76.3%という圧倒的多数によって否決された。
基礎自治体(日本の市町村に相当)レベルで最低賃金が導入されるのはチューリヒ市とヴィンタートゥール市が全国初となる。だがスイスの通信社Keystone-SDAによると、こうした局所的な措置が法的に認められるかどうかについては疑問が残り、法廷で争われる可能性もゼロではない。
「両親休暇」ジュネーブは可決、ベルンは否決
18日の住民投票では24週間の「両親休暇」をめぐるジュネーブ州とベルン州の対照的な結果も注目された。
全国的には現在、母親は16週間、父親は2週間の育児休暇を取得できる。ジュネーブ州で自由緑の党(GLP/PVL)が提案した両親休暇は、父親の育児休暇が6週間増えて8週間となり、さらに2週間を両親のどちらかが取得できる。
両親休暇は同性婚カップルや養子縁組でも取得できる。財源は雇用者の負担金。企業や中道・右派は支持したが、左派は包括性を欠くとして反対した。
一方、ベルン州では母親・父親の育児休暇が6週間ずつ追加され、さらに12週間を自由に分配できる案が投票にかけられた。ベルン州社会民主党(SP/PS)の提案だったが、反対66.5%で否決された。国民党(SVP/UDC)は「6カ月間も従業員が不在になれば中小企業が耐えられず、人手不足にも拍車をかける」と反対していた。
英語からの翻訳・編集:ムートゥ朋子
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