スイスのイグナツィオ・カシス外相は18日、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)で、ロシア人資産を没収してウクライナの再建に充てることは、明確な法的根拠がなければできないと述べた。
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カシス氏は「侵略者が引き起こした損害は侵略者が修復するべきであることを、我々は皆知っている」と述べたうえで、「だが我々は法の規則の範囲内で行動しなければならない。でなければ、法律違反を犯した人間を非難する際の信用を失う」と続けた。
スイスはロシア政府とつながりを持つと認定したオリガルヒ(新興財閥)がスイスに預けている資産75億フラン(約1兆600億円)を凍結した。ウクライナは資産を恒久的に没収し、戦争被害の賠償に充てるよう求めているが、各国の協調した動きは今のところ出ていない。
背景には、凍結資産の出所が違法なものと断定しづらいことがある。だがスイスは主要7カ国(G7)や欧州連合(EU)、国連と協力し、ウクライナの求めに応じるべく法的解決策を模索している。
カシス氏はスイス公共放送(SRF)のインタビュー外部リンク(19日付)で、「人権憲章に適合した解決策を見出さなければならない。財産権は人権であることを忘れてはならない」と強調した。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、スイスは中立性とロシア制裁との間で揺れてきた。開戦当初はロシアへの経済制裁を拒否したが、国内外の批判を受けて方針転換した。
ウクライナ復興会議
カシス氏の発言は、ウクライナ復興会議の議長国をスイスから英国に引き継ぐ式典で出た。第1回復興会議は昨年7月、スイス南部のルガーノで開催された。
ウクライナのデニス・シュミハル首相は式典にオンラインで出席し、今年6月にロンドンで開催される第2回会議では破壊されたインフラの修復にかかる最大7千億ドル(約90兆円)をどう国際社会が分担するかを決定すべきだと訴えた。
シュミハル氏は、没収したロシア資産もその一部に充てるべきだと主張し「ウクライナに引き起こした損害は侵略者が補償しなければならない」と述べた。
最も急を要するのは、ロシアの度重なるドローン攻撃で出力が半減したウクライナの送電網の修復だ。
シュミハル氏はまた、交通・輸送インフラや生産施設、国内避難民となった国民700万人の住宅の再建が必要だと強調した。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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