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人間の体が電源になる日

Yagi Studio Getty Images

近い将来、人間の体が毎日自然に生み出すエネルギーで電化製品を充電するようになるかもしれない。若く革新的なスイス企業が、人間の体温を電気に変える技術を開発した。

このコンテンツは 2021/05/09 08:30

太陽、風、バイオマス、水力などから得るエネルギーは少し忘れて、想像してみて欲しい。もし、未来の再生可能なエネルギー源が…人間だとしたら?私たちの体が熱を発していることは周知の事実だ。風邪で熱を出して寝込んでいる時や、激しい運動をした後などが分かりやすいだろう。爬虫類などの動物と人間との違いは、この熱を作り出す能力にある。

この熱は、電気に変換できる。これはあまり知られていない事実だ。だが、目新しいアイデアというわけでない。近年の研究でスマートウォッチやフィットネスリストバンドなど、ウェアラブル(身に着けられる)テクノロジー分野や医療分野などでハイテク機器が開発されるようになり、実用化・大衆化が進んでいる。

2018年に設立された連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のスピンオフ企業、ミトラスは、この未来の市場での足場固めを目指す。創業者で最高経営責任者(CEO)のフランコ・メンブリーニ氏(29)は、「大きな可能性を秘めた何かを創り出したいとずっと思っていた。特にテクノロジーの分野に興味があった」とswissinfo.chに語る。大学では歴史学の修士号を取得したが、人間の体温を利用することに魅了され、当初から「この種の分散型発電が秘める大きな可能性」に気付いていた。

全世界で消費されるエネルギーの1割を供給できる

人間の体は、平均して100ワットの電球と同じ位の熱エネルギーを発している。

しかしこのエネルギーの大部分は環境の中で失われてしまう。東部スイス・グラウビュンデン州の首都クールを拠点とする同企業が注目したのは、まさにこの「排出物」だ。発電には、皮膚表面と環境の温度差を利用する熱電発電機(TEG)を使う(ゼーベック効果)。

▼TEGの仕組みを説明するミトラスの動画(英語)

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「重要なのは、体の表面と環境の温度差だ。極地でも砂漠でも、温度差に比例してエネルギー生産量も大きくなる」とメンブリーニ氏は説明する。「温度差が1度あるだけで発電は可能だ」

人体の熱エネルギーを全て取り込み、100%電気に変換することは無理だが、「TEGは将来有望で、その潜在性は計り知れない」と同氏は指摘する。ミトラスの計算では、地球上に77億人以上いる全人類が生み出す熱で、世界中で消費するエネルギーの1割をカバーできるという。

忘れ去られた技術を最適化

このアイデアは決して新しくはない。既に20世紀初頭から、研究者やエンジニアは人体を再生可能なエネルギー源として利用することを試みてきた。同氏はそう指摘し、1940年代に登場した手回し充電式のラジオを例に挙げる。もっとも、バッテリーの進歩により、人力を利用したシステムは次第に鳴りを潜めていった。

だが近年の材料科学やウェアラブルデバイスの発展により、人体が生み出すエネルギーは再び注目を浴びるようになった。「ミトラスは既存の技術をベースにそれを最適化した」(メンブリーニ氏)

スイス連邦材料試験研究所(EMPA)のバイオミメティック・メンブレン・繊維研究所のレネ・ロッシ所長は、ゼーベック効果は以前から知られていたとswissinfo.chに語る。「従来のシステムは有効性が乏しかったため、具体的に適用できる分野が限られていた。今は、ミリワットがゼロコンマ数ワットの範囲まで向上すれば、商業的に面白くなる」

現在、いくつかの方面で研究が進んでいるという。「例えばミトラスでは、太陽エネルギーを利用したスマートテキスタイルを開発中だ。また別の研究グループは、靴底に発電機を組み込んで力学的エネルギーを回収し、電気に変換しようと試みている」

眠っている間に充電

ミトラスは2つのコンセプトを開発中だ。1つは、手首に装着してモバイル機器を充電できる熱電発電機付きリストバンド。もう1つは、熱電発電機を直接デバイスに組み込み、そのバッテリーを電源としてデバイスを充電する方法だ。発電に必要な唯一の条件は、デバイスが身体と接触していることだとメンブリーニ氏は強調する。「そうすればコーヒーを飲んでいても、運動していても、眠っていても、自動的に充電される」

現在、社員6人で運営するミトラスは、エネルギー消費の少ない医療機器の開発に力を入れる。「インスリンポンプ、補聴器、バイタルサイン(体温や血圧、脈拍など)をモニターするバイオセンサーなどは、エネルギーを自給自足できるようにしたい」とメンブリーニ氏は抱負を語る。そうすれば電池の故障によるトラブルや、電池交換に伴う外科手術で生じる合併症の危険性を回避できるためだ。

携帯電話への応用も考えられるが、当面はマトラスの優先事項ではないという。「スマートフォンは、私たちのソリューションにはエネルギー消費量が多すぎる。せいぜいバッテリーの寿命を少し延ばせるだけだ」

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ミトラスは昨年、中国市場への進出を狙うスイスのスタートアップ企業が競う「スイステック・ピッチナー」で優勝した。年内には製品第1号としてバイタルサインをモニターするバイオセンサーの発売を開始する予定だ。

「既に医療技術の分野で国際的に活躍する大手数社とコンタクトを取った」とメンブリーニ氏は言う。「この手の機器では、体温だけで作動する初のデバイスになるだろう」

(独語からの翻訳・シュミット一恵)

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