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ビッグデータ スイスでビッグデータの研究進む プライバシー保護に課題も

A thumb hovers over an iPhone screen showing the Swiss Maps app and Google Earth app.

空前のデジタル情報量とそれを蓄積、分析する高性能のコンピューティング・プラットフォームのおかげで、ビッグデータから価値を生み出すことも可能になった。だが危険も潜む

(Keystone)

スイスの大学などが、ビッグデータを活用するための研究を進めている。複雑で膨大なデジタル情報を処理し、価値を見出す技術を構築できればスイスにとってまたとないチャンスになるが、ビッグデータが及ぼす危険性を懸念する声もある。

 スイス連邦データ保護情報委員会(FDPIC)によると、ビッグデータは四つのVで定義される。四つのVはvolume(量)、velocity(速度)、variety(多様性)、value(価値)を指す。巨大なデータ情報量が、非常に速いスピードで、なおかつ様々なソースやプラットフォームによって処理されているというわけだ。

 自動運転機能を搭載した車の開発に向け、リアルタイムで更新される都市の3Dモデルを作るプロジェクトがある。成功のカギはビッグデータの活用だというが、この定義を見れば納得がいく。

 また、巨大なデジタル情報群を圧縮し、同時に正確な分析ができるアルゴリズムの開発プロジェクトもある。

 この2件のプロジェクトは、スイス科学財団が今年初めに立ち上げたビッグデータの研究プログラム「NRP75:ビッグデータ他のサイトへ」(研究費総額2500万フラン、約27億円)の一環で、研究・開発に携わるベンチャー企業36社が参画している。NRP75では計15校の大学研究者らがプロジェクトを発案。実施期間は2017~21年で、19年に第1号の研究成果が出る見通しだ。

 あるグループは、ビッグデータに絡むITの基礎研究と、ビッグデータの特性が抱える課題について研究を行っている。アルゴリズムの改良のほか、国境や多様なネットワークの垣根を越えて安全かつ高速に処理できるソフトウェアの開発を目指している。

知識は力なり

 情報社会で生活する以上、人に関する大量のデジタル情報を有効に収集、蓄積できる能力は重要だ。人に関する情報の例としては、個人の位置情報や発がんリスク、フェイスブックでどのような投稿に「いいね!」が押されているかなどが挙げられる。

 NRP75の別の研究グループは、ビッグデータが社会に与える影響とその規制について研究を行っている。研究領域は、貿易協定におけるビッグデータ規制から、被雇用者、自動運転車の所有者、病院の患者らの情報セキュリティにかかわる法的、倫理的な課題まで多岐にわたる。

 例えば、健康リスクの計算が今までにないレベルに調整され、健康保険会社がその数値を根拠に患者への保障を拒絶する事態が起こるのではという懸念がある。医療研究データについても、使途の透明化と患者のプライバシーを保護する規制作りが求められる。

 FDPICは、ビッグデータの世界では、今までは匿名だった個人情報でさえも、異なるソースのデータが混ざると非匿名化される可能性があると指摘する。

 FDPICはウェブサイト上で、「今日はまだ『匿名』のデータでも、技術革新と新たなデータソースによって、明日にはその個人情報があっさりと明かされる。これはプライバシーの重大な侵害につながる」と警告している。

消費者保護

 スイスのフランス語圏にある消費者保護機関FRCの医療政策部門を統括するジョイ・デモレミスター氏は、データのプライバシー保護をめぐり、健康保険会社を相手取った訴訟や、バイオバンクに生体情報を提供した患者への同意に関する訴訟の対応を進めていると話す。

 同氏はスイスインフォの取材に「消費者にとって一番大事なのは、自分のデータにアクセスすることを許可するか否か、自由に決められること。患者がサインする同意書は明快で理解しやすく、どこにも秘密事項が隠れていないことが不可欠だ」と話す。

 同氏は「いったんデータを提供してしまうと取り戻すことはできない。我々は保険に書かれた条件と規約を熟読し、注意を怠らないよう顧客にアドバイスしている。健康データはとても繊細なものだからだ。我々は国の情報保護法の制定にも取り組んでおり、何が一般市民にとって良いかを提言している」と説明する。

 さらなる懸念材料は雇用だ。デジタル情報の世界は非常に速いスピードで、大規模に変化する。旧来の雇用もその影響を免れず、多くの職業が人工知能にとって変わられると指摘されている。

価値を生み出す一方で限界も

 NRP75運営委員会のクリスチャン・イェンセン委員長は、スイスがこれらの技術的、法的、倫理的、規制上の課題を解決するには、ビッグデータのグローバルな性質を考慮することが重要だという。

 同氏はスイスインフォの取材に「私のデータがスイス国内では保護されていたとしても、米国で誰かが私のデータを利用して何らかの価値を作り出しているとしたらどうだろう。スイスはグローバリゼーションと国際化によって、取りうる行為に限界があることを理解しなければならない」と忠告する。だからと言って制御不能で強大なものであると怯える必要はないという。むしろ多くの可能性を秘めたツールであり、その方向性を決めるのは人間だと強調する。

 さらに、同氏は「ビッグデータとデジタル化についての国民的な議論が今後も続いてほしい。ビッグデータが異なる分野でどのように使われているのか事例を示すことができて初めて、人々がそれを許容できるか否か判断できる」と指摘する。

 「スイスは他国に比べて国民の教育水準が非常に高い。優れた教育研究機関もある。私はスイスの社会や経済、産業が近いうちに、このビッグデータを活用し価値を生み出すことができるようになると思う」(イェンセン氏)

スイス・データサイエンスセンター(SDSC

連邦工科大学ローザンヌ校、チューリヒ校の共同事業として今年設立。国内におけるデータサイエンスの研究教育及びインフラ設備の発展を目的としている。

拠点は大学があるローザンヌ、チューリヒ。研究員は約40人。オープンソースのデータ分析ソフトウェアプラットフォームを提供している。今秋にはデータサイエンスの修士課程が両校で始まる。

データ・ジレンマ

スイスでは2010年、民間企業によるデジタル個人識別システム「SwissID」が登場した。デジタル情報処理の効率化を図ることを目的としたシステムだが、普及には至らなかった。

利点はオンラインショッピングや税還付、電子投票など異なるサービス上の登録、個人識別を一括管理できること。欧州では、エストニア、スウェーデンなどが同分野で先行している。

今年5月、同システムに関連する新たな試みが始動し、SwissIDの運営会社SwissSignには追い風となりそうだが、一方で個人情報は政府が管理すべきだとの声もある。

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(英語からの翻訳・宇田薫), swissinfo.ch

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