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移民子女の語学教育30年

エリザベット・リンザ氏のクラスでは、テーブルを囲んで話し合うことが多い。一人一人が手を挙げて発言し、たとえその子のフランス語が片言で稚拙でも、けっして終わりまで遮らないことが原則 swissinfo.ch

「普通の生徒なら、授業カリキュラムの半分を語学習得のみに1年間あてれば普通クラスでついていけるようになる。ただし、その生徒の個人的歴史や文化を尊重することが非常に大切だ」とジュネーブ州で移民子女向けの語学教育に携わる先生たちは言う。

このコンテンツは 2008/11/27 15:31

11月25日から28日まで開催のユネスコ主催閣僚レベル会合「第48回国際教育会議」では、さまざまな特殊性を持つ生徒をいかにして普通クラスで学習させるかを主なテーマにしている。グローバル化が進む中、移民子女の語学教育も1つの重要課題になっている。30年間この教育を実践してきたジュネーブの現場を訪ねた。

豊かな文化を持った「プレゼント」が到着

「大切なのは、生徒がこのクラスでリラックスし、たとえ片言でも自分の意見を言えるようにすること。そのためには文化の多様性を教え、決して言葉が稚拙でもほかの生徒が笑わないよう指導する。私も毎回新しい生徒が来たら、問題が1つ増えるのではなく、豊かな文化を持った『プレゼント』が到着したと感じている」
と8年間移民子女にフランス語を教えてきた、「パレット ( Palettes ) 小学校」のエリザベット・リンザ氏は言う。

手作りのカードや、子どもたちと食材を買って料理し、その過程をフランス語で説明させるなど、工夫された教材や教え方を披露しながらも、
「教材や教え方が重要なのではない。それは単なる道具だ。10人先生がいれば10の教え方がある。戦争で両親が目の前で殺されたエリトリアの子や、故国では優秀だったが、ここでは言葉のハンディで悩むコソボ出身の女の子たちにとって、一人の人間として尊重されてはじめて、語学習得への意欲が沸く」
と繰り返した。

また、例えばイギリス出身の男の子は、英語で日常が送れる親のフランス語に対するモチベーションの低さが子どもに影響しているという。そのため両親、学校、子どもの3者会談が不可欠で、なぜ移住したか、何年いる予定か、子どもの教育レベルは、など生徒の生活環境の把握と、通訳を使ってでも両親に語学習得の「受け入れクラス」の存在を認識してもらう必要があると力説する。

ジュネーブ州は、スペインからの移民労働者が増えた1970年代を経て1980年代から移民子女の語学教育が始まった。しかし、今まで週に行なう時間数なども各学校に任されてきた。実は今年9月の新学期から、授業カリキュラムの半分は「受け入れクラス」で語学だけを、残り半分は年齢に合った普通クラスで学ぶ新制度がスタートした。

普通クラスの仲間が主にフランス語を学ぶ間、移民子女は8人から13人の「受け入れクラス」で半日基礎のフランス語を習い、普通クラスでは図工、音楽、算数などを皆と一緒に学ぶ。生徒数450人のパレット小学校では、近隣の2校から来る生徒も含め、30人の移民子女が「受け入れクラス」で学んでいる。

ゲットーのようにはしたくない

「エリオット、その問題が終わったら好きなゲームをしていいから」
と先生の声が飛ぶ。13人の子どもたちは、めいめい辞書を片手に違う問題を解いている。この「トランブレー ( Trembley) 小学校」のクラスは、パレット小学校とはかなり雰囲気が違う。ある程度、フランス語の基本表現をグループで学んだら、自立性を育て、個人のニーズに合わせるため個人学習や個人指導をすると、キャリア7年のシャルル・フィリップ・エモ氏は言う

親の社会、経済的側面も子どもたちの学習意欲に関係するとエモ氏は考える。
「昨年、不法に入国した東欧の子どもが2人いた。親にスイスに落ち着く決意がないため子どもの学習意欲が上がらなかった。今年は多くの子どもの親が国際機関に勤務していて、子どもたちも将来の人生計画などがしっかりしており、語学の伸びも早い」
と言う。

すでに、カリキュラムの半分を語学学習に割く新制度を数年前から、独自に実践してきて、
「この方法が一番良いと教育委員会にも提唱してきた。半分以下だと不充分、半分以上だと日常の単純な言葉の繰り返しになって逆に伸びなくなる。また、ほとんどの子どもは1年ここで学習すると普通クラスに戻れる。戻れない生徒は、精神的ないしは学力的に問題のある生徒で、その場合はもう1つの特殊クラスに入るよう進める」
と新制度を支持する。そして、ここの授業が早く必要でなくなることが目的で、「ゲットー」のようにはしたくないと強調した。

こうしたクラスを受け持つために必要なことは、
「学校に来る意欲を先ず持たせること。生徒の抱えてきた歴史を理解すること。学び方を教えること。また、できるだけ、生徒の性格やニーズに合った教え方をすること」
という。日本人の子どもが1人いるが、3年で帰国するのでフランス語を無理やり押し込まないよう、また競争システムとは異なるシステムもあることを教えたい。27人いれば27の教え方を考えているという。

新しく移民として州に来る就学児童が毎年約300人から400人。就学児童の45%は外国籍を持ち、多い学校では、話される母語の数が90近くあるという、「外国文化」に慣れているジュネーブ州。

2人の先生はこうしたジュネーブの環境で、長年普通クラスを担当してからこのクラス担当を希望した。
「例えばモンゴルの文化を持つ生徒と接せられるのは素晴らしい体験だ。また、ここでは生徒の伸びが毎日のように見えるし、先生のお陰でフランス語ができるようになったと感謝されると本当にうれしくやりがいがある」
と2人はこれからも移民子女への語学教育に意欲を燃やす。

swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ )

ジュネーブ州の移民子女教育

1980年代に移民子女の語学教育が始まった。しかし昨年まで時間数など、すべて各学校の判断に任されてきた。

2008年9月から、州の全小学校で、授業カリキュラムの半分の時間を「受け入れクラス」で語学学習のみを行い、残り半分を年齢に合った普通クラスで、図工、音楽、理科、算数など、フランス語以外を学ぶよう制度化された。

ジュネーブに到着したその日から1年間このクラスに通った後は、普通クラスに戻る。語学学習が不十分だと思われる生徒には例外的に2~3カ月の追加がある。ただし、優秀な生徒は1年間「受け入れクラス」に留まる必要はない。

新しく移民として州に来る就学児童が毎年約300人から400人。「受け入れクラス」は8人から13人で構成されるので、こうしたクラスは州内に約30カ所ある。専門の先生の数は約30人。

移民子女の出身は、ポルトガル、ブラジル、その他の南米諸国、東欧諸国などが多い。

「受け入れクラス」では、異なる母語に応じた授業は行なっていない。一括したフランス語での授業を行なう。ただし、母語は維持するよう強く勧めている。また戦争のトラウマなど、ほかの勉学を妨げる要因を早期に発見し、特別なクラスに移すなどの処置を取ることも大切とされている。

なお、スイスの教育制度は各州によってまったく異なる。そのため、今回の「受け入れクラス」新制度はジュネーブ州独自のもの。

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