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長期失業、コロナで世界的に蔓延

仕事を求め、職業案内所の前に並ぶ大勢の人
仕事を求め、職業案内所の前に並ぶ大勢の人。米ケンタッキー州にて Reuters / Bryan Woolston

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の影響で求人は激減し、長期失業者も国際的に増えている。専門家は今の状態を「時限爆弾」に例える。

西部スイス・ヴォ―州に住むオリヴィエ・ショプファーさん(59)は、経理で30年以上の経験を持つ。だが既に2年半近くも正社員の仕事が見つかっていない。助成金付きの短期の仕事を何度か経た後、ようやく2019年末に採用にこぎつけたが、入社1カ月で解雇となった。

理由はコロナだった。「レストランとの取引が多い会社だった」とswissinfo.chに語るショプファーさんは、「コロナ危機で、もうこれ以上給料が払えないと言われた」と話す。

昨春以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的流行)に対抗するため、スイスや各国の政府はさまざまな措置を講じてきた。そのため経済活動の一部はストップし、不透明な見通しから新規採用を見送る企業や、急速な経営悪化で社員の解雇を余儀なくされた企業が多数出た。

各国の失業率は、政府のコロナ対策や経済支援、労働市場の構造に応じてそれぞれ異なる。しかし過去1年間の値を比較すると、ほぼ全ての国で前年より失業率が上昇している。

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スイスの失業率は引き続き低水準を保っているが、今年1月には昨春以来、最も高い水準を記録。国際労働機関(ILO)の値は5%、より狭義な連邦経済省経済管轄庁(SECO外部リンク)の値は3.7%だった。後者は地域の地域就職支援センター(RAV/ORP/URC)の登録者に限定している。

雇用の見通しが本質的に改善されるかどうか短期的には見通しが立たない。そのため、数カ月あるいは数年に渡って失業率が高水準で推移するかもしれないという懸念が強まっている。

長期失業率は歴史的な高水準

昨年末、国際メディアはこぞって長期失業率の歴史的な高水準について報じた。ドイツ外部リンクでは「長期失業者が約50万人増加」、オーストリア外部リンクでは1年以内に37%増加、スペイン外部リンクでは52%増加、フランス外部リンクでは300万人に影響が出るなど、「空前のレベルに達した」長期失業率を指摘している。

厳密に言えば、失業の状態が1年続いて初めて「長期」失業とみなされる。そのため、現在入手可能なデータはまだコロナ第2波の影響を反映していない。にもかかわらず、すでに大半の国で上昇傾向が見られる。唯一の例外は、既にコロナ以前から失業率が異常に高かったギリシャと、パンデミックに模範的に対処したとされる韓国だ。

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数値が最も悪化したのは米国とカナダだ。最新のデータによると、同2カ国ではその後も失業率の上昇が続いている。昨年の第4四半期に失業期間が6カ月以上の成人が労働力人口に占める割合は、米国で2.8%、カナダで2.2%に達した。

連邦統計局(BFS/OFS)によると、昨年の第4四半期におけるスイスの長期失業者は8万9千人(19年から2万2千人増)。登録者の平均失業日数は、19年の215日から234日に増加した。

SECOの最新調査外部リンクによると、今年1月の時点で職業安定所に1年以上登録していた人は3万700人(昨年比119%増)。求職者全体に占める割合も増加した。

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操業短縮制度が失業を回避

これらの数字は、長期失業率が今後数カ月も上昇し続ける可能性を示しているとローザンヌ大学のラファエル・ラリーヴ教授(経済学)は言う。少なくとも「今のところ、労働市場は危惧されていたほど爆発的には悪化していない」。

特に欧州では操業短縮制度外部リンクが功を奏し、雇用の喪失を抑えたようだ。これは一時的に労働時間の減った従業員の賃金を補償する制度で、これにより事業主は従業員を解雇しなくて済む。

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スイスの操業短縮制度とは

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昨春のコロナ第1波では、スイスで130万人以上、欧州で3200万人以上(労働力人口の約4分の1に相応)がこの操業短縮制度の恩恵を受けた。スイスでは昨秋11月の時点でまだ約30万人が同制度の対象者だった。しかし、こういった一部の雇用は「人為的に」維持されているため、この状態から抜け出すのは困難になるとフランスの日刊紙ル・フィガロは予測する。

その一方で、操業短縮制度という救済制度がない米国やカナダでは、最高を記録した2010年の長期失業率に近づきつつある。

職探しは「ミッション・インポッシブル」

冒頭のショプファーさんは新型コロナウイルスをものともせず、自分の専門分野の求人は減っていないと断言する。それに対し小売業や観光業、飲食業、産業など、多くの分野で雇用市場が枯渇しているという。

フランス語圏のスイスで最近放映されたテレビ番組の中では、ある時計職人と工業経営者が、自身の専門分野で仕事を見つけることは「ほとんど不可能なミッション」になったと訴えていた。

社会統合や職業参加を促す全国的な統括組織「ワーク・インテグレーション・スイス」のフランス語圏の責任者、マエール・モレ氏は、「我々が面接した失業者は、自分の置かれた状況について複数の理由を挙げていたが、その1つがコロナだった」とswissinfo.chに回答した。

失業から抜け出すのは年々困難に

労働市場に明るい兆しが見え始めれば、自動的に「失業期間」を終える人がいる一方で、「労働市場が好転しても、長期失業率は回復が一番遅い」とラリーヴ教授は言う。

多くの研究から、長期失業者は失業している期間が長くなると、職場に復帰する可能性が低くなることが分かっている。目まぐるしく変化するビジネス社会の中で人脈も次第に枯渇し、自信が失われていくためだ。

また、企業は一般的に「一風変わった履歴」を好まないとラリーヴ教授は付け加える。資格が仕事の条件に合わない人や、長年の経験にもかかわらず失業中の人は、面接に呼ばれる可能性が低くなるという。そのため高齢者は仕事を見つけるのが最も難しい。それはSECOの調査外部リンクにも表れている。

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ショプファーさんの場合、59歳という年齢に加え、学歴も既にコロナ危機以前からハンデになっていた。「学歴の低さをよく指摘された」という彼は、定年までの数年では「元が取れない」という理由で、スキルアップ研修を拒否されたこともある。また、彼の経験に対してお金を払うのは勿体ないと思われているように感じたこともあるという。

社会の経済状況はこのような問題をさらに複雑にしている。従来、低賃金・低スキルの仕事は社会復帰への足掛かりとなっていたが、「今ではこの種の仕事が数多くカットされてしまったため、見つけるのが一番難しくなった」とスイス労働組合連合(SGB/USS)のコミュニケーションとキャンペーンの共同責任者、ブノワ・ガイヤール氏は指摘する。

また、社会・雇用統合を専門とする前出のモレ氏は、インターンシップや短期的な仕事といった求職者への支援策も数が限られていると指摘する。

社会から疎外される危険性

失業が続くと、物質的にも心理的にも深刻な影響が出てくる。公的扶助に頼らざるを得なくなったり、社会から疎外されたりするリスクも高まる。

労働組合連合は、コロナ危機の影響があまり出なかった人と、失業が長引き経済的にも厳しい状況に陥った人との格差がますます広がる点を懸念する。同連合のガイヤール氏は「この困難な時期の後遺症をずっとひきずる人もいるだろう」と話す。

こうした事態を避けるため、SGBは特に失業保険手当の拡張を支持する。連邦政府は既に昨年3月、受給資格の喪失を防ぐため失業者に最大120日受給日数を延長する外部リンクと決定。連邦議会は先ごろ、日数をさらに延長することを承認した。

SGBは、コロナ第2波で政府が躊躇していた期間が長すぎたという。そして、「そのうち仕事が見つかるだろうと期待を抱くことはまだ幻想に近い」現状で、受給資格を喪失する失業者たちの今後が気がかりだと話した。

フランス議会は昨年12月、「長期失業者ゼロ」を目指すプロジェクトを延長する法律を可決した。既存の業務ではカバーできない業務に長期失業者を採用すれば、企業に失業手当が支給されるという仕組みだ。このコンセプトはベルギーでも関心を集めている。

同プロジェクトは先ごろフランス語圏のスイス外部リンクでもスタート。プロジェクトを立ち上げた協会は、ローザンヌのソーシャルワーク・ヘルス専門大学(HETSL)と協力し、長期失業者と彼らのスキルを必要とする企業を繋ぐプラットフォームの共同開発を目指す。同協会は連邦イノベーション推進機構(Innosuisse)からの助成金を受けた。

同様の求人プラットフォームはスイス西部・ヌーシャテル州でも開発が進む。同州の求職者7千人にはチェックシートが用意され、検索の幅を広げる手助けとなるアドバイスが記載されている。これにより、忍耐力やチームワークの適性など、仕事以外のスキルも考慮される。

いずれのプロジェクトにも共通するのは、「誰にでも仕事は見つかる」という信念だ。

(独語からの翻訳・シュミット一恵)

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