スイスの病院や老人ホームで死を迎える高齢患者の特別な医療ニーズが十分に満たされていないことが、スイス連邦科学基金が先月公表した研究でわかった。
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スイスでは、大半の人が病院か老人ホームで死を迎える。しかし、人生の最期における人々の基本的なニーズが十分に考慮されておらず、また医療関係者間の連携不足から一貫したケアができていない状態だ。
スイス連邦科学基金が「終末期」をテーマに、スイス国内で5年間に渡り実施した研究結果から分かった。研究はスイス国内で死を迎えることに関する33件のプロジェクトから成る。
研究では、痛みの緩和、生活の質の維持、自己決定に焦点を当てた総合的アプローチである「苦痛緩和治療」が現状を改善する手助けになるとした。
フリブール大学のマルクス・ジンメルマン氏は「スイスで苦痛緩和治療をさらに普及させていかなければならない」と指摘。「そのためには国民の認識を高め、介護士や医師がこの分野でより質の高い研修を受けられるようにすることが重要だ」とした。
費用の問題
人生の最終局面にかかる高額の医療費は、スイスで頻繁に議論の対象となっている。連邦工科大学チューリヒ校景気調査機関(KOF)による最近の研究によると、高齢者の増加とスイス経済の安定が相まって、今年の医療支出は4.1%増加したという。
今回のスイス連邦科学基金の研究では、死に関連する費用は一般的に高齢者の方が若い人たちより低かった。その理由の一つとして、高齢者が病院で死亡するケースがより少ないことが挙げられた。
また、末期がん患者の治療には特に高額の費用がかかるが、人生の最期に必要となる高い費用を負担することに、人々は概ね協力的だということも研究でわかった。この傾向はドイツ語圏の州よりフランス語圏の地域でさらに顕著だった。
スイス連邦科学基金が出資する、最近発表された別の研究によると、スイス国内の終末期医療の費用には性別と居住地が影響する。研究者たちは2008年から10年までに死亡した11万3277人を対象に分析を行ない、死亡するまでの1年間にかかった医療費の地域差を調べたところ、平均で1人当たり3万2500フラン(約373万円)だった。データはスイスの主要医療保険会社6社から提供された保険金支払い請求額をもとにしている。
費用が一般に高かったのは外国人、既婚者、スイスのフランス語圏およびイタリア語圏の住民、そして社会経済的地位の高い地域の住民だった。老人ホームの入居人数が高密度で、病院の病床数が低密度の地域では費用がわずかに低かったことが報告された。
(英語からの翻訳・西田英恵)
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スイス医療団体が今月29日に発表した2016年の統計によると、スイスで働く医師は3万6175人、そのうち約59%が男性だった。女性の数は2010年から38%増加した。
スイス医療団体の統計では、医師の約半数(51%)が開業医で、パートタイム勤務が増加していることが明らかとなった。週の平均勤務日数(半日単位)は女性で6.9日、男性は8.9日だった。
スイスの医師数は人口1千人当たり4.2人。多くの医師がパートタイム勤務である点を考慮すると、その数は人口1千人当たり3.8人となるが、経済協力開発機構(OECD)平均は人口1千人当たり3.3人で、依然として上回る。
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スイスの高齢化に伴い、社会福祉分野で雇用の大幅な増大が見込まれると、2016年末に国が行った調査結果で明らかになった。一方で、適切な人材の確保は難しいとされている。
連邦内務省社会保険局(BSV)は2016年12月、社会福祉分野における雇用と生産性に関する調査を実施。スイスの高齢化に伴い、30年までに福祉関連で13万4千人分のフルタイムの雇用創出が見込まれると報告書で発表した(※雇用創出数は連邦政府による公式データではない)。
日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングが伝えたところによれば、同報告書は「今日、社会福祉分野で人材の需要が高まっており、これまで以上に雇用を生み出している」と指摘。また「同分野における雇用は今後15年以上に渡り、成長し続けるだろう」としている。
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