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原爆、津波、抹茶…スイスのメディアが報じた日本のニュース

広島の灯篭流し
平和を守るために、原爆の恐ろしさをどう伝えていくか――被爆の証人が減る中、広島ではさまざまな取り組みが進んでいる(写真は2017年) EPA/KIMIMASA MAYAMA

スイスの主要報道機関が先週(7月28日~8月3日)伝えた日本関連のニュースから、①原爆の記憶をつなぐ②スイス人が体験した津波の恐怖③抹茶ブーム、スイスにも波紋、の3件を要約して紹介します。

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原爆投下や終戦から80年の日が近づき、国内外で関連記事が増えています。スイス・ドイツ語圏では、原爆の恐怖について懸命に語り継ごうとする日本と、原爆への恐怖を「ポップカルチャー」に変えた米国の姿を描く2本の対照的な記事が配信されました。

原爆の記憶をつなぐ

広島・長崎への原爆投下から80年。ドイツ語圏の大手紙NZZは、日本が広島の記憶をどうつなごうとしているかに注目した特集を掲載しました。

第二次世界大戦を戦った日本人兵士で存命なのはわずか800人。広島で自らの体験を語るヒバクシャは30人ほど。記事はこうした数字を引用しながら、広島ユースピースボランティア外部リンクや、被爆者からその体験を学び伝える「被爆体験伝承者外部リンク」といった記憶の継承のための取り組みを紹介しました。

そのほかAIを使った取り組みとして、NHKの「被爆体験継承プロジェクト外部リンク」も取り上げました。14歳で被爆した梶本淑子さんが、5日間の録音でジャーナリストから900に及ぶ質問に回答。これをもとに、スクリーンに映る梶本さんの映像が被爆体験に関する質問に答える仕組みです。

記事はこのプロジェクトに「比較的シンプルなAI」が使われていることにも注目。「最新AIは時に情報を捏造する傾向がある。AIが導き出した結果は依然として目撃証言と言えるのだろうか?」という開発者たちの疑問を伝えています。

一方、加害者としての日本に関する伝承にも問題があることを記事は指摘します。「謝罪や自己批判的な歴史教育」を求める左派・リベラルと、「日本軍が犯した残虐行為について沈黙・否定する」ことを求める伝統主義者や中道右派の国粋主義者とに分かれ、「公的な追悼活動に影響を与えている」といいます。

記事は「近隣諸国では、自国の犠牲者は記憶しても、残虐行為は記憶しないという態度は歓迎されていない」と続けます。そして「この矛盾が、長年、広島の平和メッセージの足かせになっている」と指摘。それが世界で核武装論が盛り上がったり、日本で参政党が躍進したりと「新たな地政学的時代」への突入の一因になっていると論じています。

ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は原爆投下直後から1960年代にかけて、米国で原爆が「ポップカルチャー」化されたことを振り返りました。「When They Drop the Atomic Bomb(彼らが原爆を落とした時)」「Atomic Cocktail(原子カクテル)」「Atom and Evil(原子と悪魔)」「Uranium Rock(ウラニウム・ロック)」と題する楽曲が発表され、かのエルヴィス・プレスリーはラス・ベガスで「Atomic Powered Singer(原子力で動く歌手)」として売り出されたといいます。「atomicという語は、現代性やクールさ、技術の進歩を表すコードだった」

こうして「核の恐怖はブランドとなり、ポップカルチャーによってスピード、エネルギー、そして未来への約束へと変貌」を遂げました。それは決して世界がナイーブだったわけではなく、「言葉が通じない時代にいつもやるように、歌い、踊り、怪物を作る」ことで、「恐怖を皮肉に変え、トラウマをトレンドに変える」試みだったと記事は分析します。

しかし今、ロシアやイラン、イスラエルといった国々が核による威嚇合戦を繰り広げ、核の脅威は再び現実のものになっています。記事は「再び現実味を増してきた終末を忘れさせてくれる音楽が今回は現れることがないと、私たちはずっと以前から感じていたのだろう」と結びました。(出典:NZZ外部リンクSRF外部リンク/ドイツ語)

スイス人が体験した津波の恐怖

7月30日午前にロシアのカムチャツカ半島付近でマグニチュード8.7の地震が発生し、日本に最大1.3mの津波をもたらしました。ロシアや北米・ハワイなど幅広い地域に津波警報が発令されたとあって、スイスでも各言語圏で大きく報じられました。

そのなかで、オンラインメディアwatson.chドイツ語版は、アジアを横断する自転車旅に挑戦中だったスイス人旅行者ピウス・オットさんに遠隔取材。警報発令当時の緊迫した様子を伝えました。

オットさんは30日午前10時半ごろ、仙台市から南下する途中でスマートフォンに警告メッセージを受け取りました。日本語の警報をアプリで翻訳し、すぐに高台へ避難を始めます。スピーカーからもサイレンや避難を呼びかける声が街に響き渡りましたが、オットさんは「ツナミ!ツナミ!ツナミ!」としか聞こえなかったといいます。「最初はパニックになった。海岸沿いを走っていたので、いつ大波が押し寄せてもおかしくない状況だった」

しかし内陸に進むにつれ、海抜の高さや避難場所を示す標識もあり、オットさんは心がだんだん落ち着いてきました。また地元住民が非常に冷静に対応していることにも気づいたと話します。「ここの人々はこうした状況に慣れていて、ごく普通に対処している印象を受けた」

状況が落ち着くと、オットさんは自転車の旅を再開。暑く晴れていたのに津波で濃い霧がでていたこと、川が内陸方向に向かって流れていくのを目撃しました。東日本大震災後に防潮堤が整備され、「川をせき止めることさえ可能なのだ」と驚きを語りました。(出典:watson.ch外部リンク/ドイツ語)

抹茶ブーム、スイスにも波紋

世界は空前の抹茶ブーム。スイスメディアでも繰り返し報じられていますが、先週はドイツ語圏やフランス語圏で大手メディアがこぞって取り上げました。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)外部リンクはカフェインの効果をコーヒーと比べ、フランス語圏の大手紙ル・タン外部リンクは「極長安」「雲鶴」「和光」「天授」と銘柄名も挙げてオンラインショップでことごとく売り切れていると紹介。「抹茶を飲みすぎると髪の毛が抜ける」というインフルエンサーの嘆きを検証する記事外部リンクや、抹茶の代わりにほうじ茶を提案する記事外部リンクまでありました。

スイスの小売・飲食業界も抹茶ブームの波に乗っていますが、恩恵ばかりではないようです。ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、チューリヒで抹茶を提供する店が値上げを迫られたり、配送の遅れに直面したりしていると報じました。

ベルンの地域紙ブントは、期間限定カフェで抹茶ドリンクを提供するニコ・チョップさん(24)に取材しました。ストロベリー抹茶ラテは1日120杯を売り上げていますが、8フラン(約1400円)の価格でも「せいぜい夏の終わりまで経費を賄える程度」の収益だと言います。

抹茶供給の厳しさを伝えるこれらの記事は、スイスの抹茶ブームを煽ることになるのか、それとも沈静化していくのか。抹茶のオンライン販売を手掛けるチューリヒのカロリン・ヴィルナーさんはターゲス・アンツァイガーの取材に「今後2年はこの状態が続くだろう」と話しました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンクブント外部リンク/ドイツ語)

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