
カミカゼ、健康診断、非喫煙休暇…スイスのメディアが報じた日本のニュース

スイスの主要報道機関が6月30日~7月13日に伝えた日本関連のニュースから、①戦争プロパガンダの遺物「カミカゼ」②日本の健康診断はスイスの模範に?③非喫煙者限定休暇、スイス人はどう思う?④「外国人」が初めて選挙の争点に、の4件を要約して紹介します。
「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録はこちら
戦争プロパガンダの遺物「カミカゼ」
ロシアとウクライナの戦争で双方が用いる自爆型ドローン(小型無人機)は、欧米メディアでしばしば「カミカゼドローン」と呼ばれています。ナチス時代にプロパガンダ的な軍事用語が数多く生み出されたドイツ語圏ではこのような言葉の使い方は廃止するべき、との寄稿が、ドイツ語圏大手紙NZZに掲載されました。執筆したのは独マンハイム大学のユリアン・ディルケス社会学部長とベルン教育大学(PHB)の歴史家ユディト・ヴィターレ氏です。
「ドイツ語圏の高齢世代なら、一見無害に見えるがよく調べてみるとファシズム的に生み出された言葉であるという表現を数多く挙げることができる。そして幸いにも、それらは現在ではもう使われていない」。ナチス・ドイツの場合はそうした言葉の使用はかなり抑制されてきた一方で、日本に関しては背景知識が乏しいため、「カミカゼ」のような言葉が今も当たり前のように使われていると分析しました。
続けて、「カミカゼ」の語が13世紀の元寇に由来し、19~20世紀のナショナリズムの時代に「日本は『神の国』であるとする考え方と密接に結びついた」と解説します。そして1937年に朝日新聞社が英国王の戴冠式を祝うために英国への長距離飛行を企画し、東京・ロンドン間を94時間56秒という世界記録をたたき出したことから、日本製航空機が「カミカゼ」として世界で注目されるようになったと記しています。
「プロパガンダのピーク」は1944年、大西瀧次郎海軍中将がフィリピンで零式艦上戦闘機に爆弾250㎏を搭載し、パイロットが敵艦に突撃して撃沈すると発表した時だ、と続けました。約4000人の特攻隊員の「ほとんどは狂信的ではなく、最後の飛行に身を投じる意志もなかった」と注記しました。
そのうえで、「カミカゼドローン」という呼称は「若いパイロットによる自殺的な戦闘任務を矮小化する」と批判。「このような巧妙な美辞麗句は犠牲となった人間を置き去りにするだけでなく、技術的な関連も曖昧にする」と指摘します。
ドイツにも他国に多用されたくない言葉があることを紹介。ナチスが第二次大戦中に用いた「電撃戦(Blitzkrieg)」という語が、戦後、英国メディアによるサッカー報道に多く登場したことに、ドイツ国民は長らく憤慨してきたと言います。「日本でも、かつては悪名高い軍事用語が使われていたし、今でも使われている。私たちは、この用語を避けることに慣れるべきだ」と結びました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
日本の健康診断はスイスの模範に?
スイスでは医療費の膨張や、それに伴う保険料の上昇が大きな政治問題になっています。スイスの民間医療保険企業グループ・ミュチュエル(Groupe Mutuel)のカリン・ペロダン会長はオンラインメディアwatson.chドイツ語・フランス語版に、保険料上昇に歯止めをかける策として日本のある慣習が参考になる、と寄稿しました。
健康的な食事や運動といった「予防」はスイスでも推進されています。スイス連邦議会は3月にまとめた医療費抑制総合対策第2弾外部リンクで、被保険者の健康状態に基づいた情報提供や的確な支援を保険会社に義務付けました。ペロダン氏は「正しい方向への1歩だが、不十分だ。健康と予防は、国家の中心的な課題でなければならない」と指摘。スイスの年間総医療費のうち予防に充てられるのはわずか2%に過ぎず、「明らかに少なすぎる。将来の健康コスト上昇は食い止められない」と言います。
そこでペロダン氏が注目するのは、日本企業が取り入れている健康診断。ほぼ全ての成人が毎年、丸一日かけて健康診断を受け、費用は雇用主が負担していると紹介しました。「産業効率の先駆者である日本は、健診によって利用可能な資源を最大限に活用し、コスト管理を重視する」
同氏は文化などの違いから2国を単純に比較することはできないと前置きしながら、「たとえ少しでも、日本からインスピレーションを得ることができれば、中期的には私たち全員が確実に恩恵を受ける」と強調しました。(出典:watson.ch/ドイツ語外部リンク・フランス語外部リンク)
非喫煙者限定休暇、どう思う?
非喫煙者にはもっと多くの休暇を与えるべきか?大衆紙20min.ドイツ語版はある日本企業が導入した非喫煙者向け休暇を紹介し、読者の意見を募りました。
EC(電子商取引)マーケティング支援ピアラは2017年、非喫煙者に年間6日分の特別有給を付与する「スモ休」制度外部リンクを導入しました。喫煙者は通常の休憩時間以外にも業務を離れることがあり、非喫煙者との業務時間の差が生まれることを問題視する声が社員から上がったことが導入のきっかけでした。
20min.はスイスの労働法における休憩時間の決まりを紹介し、「喫煙休憩は労働時間とはみなされず、通常、雇用主の許可を受ける必要はない」と説明。企業が独自にルールを設けることはできるものの、ピアラのような追加休暇は例がないと伝えています。
記事に対し、読者からは250件のコメントが寄せられました(現在は投稿不可)。最も反響が大きかったのは「私は、喫煙者の方が非喫煙者よりも多くのことを達成していると確信する」というコメント。20min.編集部がそう考える理由を尋ねると、別の読者が「(かかりつけの)心理学者によると、診断されていない注意欠陥多動性障害(ADHD)の人は、自己治療として喫煙したり、大量のコーヒーを飲んだりするそうだ。つまり、特定の状況下では、喫煙者はタバコを吸った後にパフォーマンスが向上する可能性がある」と投稿し、さらに議論を呼びました。
別の読者はスモ休については「なんてナンセンス!」とする一方、「公平性を保つために、雇用主は従業員に対し、正式な休憩時間または退勤時間中にのみ喫煙を許可するという指示を出す」ことを提案。また「誰がどのくらい喫煙しているかを把握しなければならない」というハードルを指摘したうえで、「良い雇用主が気にするのは喫煙するかどうかではなく、従業員のパフォーマンスだ」と主張する別のコメントには多くの共感マークがつきました。(出典:20min.外部リンク/ドイツ語)
「外国人」が初めて選挙の争点に
watson.chドイツ語版は、20日投開票の参院選で「外国人」ないし「移民」が重要な争点に挙がってる、と伝えました。
記事は、個別党名を挙げずに「少数の右派ポピュリスト政党が移民労働者への反感をあおっている」と指摘。これに対し、石破茂政権が外国人政策の司令塔となる事務局を内閣官房に設置すると表明したと伝えています。
急に争点に浮上した理由は明示していませんが、政権与党の過半数確保が難しい見通しであること、人口の外国人比率は3%にすぎないものの労働力不足を背景に急増していること、外国人観光客数も伸びていることを説明しました。(出典:watson.ch外部リンク/ドイツ語)
【スイスで報道されたその他のトピック】
トランプ政権、日本・韓国に25%関税を通告(7/7)
【ショート動画】新燃岳が噴火外部リンク(7/7)
石破首相、トランプ関税に「きわめて遺憾」外部リンク(7/8)
ヴォー大学病院、感染症シンポジウムを万博スイス館で開催外部リンク(7/9)
「温泉シャーク」ヌーシャテル映画祭で上映外部リンク(7/9)
ジュネーブ紙が伝えた原爆投下外部リンク(7/10)
日常的嫌がらせから身を守る言葉「ハラ」外部リンク(7/11)
ジュネーブの本格鉄板焼き店外部リンク(7/12)
米国防総省高官、日豪に台湾有事への関与を要求外部リンク(7/12)
アニメ人気急上昇の理由は外部リンク(7/13)
話題になったスイスのニュース
外国人として初めて刀鍛冶の国家資格を取得したジョハン・ロイトヴィラーさんはスイス・ヴァリス州出身。スイスインフォとのインタビューで、刀鍛冶の魅力について「私は死ぬ。しかし私の作品は残る」と語りました。

おすすめの記事
外国人初 スイス人鍛治職人が日本で刀匠になるまで
参院選で外国人政策が争点となる中、スイスの移民の実態をデータで分析した記事もよく読まれました。スイスは欧州のなかでも外国人比率が高いことで知られていますが、移民2世も含めるとその割合は4割に。ホテル・飲食業では外国人労働者への依存度が特に高くなっています。
週刊「スイスで報じられた日本のニュース」に関する簡単なアンケートにご協力をお願いします。
いただいたご意見はコンテンツの改善に活用します。所要時間は5分未満です。すべて匿名で回答いただけます。
次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は7月21日(月)に掲載予定です。
ニュースレターの登録はこちらから(無料)
校閲:宇田薫

JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。