石破退陣、成年式、日本ビジネス…スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が9月3日~9日に伝えた日本関連のニュースから、①石破首相退陣 スイス紙はこう読む②悠仁さまが成年式 注目は皇位継承問題③スイスに進出する日本ビジネス、の3件を要約して紹介します。
石破茂首相の退陣表明について、スイスメディアは石破氏自身よりも自民党が危機的状況にあることを指摘しています。また日本企業のスイス進出が相次ぎ報じられましたが、人件費が高く市場規模の小さいスイスを敢えて欧州進出の足掛かりとする企業の狙いは何でしょうか?
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石破首相退陣 スイス紙はこう読む
石破茂首相が7日緊急記者会見を開き、退陣を表明しました。スイス・ドイツ語圏では、南ドイツ新聞東京支局のトーマス・ハーン記者による論説がターゲス・アンツァイガーなどの提携紙に掲載されました。
ハーン氏は石破氏が辞任する理由を、人事が「虚栄心とエゴに駆られた政治家の道具」になった結果だと分析しています。インフレや停滞する経済、高齢化といった複雑な課題が山積する一方、「同僚を貶めるのは容易だ。自民党の一部は一貫してそうしてきた」と皮肉りました。
穏健派の石破氏は、裏金問題で失墜した自民党の信頼回復を担うために総裁に選出された、とハーン氏は続けます。「だが自民党右派はあまりに強力で、もはや矯正不可能だった」。参院選で敗北したのをこれ幸いと石破降ろしが始まったと読み解きます。しかし参院選の敗北も、裏金問題で自民党を離れた有権者が参政党に向かった結果であることを、石破批判者たちは忘れていると批判しました。
批判勢力が「石破氏と和解し、自民党が新しい力を獲得できていれば日本にとってプラスだった」、とハーン氏は指摘します。しかし「彼らは自民党を危機に陥れたスキャンダルの責任者であるにもかかわらず、自分は正しいと信じ続けている」として、これが日本に必要な改革を遅らせていると結んでいます。
ドイツ語圏の大手日刊紙NZZは、石破氏辞任の理由を「失脚するより辞任を選んだ」と説明しています。8日に自民党総裁選を前倒しするかどうかの投票が予定され、事実上の解任につながる可能性があったと指摘します。
記事は自民党総裁が短命に終わることは珍しいことではないとしながらも、今回新しい点として「自民党が保守派の基盤であるのかどうか。保守派自身が公然と疑問視し始めている」ことを挙げます。故・安倍晋三首相のスピーチライターだった谷口智彦・日本会議会長が、保守系メディア「ジャパン・フォワード」外部リンクで「安倍首相が去り、岸田文雄氏が自民党の基盤を崩壊させた今、もはや私たちが盲目的に自民党を支持することはない」と述べたことを紹介しました。
谷口氏は「私たちは皇室、伝統、天皇制を擁護する個人を支持する」と続け、参政党がその選択肢になったと語ります。記事は、来る総裁選で「誰が候補者になるにせよ、自民党は久々に真の岐路に立たされることになる」と指摘しました。(出典:ターゲス・アンツァイガー、NZZ外部リンク/ドイツ語)
悠仁さまが成年式 注目は皇位継承問題
秋篠宮ご夫妻の長男、悠仁さまの成年式が6日執り行われました。スイスでは全言語で報じられましたが、どのメディアも皇位継承問題とともに伝えています。
ターゲス・アンツァイガーなどTamedia系のドイツ語圏メディアでは、悠仁さまが秋篠宮さまに次ぐ皇位継承順位第2位であり、「最後の皇位継承者となる可能性がある」と報道。皇室に詳しいドイツ人日本学者のエルンスト・ロコヴァンツ氏は悠仁さまに将来男系の子どもが生まれなかった場合、「皇室は消滅する」と話しました。そして男女を問わず原則として第1子が皇位に就くよう皇室典範が改正されれば、子孫の問題は解決するとの見方を示しています。
週刊誌シュヴァイツァー・イラストリールテは、悠仁さまが天皇陛下の子どもではなく甥であることを強調。「国民の9割は愛子内親王が皇位に就くべきだと考えている。しかし愛子内親王は女性であるため、それは実現しない」
記事は1980年のスウェーデンを皮切りに、ヨーロッパでは皇位継承の男女平等が進んできた経緯を説明しています。オランダ(1983年)、ノルウェー(1990年)、ベルギー(1991年)、デンマーク(2009年)が続き、イギリスも2013年に正式に平等化しました。
フランス語圏では仏APF通信の記事が無料紙20min.などに転載されています。記事は男性しか皇位継承できないという規定が「国連委員会から批判されている」と指摘。「私にとって、女性が天皇になるか男性が天皇になるかは関係ない」とコメントする日本人の声を紹介しました。
「伝統主義者は『万世一系の皇統』が日本の基盤であり、それを変えることは日本を分裂させることになると信じている」。皇后陛下や眞子さまがストレス関連の病気に悩まされたこと、皇室の女性は結婚すると家族から離れなければならないこともとりあげています。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク、シュヴァイツァー・イラストリールテ外部リンク/ドイツ語、20min.外部リンク/フランス語)
スイスに進出する日本ビジネス
スイスはこの2年、空前の日本ブーム。旅行者が増えるだけでなく、スイス国内でも日本文化が大人気。ロンドンやパリなど大都市に比べ流行に遅れがちなスイスにも、日本企業の進出が相次いでいます。
フランス語圏の日刊紙24heuresには、スイス西部ローザンヌにバンダイのカプセルトイ「ガシャポン」の常設オフィシャルショップが設置されると報じました。スイスでは初めて、欧州では今年3月の独デュッセルドルフに次ぐ2店舗目となります。
開業場所はローザンヌのポップカルチャー専門店ミックス・イメージ。60m²の売り場に194台のガシャポンを置くほか、120点以上の公式フィギュアなども展示されます。販売代理店を務めるゲンキ・コープのピエール・アンドレ・グラスレー氏は、「スイスはフランス語、イタリア語、ドイツ語圏という多様な文化圏があり、それぞれ日本文化に対して異なる姿勢を持っている。そんため、スイスは実験室のような役割を果たす」と話しました。
ターゲス・アンツァイガーには8月にチューリヒに開店した日本のラーメン屋「町田商店」の食レポが掲載されています。こちらは欧州初出店、アジア以外では4店舗目。チューリヒには多くのラーメン店がありますが、日本企業の出店は初めてです。
記事が強調するのは行列の長さと回転の速さ。記者は事前に「30分は並ぶ」と聞き、実際にはそこまで並ばずに済んだものの、行列が常態化していると伝えています。しかし「ラーメン店はスピードと回転率で成り立っているので、ほんの少し待つだけですべての料理が同時にテーブルに運ばれてきた」。そして1時間もしないうちに満腹になったと言います。
「食べ終わるまでに、店の前の行列は少し長くなっただけだった。待ち時間もみんなで過ごす経験だ。最初に並んでいた人は、喜んで次の人に席を譲る。店を出る時には店員全員が『ありがとうございます』と叫び、客は『ごちそうさまでした』と返す」
フランス語圏の大衆紙ブリックには、ユニクロのスイス進出が取り沙汰されています。記事はユニクロが200年代こそ欧州進出に苦戦したものの、現在は欧州で爆発的な成長を遂げていると紹介。スイスの国民的スター、元テニス選手のロジャー・フェデラーさんが広告塔を務めていることから、「ユニクロとロジャー・フェデラーのスイスファンは、スイスでの店舗オープンを長らく待ち望んでいる」と伝えています。
ユニクロがSNSで欧州の新店舗情報をちらつかせるたびにスイス開店を期待する声が上がりますが、今のところ実現していません。ブリックはスイス進出についてユニクロに問い合わせましたが、9月3日時点で回答がなかったとのことです。
一方、ルツェルナー・ツァイトゥングなどのドイツ語圏地方紙は、ルツェルン州アドリゲンスヴィルで日本食品の輸入販売業「Umami Snack」が、あるトラブルで廃業に追い込まれたと報じています。
トラブルの始まりは、スイスの食品大手ネスレから発せられた警告でした。日本からスイスに「キットカット」を直輸入することがEU法に違反するという内容。スイスの食品法は輸入に関してEU法に準拠しており、EUの「TRACESデータベース」に登録されている製造業者からしか輸入できません。
ネスレを含め、Umami Snackが取扱う商品のメーカーは1つも同リストに載っていなかったことが明らかになり、販売の中止を余儀なくされました。合法の商品だけでは経営が成り立たなくなり、廃業することに。親子で店を経営するクレメンス・フォルスターさんは、理論的には主要メーカーをデータベースに登録することも可能だが、それには多大な労力と時間、費用がかかると説明。日本当局とのやり取りも必要になり、「私たちのような小さな家族経営の企業では、到底対応できない」と語りました。(出典:24heures外部リンク、ブリック外部リンク/フランス語、ターゲス・アンツァイガー外部リンク、ルツェルナー・ツァイトゥング外部リンク/ドイツ語)
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話題になったスイスのニュース
米ドナルド・トランプ政権がスイスに39%の高関税を課してから早1カ月。世界で5番目に高い関税を課されたスイスは、大きな試練を迎えています。主要産業の医薬品や金が対象外であることは不幸中の幸いですが、景気減速や失業が懸念されています。スイスの産業構造などをもとに、今後予想される影響をまとめたこちらの記事がよく読まれました。
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次回の「スイスメディアが報じた日本のニュース」は9月17日(水)に掲載予定です。
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校閲:宇田薫
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