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WHO,謎の肺炎の病原体に4つの仮説?

SARSは世界で49人の死者を出した。WHOは中国と香港のケースを懸念している。 Keystone

世界保健機構(WHO)は25日、ジュネーブ本部での記者会見でアジアに流行している原因不明の肺炎、重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原体について2種類のウイルスが世界各地の研究所で発見されたと発表。

これまでに、原因ウイルスはパラミクソウイルス科のメタニューモウイルス属の可能性が高いと指摘されていたが、新たに風邪のウイルスの一つであるコロナウイルス科の一種も多くの患者から検出された。このため病原体の断定は難航している。

 26日までのWHO報告によると、これまでに世界14カ国で1323人のケースの報告があり、49人の死者が出ている。WHOが感染確認地域に指定しているのは、香港(316人うち10人死亡)カナダ(19人うち3人死亡)、シンガポール(74人うち1人死亡)、台湾(6人感染)、ベトナム(58人うち4人死亡)と中国である。2月以来、詳細の公開を避けていた中国政府だが、広東省の7つの都市で昨年の11月中旬から発症した謎の肺炎感染者の数を792人、うち死亡者31人と26日に発表した。現地に送られたWHO専門チームはアジア諸国で2月26以降から発生しているSARSと中国、広東省での感染症は同一のものだとの見方を強くしている。

検出されたウイルス

 呼吸器疾患や麻疹を引き起こすパラミクソウイルス(Paramyxoviridae)は5種類に分類され、人や家畜に呼吸器疾患を起こすパラインフルエンザウイルスやおたふく風邪の原因となるムンプスウイルスなどがある。SARSの原因はこのパラミクソウイルス科に属するメタニューモウイルス(Metapneumovirus)である可能性が高いとカナダの研究所が指摘した。このウイルスは2001年にオランダで発見され、小児気管支炎の原因となる。現在のところ、9つの研究所でこのウイルスが検出されている。

 原因究明が難航し始めたのは、感染した患者から人間の呼吸器症状や腸炎による下痢などを引き起こすことで知られているコロナウイルス科(Coronaviridae)の新種のコロナウイルスが3つの研究所で検出されたことだ。コロナウイルスは普通人間などには軽い症状を起こすほか、豚や鳥などにも感染する。

4つの仮説

 WHOのヘイマン博士によると、この発見により4つの仮説が立てられる。「第一は、知られていないコロナウイルス科のウイルスがSARSの原因であること。第2は、新しいパラミクソウイルス科のウイルスが病原体であること。第三に考えられるのはこの二つのコンビネーションによって発生すること。第4は、両者とも一般的なウイルスなのでたまたま検出されたが、どちらかがウイルスが病原体である」と説明する。また、「コロナウイルスは免疫の中で生息すると知られており、これによって抗体を破壊されパラミクソスウイルスが繁栄するというシナリオも考えられる」と述べた。

謎の感染経路

 WHOによるとこれまでのケースはほとんど感染元がはっきりしており、大概の場合、感染者の家族か医療関係者などであった。ベトナムやカナダなど第二感染地では感染症の発生を抑えることに成功したが、香港と中国のケースへの懸念はさらに強まっている。WHOはSARSは空気感染はせず、直接の接触がなければ感染しないとしているが、香港の大量発生を受けて5人のWHOチームを現地に送り、大量発生の原因を究明している。

 WHOは15日に「緊急旅行勧告」を出したが渡航自粛などはまだ出していない。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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