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もぐもぐスイス味 第2弾 その1 ― モモヨ隊員と暗闇に挑戦 ―

1999年12月、目の不自由な人たちが運営する「目隠しの鬼ごっこ ( Blindekuh ) 」がオープンした。マスコミでも大きく取り上げられ、チューリヒで知らない人はいないほど有名になった。暗闇で食べる料理を「肝試し」に来る人もあり、ほぼ毎日満席だという。

「目の不自由な人の文化促進と健常者との相互理解」。目の不自由な人の職場提供の役割を果たすというコンセプトが受け入れられ、また、料理の質も高いことからリピーターも多いとのこと。バーゼルにも支店を出すほど、いまや順風満帆のレストランだ。

 今回は「2人だけでは怖い」というモモヨ隊員に応え、スイス人男性と日本人女性を加えた4人での会食となった。グループでわいわいがやがや、雰囲気を楽しむという意味でもモモヨ隊員の意見は正解だった。予約の際、電話口に出た人も目が不自由らしい。コンピュータにデータを入力している最中に、人数の訂正をお願いしたところ「それなら最初からやり直さなければならない」と言う。予約時から、別世界への予感で緊張した。

立場の逆転を味わう

 携帯品はすべてロッカーに預けるように指示される。光を発するものはすべて持ち込み禁止で、タバコもいけない。

 レセプションでメニューを検討し、注文したい料理の名前を覚える。暗闇に入ると、メニューは読めないからだ。まもなく、わたしたちの担当、ヤンカさんが現れた。彼女の名前もしっかり覚えておくようにとのこと。「困ったらいつでも呼んで下さいね」と言われ、困ることが起きるのか、と身構えた。

 ヤンカさんを先頭に前の人の肩に手を乗せ5人が連なって、レストラン内に入って行く。彼女の足取りは速い。椅子を差し出されて「さあ、どうぞ」。案外すんなり座ることができた。
 
 テーブルに付いた4人は一斉に、テーブルセッティングを確認しあう。ナプキン、ナイフ、フォークは普通。ワイングラスの首は短い。経営責任者のアドリアン・シャフナー氏は「特別選んだわけではありません。他のレストランでもグラスは壊れますから」と言う。ちなみに食器もテーブルクロスも白なのだそうだ。

 暗闇でも楽に食べられるような料理への配慮はまったくない。スープはぽとぽととこぼすは、リゾットが皿からはみ出すはして、テーブルクロスを汚した隊長。「お客様が立ち去った後は、きれいだったり汚かったり、普通です」とシャフナー氏。目の不自由な人に闇の世界で誘導されるという立場の逆転を十二分に味わった4人だった。

・・・でモモヨ隊員は

 前菜をいただきながら、( こう言っちゃ失礼ながら意外に ) おいしいっとみんなの声。はい、見えない分味にこだわってます (シェフの弁、想像) 。

 つづいてメイン。隊長はスプーンでスイスイいただけそうなリゾット。味付けで選んだのと強調している。ふーん。そうですか。モモヨ隊員はホロホロチョウを注文。難しそうなものにも体当たりで挑戦するというのは隊員たる者の心得。骨にやや苦戦するもうまみと弾力のある肉も良し、付け合せのニョッキのなんとおいしいこと。

 が、やっぱり真っ暗でなんにも見えず。①見えないと味により敏感になる、②見えないので味が全然分からないという両極端な意見があるとの話題になる。なるほどと思いつつもモモヨには「普通に味がする」のが、ちょっと恥ずかしい。

 さて、いつものようによそのお皿からもチョイとお味見ってのをしなくては。サトー隊長の手を探しだしそこから伝って少量ながら味見に成功。少しだけ暗闇の達人になったような気がする。調子に乗ってワイン、水なども次々にみんなにサービス。どのくらい注いだのか量を知るのがなかなか難しい。

 デザートとコーヒーを終え、入ってきたときと同じように列に連なって暗闇レストランを後にする。レセプションの落ち着いた雰囲気のライトがなんと眩しかったこと。ホッとした。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) & モモヨ

レストラン 目隠しの鬼ごっこ ( Blindekuh )
住所 :  Mühlebachstrasse 148
8008 Zürich
電話 :  +41 44 421 50 50
ファクス : +41 44 421 50 55
予約 :  ほぼ毎日満席なので、必ず予約をすること。
時間 : ランチ 火~金曜日11 時30分~14 時。ディナー 月~土曜日18時30分~23時。日曜日18~23時。
メニュー : 週変わり。ミックスサラダ12.50フラン (約1250円 )、クリのスープ13.50フラン (約1350円 )、ホロホロチョウの胸肉35フラン (約3500円 )、キノコのリゾット25フラン (約2500円 )、チョコレートトリュフ8.50フラン (約850円 )
予算 : 4人でワインなども入れると300フラン ( 約3万円 )
行き方 : 2、4番のトラムの停留所Höschgasse下車。Höschgasseを上り詰めた右側の角。チャペルの建物の中。

従業員数 30人。
サービスは目の不自由な人、厨房は目が見える人が担当しているが、目の不自由な人も働く。
完全に真っ暗な状態で食事をすることを覚悟のこと。ただし、中座する人は非常に少なく、時間がたち慣れるにつれ、楽しめるようになるとのこと。
スープは両側に取っ手の付いている器なので、スプーンを使わず飲むことができる。ホロホロチョウの胸肉や魚料理などは、ナイフで切るのもフォークで刺すのも手探り状態。リゾットはフォークやスプーンですくって食べるので比較的食べやすい。
いずれの料理も、きちんとしたプレゼンテーションになっているようだが、それが見えないのは残念。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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