
スイスの気温上昇、世界の2倍で進む その理由は

スイスの気温が世界平均の2倍の速さで上昇している。なぜスイスは、特に気候変動の影響を受けやすいのか?長期データから紐解く。

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今年の6月は、スイスで1864年に気温測定が始まって以来、2番目に暑い月外部リンクだった。こうした異常気温は、欧州をはじめ米国やその他多くの国々でも記録されている。少し前まで、2025年は観測史上最も暑い年だった昨年よりやや気温が低くなると予測されていた。だが世界気象機関(WMO)が5月に発表した中期予測は、今後5年に記録が再び塗り替えられる可能性外部リンクが非常に高いとしている。
人為的な気候変動による気温上昇は、地球のあらゆる地域に影響を及ぼしている。だが一部の国では、他の国よりも温暖化が進んでいる。スイス気象台(メテオ・スイス)外部リンクによると、スイスで温暖化が進む速さは世界平均の2倍だ。2014~23年の世界の平均気温は産業革命前(1871~1900年)に比べ1.3度上昇したが、スイスでは2.8度上がった。過去30年(1994~23年)の平均も同じ傾向で、世界は1.0度、スイスは2.1度上昇した。
気温上昇で、既にスイスに住む人々や農業、景観などにも大きな影響が出ている。頻発化する猛暑は、特に高齢者に深刻な健康被害をもたらす。農作物の収穫を大きく左右する不安材料でもある。また山間部では氷河や永久凍土の融解が進んだ結果、自然災害のリスクも高まっている。
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気候変動の影響、スイスを直撃
スイスでは、2015年~2024年にかけて特に温暖化が進んだ。この期間の平均気温は、1951年~1980年の平均気温を2.3度上回った。22~24年はスイスの平均気温上位3位を2022、23、24年が占める。
国連データによると、スイスは世界で最も急速に気温が上がっている国の1つだ。また、バルト三国、ロシア、中欧、湾岸諸国もこのカテゴリーに含まれる。最も気温が上昇した場所は、氷河とツンドラに覆われたノルウェーの諸島、スバールバル諸島だった。
スイスの気温上昇、なぜ速い?
海なし国のスイスは、大量の熱を吸収する海洋の恩恵を受けられない。世界的に見ても、大陸の方が海よりも温暖化が進みやすい。
スイスの地形も大きく関係している。国土面積の3分の2を占めるアルプス山脈では、雪や氷の融解が急速に進み、地表が露わになった。色が黒っぽい土や岩などは、白い雪より熱の吸収が多いため、太陽光を反射して宇宙空間に戻す能力(アルベド)が低下した。それがスイス全体の温暖化に拍車をかけているのだ。
メテオ・スイスの気象学者オード・ウンターゼー氏は「スイスの温暖化が他国より速く進んでいるのは、山岳地帯の割合が高いことが主因の1つ」とスイスインフォに話す。
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アルプス北側で減る厳冬
スイスで全国的な気温測定が始まったのは1864年に遡る。以来、スイスの気温は全域で上昇を続けているが、特にアルプス山脈の北側で温暖化が進んでいる。その速度は南側よりも早い。
これはアルプス山脈の北側が、1940年以前までは冬がより寒く乾燥していたためだとウンターゼー氏は説明する。1940年以降こうした特徴的な厳冬は減り、アルプス南北における気温の傾向が似通ってきた。
特に北側は寒冷な状態からスタートしたため、南側に「追いつく」形になった。過去150年間で北側の気温上昇幅(3度)が南側(2.7度)を上回ったのはそのためだ。
欧州は大陸の中で最も早く温暖化
気候変動の影響を最も受けている国や地域20カ所のうち、15カ所は欧州に位置する。
欧州における昨年の平均気温は、1951年~1980年の平均より2.4度高かった。アジア、アメリカ大陸、アフリカ大陸でも、以下のグラフが示すように世界全体の傾向とほぼ同じだった。
欧州で温暖化が早く進んでいる要因は幾つかある。欧州における気候の現状をまとめたWMOの最新報告書外部リンクでは、大気循環の変化で夏の熱波が増えたことや、北極圏における欧州領土の割合が高い点を挙げている。
北極圏は世界で最も急速に温暖化外部リンクが進んでいる地域だ。極地の氷が溶けると、アルプス山脈と同様、熱を吸収しやすい黒い地表が露出し、温暖化を加速する。また、熱と風の流れが変わった結果、北極圏が温暖な空気の「吹き溜まり」になっている可能性もある。スバールバル諸島が世界で最も急速に温暖化しているのはそのためだ。
皮肉なことに、スモッグ対策が欧州の気温上昇を後押ししたとする研究者もいる。空気中に浮遊する微細な汚染粒子(エアロゾル)には、日光を遮り気温を下げる効果があるためだ。
ウンターゼー氏もその1人。スイスでは過去60年間に低地におけるエアロゾル濃度が劇的に減り、「高原で発生する霧や雲が減少し、日射量が増えた」と指摘する。
世界各地で観測された史上最高気温
上昇しているのは平均気温だけではない。メテオ・スイスが6月に発表した1971年以降の気温の推移外部リンクによると、1年で最も暑かった日の気温が50年前と比べて3.4度上昇している。
メテオ・スイスのウェブサイトによると、2003年8月にスイス東部にあるグラウビュンデン州のグローノ観測所で観測された41.5度がスイスで観測された最高気温だ。ただし当時の測定条件は現在とは異なっていた。
コスタリカの気候史家、マキシミリアーノ・エレーラ氏は「この2003年のデータは信頼できない」と指摘する。気温記録の分析に35年以上携わってきた同氏の話では、スイスの最高気温は2015年夏にジュネーブで記録された39.7度だという。
いずれにしても、スイスの最高気温は他国には遠く及ばない。イタリアのシラク―サ(シチリア島)では2021年に約49度、また米国のデスバレーでは2020年に54.4度という驚異的な気温が記録されている。
そしてスイスの気温は、今後も他の地域よりも早く上昇するだろう。スイス国民が「昔の天気」とはますます異なる気候に適応せざるを得なくなるのは必至だ。
編集:Gabe Bullard/vdv/gw、英語からの翻訳:シュミット一恵、校正:ムートゥ朋子

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