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2026年冬季五輪 招致目指すスイス

ヴァリス(ヴァレー)州の州都シオンは2006年、冬季五輪の開催地に立候補していたが、ライバルの伊トリノに敗れた。この町で今後、五輪が開催される見込みはあるのだろうか? RDB

2020年冬季ユースオリンピック開催都市がローザンヌに決定した。その喜びも冷めやらぬうちに、スイスのスポーツ関係者はさらに大規模な2026年冬季オリンピックの招致を目指して動き出した。

 ローザンヌは7月31日、マレーシアの首都クアラルンプールで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)外部リンク総会で、20年冬季ユースオリンピックの開催都市に選ばれた。ローザンヌは国際オリンピック委員会の本部所在地で、また多くの国際スポーツ連盟も本部を構えていることから、オリンピックの首都として知られる。

 大会運営予算は3千700万フラン(約47億円)と、メインの冬季オリンピックに比べかなり少ないものの、第3回となる冬季ユースオリンピックの主催地となったことはスイスにとって非常に意味深いものだ。この文化交流フェスティバルも兼ねた国際スポーツイベントでは、15~18歳の若手アスリート1200人が一堂に会する。

 スイスでこのような冬季オリンピック関連イベントが行われるのは、1948年のサン・モリッツ冬季オリンピック以来、これで二度目となる。これまで地域住民にオリンピック招致への関心を高めてもらおうとさまざまな取り組みが行われたものの、財政や環境コストに対する不安からどれも空振りに終わっていた。

 こうした中、関係者の間では、ローザンヌ冬季ユースオリンピック外部リンクがきっかけとなって、メインの冬季オリンピックの招致にはずみがつくかもしれないとの期待が広がっている。スイスが前回正式に立候補したのは06年。しかし候補地だったヴァリス(ヴァレー)州シオンは、最終的に伊トリノに破れた。

「はじめの一歩」

 スイスオリンピック協会外部リンクのイェルク・シルト会長は、今回ローザンヌが招致に成功したことで、スイスの五輪招致に展望が開けたとし、「20年の冬季ユースオリンピック開催を、はじめの一歩として捉えている」とクアラルンプールで記者団に語った。 

 同協会は今後の招致を担っており、すでにさまざまな道を模索し始めている。

 シルト会長は招致を巡るアイデアを検討するため、政治家をはじめ、同協会やIOC、連邦スポーツ省、ヴァリス州、観光分野の関係者を含めたワーキンググループを設置。11月末までに会議を3回開く予定だ。

 不動産開発業者で、サッカークラブチームFCシオンの会長を務めるクリスティアン・コンスタンティン外部リンクさんもワーキンググループのメンバーの一人で、すでに行動に出ている。ヴァリス州の26年オリンピック招致活動の先頭に立ち、14年12月には招致に向けた会社を設立。今秋にスイスオリンピック協会に報告書を提出する。

 観測筋は、タイミングからみてスイスが五輪を招致できる可能性は高いと判断する。18年に平昌、20年に東京、22年に北京と、夏季、冬季オリンピックの開催がアジアで予定されていることからも、26年の冬季オリンピックの開催地がヨーロッパになる可能性は十分にあるからだ。

 またパリ、ローマ、ハンブルクは24年夏季オリンピックの開催地に立候補しているため、この3都市が冬季オリンピックにも立候補するとは考えにくく、招致レースはそれほど厳しくならない見込みだ。

 残された時間は少ない。19年の開催地決定投票に向け、スイスは17年中には立候補を決定しなければならない。

さらにシンプルに、さらに安く

 20年ローザンヌ冬季ユースオリンピックでは、隣国フランスとの分散開催が計画されている。これはIOCの五輪改革プラン「アジェンダ2020」を踏まえたもので、同プランでは既存の施設を利用し費用を削減するなど、低コストで柔軟性に飛んだ開催計画を立てるよう、候補地に勧めている。 

 しかし今後の招致に関しては、一部の競技を隣国で開催するか、スイス国内のみで開催するかを決定するには時期尚早であると、招致を目指す関係者たちは言う。

 前出のコンスタンティンさんの会社でプロジェクト・マネジャーを務めるグレゴリー・サウダンさんは、「招致計画はヴァリス州主導で進められているが、スイス国内(ヴォー州、ベルン州、グラウビュンデン州)にある既存のインフラ施設の利用も計画に含まれている」と話し、次のように続ける。

 「我々はヴァリス州と連携しており、『アジェンダ2020』に即して他州の施設の利用を考えている。近くに既存のものがあるのであれば、わざわざ州内にリュージュ用の滑走路やスキーのジャンプ台を新設することはない。また必要数以上のスケートリンクを設置することもない。シオンから1時間の場所にあるローザンヌの新しいスケートリンクも利用できる。観客収容規模は1万人だ。」

 ローザンヌ大学行政学大学院の教授で、06年シオン冬季オリンピック招致委員会の常任理事を務めたジャン・ループ・シャペレさんは、今は多くのアイデアが飛び交っていると説明する。

 「オリンピック招致の問題は開催計画や利用施設に限らない。市民からの賛同を得ることが難しいのだ」

市民からの反対

 前回の立候補でも招致推進派は地元からの反対にあった。グラウビュンデン州では13年、22年冬季五輪に同州サン・モリッツとダボスを候補地とするか否かを巡る州民投票で、反対が過半数を上回った。その主な理由は、財政問題だった。

 7月31日に行われたIOC総会では、北京がカザフスタンのアルマトイを破り、22年の冬季オリンピックの招致を勝ち取った。しかしその招致レースに参加したのはこの2カ国のみだ。大規模施設の建設や開催にかかる費用への懸念から招致反対の声が高まったヨーロッパの都市は、次々に立候補を断念した。

 スイス、ドイツ、ポーランドは招致を巡る住民投票で反対が過半数を上回ったため立候補を取りやめ、またスウェーデン、ウクライナ、ノルウェーも十分な住民のサポートが得られず招致を諦めた。

 大規模イベントに詳しいチューリヒ大学のマーティン・ミュラー教授(地理学)は、スイスには大きな障害が立ちはだかっていると話す。

 「グラウビュンデン州の住民は20年冬季五輪の招致を否決している。『アジェンダ2020』で開催地への要求を下げ、IOCが他都市との分散開催を歓迎する姿勢を明らかにしない限り、26年の招致が可能になるとは思えない」。ミュラー教授はまた、ヴァリス州は有力候補地だが、そこでも開催を巡り住民投票が行われると見込んでいる。

 前出のシャペレさんもまた、スイス国民が冬季オリンピックを再び受け入れる構えがあるとは思っていない。06年にはスイス人の8割がシオンの立候補に賛成していたが、現在、スイスでオリンピック招致を支持する人は5割にも満たないからだ。

 「オリンピックのような大規模なイベントの開催を疑問視する声が多いのが現状だ。コミュニケーションや説明を丁寧にし、透明性を上げれば、招致熱を上げることは可能だ。しかし、冬季オリンピック開催にこぎつけるまでには、長い時間を要するだろう」(シャペレさん)

スイス冬季オリンピック

冬季オリンピックは1928年と48年にサン・モリッツで開催された。

スイスでは近年、多くの都市でオリンピック招致が不成功に終わっている。最も大きな失敗として、06年冬季オリンピック招致でトリノに敗れたヴァリス(ヴァレー)州シオンが挙げられる。

グラウビュンデン、ベルン、チューリヒ、ローザンヌ、またジュネーブでの招致活動は住民の賛成、もしくはスイスオリンピック協会の協力を得られずに失敗に終わっている。

ユースオリンピック

ユースオリンピック競技大会は夏季と冬季に分かれ、4年ごとにそれぞれ開催される。冬季大会の第1回は2012年にインスブルックで開催され、第2回は16年にリレハンメルで開催予定。夏季大会は10年にシンガポール、14年に南京で開催され、18年にはブエノスアイレスでの開催を控えている。

ユースオリンピックは1998年、子どもの肥満と若者のスポーツ活動への参加率低下が特に先進国で深刻になっていることを受け、創設された。

冬季ユースオリンピックは15~18歳の若者のための、メジャーな国際スポーツイベントかつ文化交流の場だ。ローザンヌ大会の運営予算は3千700万フラン(約47億円)で、そのうちの3分の2は連邦当局が負担。およそ1200人の若手アスリートとその家族が参加する予定。

競技種目は7種目で、ローザンヌ(アイススケート、アイスホッケー)、ヴォー州アルプス(滑降、スノーボード)、ジュラ山脈ジュー渓谷(クロスカントリースキー)で分散開催される。フリースタイルスキーはフランス近くのレ・トュフで行われる。

(英語からの翻訳・編集 大野瑠衣子)

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