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クレディ・スイスのゴールに糾弾

クレディ・スイスが用意した20万個のサッカーボールの1つにサインをするスイス代表チームのケビ・クーン監督 swissinfo.ch

スイス第2の大手銀行、クレディ・スイスがスイスの子どもたちに無料で配ったサッカーボールは、国際的に労働を認められていないパキスタンの児童が作っていたことが報道された。

クレディ・スイスは4月22日、契約企業との申し合わせにもかかわらず、こうした事態に至ったことを深刻に受け止め、ユニセフ ( Unicef ) に100万フラン ( 約1億円 ) を寄付すると発表した。

 4月16日、クレディ・スイス( Credit Suisse )の183の全支店で、合計20万個のサッカーボールが配られた。スイス代表チームのケビ・クーン監督、アシスタントのミシェル・ポン氏、そしてハカン・ヤキン選手が、いくつかの支店で赤とグレーの配色のサッカーボールにサインをした。全国規模で行われたこのキャンペーンは、6月にスイスとオーストリアが共催する「EURO2008」を盛り上げるために、クレディ・スイスとスイスサッカー協会 ( SFA ) が共同で行ったプロモーションだった。

「厳しい義務」

 しかし、同日夜、スイスのテレビのニュース番組「10時10分前 ( 10 vor 10 ) 」が、それらのボールはパキスタンの村で製造され、村人たちにはボール1個あたり0.39フラン ( 約40円 ) と地元の賃金相場の半額程度しか支払われなかったことを報道した。またボールの製造には子どもたちがかかわっていたことも伝えられた。
「私たちはたくさんのボールを縫いました。男も、女も、子どもも、私たちの村の誰もがこの仕事をしました」
 と村の男性が語った。

 一方、クレディ・スイスの広報担当マティアス・フリードリ氏は、クレディ・スイスが人権と正当な労働条件の遵守を支持していることを強調した。
「国際市場向けにパキスタンでサッカーボールを製造している企業の中には、有名なスポーツ用品会社もたくさんあります。その中から1社を選択するにあたって、われわれは、スイスの契約企業に厳しい義務を課しました」
 と述べた。スイスの契約企業とパキスタンの製造会社は、国際労働機関( ILO ) 、国連人権宣言、国連グローバル・コンパクトの自主行動原則、経済協力開発機構 ( OECD ) の対多国籍企業ガイドラインで定められた基準にのっとった規範に従わなければならないはずだったとフリードリ氏は説明した。

 それらのガイドラインは、職場での健康と安全、そして生活を保障するために十分な賃金と、過度ではない労働時間に焦点を当てている。それらはまた、環境に対する責任を負うことを奨励し、環境に優しい技術の開発と普及をサポートするものだ。フリードリ氏は、これらの条件をパキスタンの製造会社が守っていたという確認を、クレディ・スイスは口頭と書面で何回も受け取ったと述べた。しかし、「現在の情報では」、その製造会社が「IMAC ( 児童労働を監視する国際的独立機関 ) 」と連絡を取ったり、調査を受け入れたことはないと認めた。

 EURO2008で公式に使用されるサッカーボールを製造するスイス企業「トラモンディ社 ( Tramondi ) 」はクレディ・スイスのキャンペーンとは全くかかわりがない。同社のマネージャー、ペーター・ムシャ氏は、このニュースを「スキャンダル」と評し、サッカーボールの納品時に問題が無かったのかどうか疑問視している。ムシャ氏は、児童労働と正当な労働条件調べるための抜き打ち検査が、トラモンディ社のパキスタン工場でいつ行われても構わないと語った。

企業の責任

 先月、ドリス・ロイタルド経済相が、人権擁護は政府だけの課題ではなく、企業もビジネスと人権に関して自らの責任を率先して果たすようスイス企業に呼び掛けた。

 人権問題に関して敏感になっている企業が増えており、3500以上の企業、団体が国連のグローバル・コンパクトを受け入れた。この中には51のスイス企業と団体が含まれている。しかし、非政府組織 ( NGO ) は、グローバル・コンパクトのリストにあるような原則は拘束力が無く、達成が難しいと指摘する。

 また、ほかのヨーロッパ諸国にあるような、民間企業にアドバイスをするための独立した国立の人権機関を設立するなど、ほかにもやるべきことがあるとする声がスイス国内で挙がっている。

swissinfo、トーマス・ステファンズ 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

流通サービス会社の「アンタリス・ソリューションズ社 ( Antalis Solutions ) 」は、20万個のサッカーボールの運搬、空気注入、クレディ・スイスの183の全支店への配送を請け負った。

クレディ・スイスによると、品質管理を行う国際的な機関の厳しい監視のもと、サッカーボールの旅は、製造地のパキスタンから始まった。

コンテナに積み込まれた4万2500個のボールを乗せた貨物船が、8日ごとにカラチ港から出発し、ハンブルグまでの1万500キロメートルの距離を5週間運航した。

ハンブルグに到着後、サッカーボールは貨物列車で国境を超え、アールガウ州 ( Aargau ) まで運搬された。

1. 国際的に宣言されている人権の擁護を支持し、尊重する。
2. 人権侵害に加担しない。
3. 組合結成の自由と団体交渉の権利を実効あるものにする。
4. あらゆる形態の強制労働を排除する。
5. 児童労働を実効的に廃止する。
6. 雇用と職業に対する差別を撤廃する。
7. 環境問題の予防的なアプローチを支持する。
8. 環境に関して一層の責任を担うためのイニシアチブをとる。
9. 環境に優しい技術の開発と普及を促進する。
10. 強要と賄賂を含むあらゆる形態の腐敗を防止するために取り組む。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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