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ライフ&高齢化

スイスで自殺ほう助がタブーではない理由

安楽死を求める多くの外国人はスイスにやってきて、自殺ほう助団体の助けを借りて自らの命に終止符を打つ。スイスでは一定の条件下で自殺ほう助が合法化されている。 

Corinna Staffe(イラスト)

2014年、スイスの元連邦議会議員ティス・イェニーさんが、自殺ほう助団体エグジットの助けを借りて命を絶った。末期の胃がんに侵された上での決断だった。スイス公共放送(独語圏・SRF)は彼の最期の数週間に密着。自殺ほう助はセンシティブなテーマだが、イェニーさんの選択に批判は起きなかった。むしろ賞賛と同情の声が挙がった。 swissinfo.ch日本語編集部は2020年末、この映像全編(20分)を日本語字幕付きで配信した。

スイスでは毎年1千人近くが自殺ほう助により命を絶っている。エグジットの年報によると、最も多いのががん患者だ。

エグジットでは「自殺ほう助ヘルパー」と呼ばれる人たちが、医師の代わりに致死薬を患者の元へ届け、遺族の心のケアに当たる。ヘルパーの多くが看護・介護分野で働いていた退職者だ。

ジュネーブ大学のサミア・ハースト・マジノ教授(倫理学)は、自殺ほう助がスイス国民の間で広く受け入れられている理由について「スイスではこういう選択肢が存在し、必要であれば使うことができるのだということを、私たちは良く知っている。また、それが安心を生むのだ」と説明する。 

住民投票や世論調査の結果によると、スイス有権者の過半数が自殺ほう助を支持している。チューリヒ州では2011年、保守政党が提起した州外・国外居住者の自殺ほう助を原則禁止する「自殺ほう助ツーリズム禁止イニシアチブ(住民発議)」の住民投票が行われたが、大多数の反対で否決された。スイス連邦政府はそれから間もなく、国としては自殺ほう助団体を規制しないと発表した。スイスの法的規制が十分でないと欧州人権裁判所から批判されていたにも関わらずだ。

ハースト・マジノ教授は、自殺ほう助はずっと以前から合法化されており、国民の間で「乱用はされないだろう」という信頼が十分に育っているからではないか、とみる。「精神障害があれば予防機関に紹介され、ほかのあらゆる手段を検討する。そうして初めて、合理的な自殺願望を持つ人に、最後の手段として自殺ほう助が認められる」。そんなプロセスが関係機関の間できちんと行われているとスイス人は信じているからだという。 

20世紀の初め、スイスは他の多くの国と同様、自殺を合法化した。そこで1つの「空洞」が生じた。それは、自殺の遂行に第三者が関与した場合はどうなるか、ということだ。同教授は「自殺が犯罪であるなら、それを手助けするのは共犯になる。だが犯罪そのものが存在しなければ、共犯も成立しない」と説明する。 

このため、スイスでは「利己的な目的で」自殺を手助けした場合は違法とする、という結論に至った。ハースト・マジノ教授によると、例えば自分に経済的に依存している人、遺産を相続する相手の自殺を手助けした場合と違法とし、「そのような利己的な動機がなければ、自殺を手助けすることは犯罪ではない」とした。 

医師が薬物を患者に注入するなどして死に至らせる積極的安楽死、あるいは医師が処方した薬物を患者本人が服用して自死する自殺ほう助は、ほとんどの国で禁止されている。

スイスは国外在住者の自殺ほう助を受け入れる団体がある、世界でも極めて珍しい国だ。このため、国外から死を求める人たちがやってくる「デスツーリズム(安楽死の旅)」が起こった。 

国外居住者を受け入れる自殺ほう助団体では最大の組織「ディグニタス」によると、会員の9割以上がスイス国外に住む(2019年)。 

日本でも安楽死や自殺ほう助は認められていない。神経性の難病を抱える20代の日本人女性は2019年秋、スイスの自殺ほう助団体から自死する許可を得た。女性は、死に直結する病気ではないが生活の質(QOL)が著しく低い患者にとって「いつでも死ねる権利」は逆に「人生を豊かにするためのお守り」にもなるーと語った。 

不治の病ではないが、人生に疲れたという理由や精神疾患を抱える人に自殺ほう助を認めてもいいのか。スイスではこうしたケースがたびたび議論になる。この場合、医師が致死量の薬物の処方箋を出すことは少ない。 

スイスの自殺ほう助団体は、終末期でない患者や人生に疲れた人にも門戸を広げようとしている。 

一部の団体はさらに踏み込み、議員への働きかけ、宣伝・広報活動を通し、国外での自殺ほう助合法化を後押ししている。その理由は、世界中で自殺ほう助が合法化されれば、スイスにまで来て安楽死をする人がいなくなるからだという。 

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